査問会
「だから!なぜあんな事をしたのだと訊いているんだ!」
「うるさいな。怒鳴らくても聞こえていますよ。それにさっきも言ったでしょう?
向こうの世界の人に雇われたんですよ」
「勝手に受けるのはフェンリルのルールでは禁じられているだろうが!」
「その場で判断するしかない場合は、現場の者の判断が優先される。そう書いてあるでしょう?」
「ぐっ!」
この人はどうもうるさいな。前のアメリカ支部長はここまで短気じゃ無かったってのに。今は皇宮の会議室の一室で査問会を行っている。
まあ、査問会とは名ばかりの俺の立場を判断するための場所なんだが。周りは俺の知り合いの爺たちばっかりだ。だけど新顔であるこの人がさっきから喧しいんだよ。面倒だな。
「だが、君は連絡も入れなかったそうじゃないか。その所はどうなのかね?」
「あなたは気絶して眠っている人間に、連絡を入れろと仰るのか?それはそれは。
頭おかしいんじゃねえの?あんたには用は無い。新顔は新顔らしく静かにしてろ」
「……もう終わったか?」
「俺からは終わったよ。さて、俺はこの任務を受けた事で報酬としてとある情報を持って帰ってきた」
「ほう、その情報とは?」
「現代魔術の基礎データ、及び現段階に記録されている魔術。以上だ」
その場がどよめいた。そりゃそうだ。今までその仕組みも分からなかった物のデータを持ち帰ったと言うんだからな。
「それを裏付ける物的証拠は?」
「これだよ。ざっとだが、ちゃんと中身は確認してきた」
「ふむ、ちなみに製作者の名前は?」
「俺の叔父の雨宮莞爾と、世界大会に出ていた城宮貴也君の父親である城宮耀さんだ。耀さんの方はすでに故人だが」
「そうか……。うむ、これは大きな収穫だな。後でメディアに発表するとしよう。それと慎也、お前にはもう一つだけ仕事を受けてもらう。それで今回の件は不問とする」
「へえ、気前が良いな。それでその仕事っていうのは?」
「それは僕が説明しよう」
声の方を向くと、いやもちろん声で誰かは分かっているけど白竜様と真由美、それに花蓮がいた。
「仕事っていうのはね、始祖龍の討伐だ」
「は?始祖龍は龍で言う神のような存在でしょう?それを討伐してしまったら、龍種の存続が危ういのでは?」
「始祖様はすでにもう駄目だ。孤独はその者を絶望に誘う。始祖様は、自分の創り上げた龍種を滅ぼす気だ。そのような事を認める訳にはいかない」
「だから、殺すのですか?申し訳ありませんが、俺一人では始祖龍の討伐などとても無理ですよ」
「もちろん各竜王が協力する。それに、素材は持ち帰っても構わない」
「もちろん、それでしたら断るような事は致しません。他でもない白竜様の依頼ですから」
「そうか、ありがとう。それでは、何時が良い?」
「出来れば数日ほど時間をください。三日から一週間ほど」
「分かった。では一週間、時間を上げよう。それで十分かい?」
「はい。ありがとうございます。査問会はこれで終わりだよな?」
「ああ。もう帰っても良いぞ」
「はいよ。それじゃ、戻るとしようか。二人とも」
二人は黙ったまま、俺の後を付いてきた。どうしたんだろう?