生徒達と模擬戦
「それでまた、どうしてこうなるの?」
「何言ってるんですか。いいでしょ?別に減るもんじゃないでしょ」
「減るけどね!?俺の魔力とか色々な物が!」
あの後、城宮君の教室まで付いていくとそこには結構な魔力を持った子達がいた。そして再会を喜んでいる所を見ていると、俺に唐突に挑んでくる生徒がいた。
「あの、俺と闘ってくれませんか?」
「一応訊いておくけど、君は?」
「あ、すいません。俺は天条樫次と言います。現代魔術の一派の次期党首です」
「ほう?そりゃ面白そうだね。俺は別に構わないよ?精々足掻けるだけ足掻きなよ」
「ありがとうございます」
「え!何それずるい!慎也さん、私も良いですか?修行の成果見て下さいよ!」
このセリフを皮切りに、教室中からじゃあ私も!という声が多発。今じゃほぼクラス全員が俺の目の前に立っていた。
「それじゃあ、皆準備は良いかい?」
「大丈夫です」
「そんじゃ、試合開始!」
城宮君は審判。参加したげだったけど、無理やり止めた。さすがにこれ以上増えるのは避けたい。大体、これでも結構無理してるって言うのにこれ以上はとてもじゃないが無理だ。
「はあ、こりゃ多いな。小隊戦形式にしといて正解だったな。さてはて、相手も面倒だな。よし、これで行こう。全てを零へと還せ『最終元素』」
俺は右手に白の手袋を現界させて、飛んできた魔力の球の数々を消し去った。相手が驚いてる間に、魔力で作った衝撃波を放って脳震盪を起こして気絶させた。
でもやっぱり一筋縄ではいかなかった。竜美ちゃんが魔力で壁を作って阻んだらしい。まだ立っていた。面倒くさいなあ。
「祖は全てを貫く光槍!我が敵を撃ち抜け!『メタトロン』!」
鋭い光が飛んできたが、俺はそれを現界させた「最終元素」で受け止めて消し去った。うん、前見たよりは術も洗練されてるし強くなってるみたいだね。
「でも、甘い。それにメタトロンの術式はそれじゃない。
汝は神の代理人なり。汝が持ちし炎の柱を用いて我が敵を焼き尽くせ!『メタトロン』」
俺の左手からとんでもない熱量の炎が噴き出し、目の前にある全てを焼き尽くさん勢いで放たれた。
え?そんなことしたら火事になるって?大丈夫だ。言い忘れてたけど、ここは演習で使われる場所らしいから外にあるんだ。
竜美ちゃんは炎を何とか受け止めきったが、魔力の使い過ぎでふらふらになっていたので、さっきの衝撃波を撃って気絶させた。ま、効力は二十分がせいぜいなんだが。
しっかし、最初のメンバーでこれだけって後が大変じゃねえか。ああ、本当に面倒だなあ。
「さて、後どんだけ残ってんだ?」
「ええっと、これで最後ですね。一チーム六人編成でもう五試合しましたから。うちのクラスは三十二人でしたから、残りは二人ですけど」
「ふーん、それで君たち準備は良いかい?」
残りの二人は俺に名乗ってきた天条君と桧原さんだったかな?この二人が相手だった。この二人は俺が、感じた数少ない魔術師の一人だった。
「「大丈夫です」」
「そうかい。そりゃ結構だな。さあ、さっさっとかかってこいよ」
「其は焔。全てを焼き尽くす炎獄の元に我が全てを薙ぎ、祓いたまえ!
『天神炎獄』」
「汝は雷。我が敵を葬り、全てを灰塵すらも残らぬほどの大地へ帰せ!
『雷霆葬送』」
『ムスペルヘイム』に匹敵するほどの大火力と『ライトニング・ジャッジメント』と同等の出力の雷がこちらに迫ってきた。
そして俺に当たり、とんでも無い量の爆発を誘発した。俺が何もしなかった事に慌てているのが空気で分かる。
「いやあ、これはこれは。さすがにこれ位は出るか。面白いな」
「「!?」」
「おいおい、これ位で驚いてもらっちゃ困るぜ?ま、いいけどさ。そして君たちに見せてあげよう。本当の魔術という物をな」
――――汝は光。
これはまずいと肌で理解したのか、また新たな術式を練り始めた。無駄なんだけどな。
――――総てを裁きし断罪の光を持ちて
――――全てを原初の世界へ帰す。
――――全てを始まりへ。『始まり』という名の『終わり』へと導け。
――――断罪光!
「その全てを無へと帰せ。『最終元素』」
俺は放ちかけた術を強制的に最終元素で解除した。危なかった。
今の放ってたら、ここから三十キロ四方が吹っ飛んでたわ。おい、勝手に俺の身体を操るんじゃねえよ。いくらこんな異世界で強い子に会えたからってさ。
『まあいいではないか。お前も面白かっただろう?』
そういう問題じゃないっての。二人の方を向くと、放心したような顔で俺を見ていた。ありゃ、やっぱりちょっとやり過ぎたかな?
「二人とも、大丈夫か……」
「あ、あの!」
「へ?」
「今の、どういう術なんですか!?あんな術は生まれて初めて見ました!」
「そりゃ見てたら怖いよ」
三十キロ四方を吹っ飛ばす魔術だからな。初見の時こそ死ぬ時だろう。
「名前を教えてもらっても良いですか!?」
「構わんから落ち着け。冷静な心を失った魔術師に残されるのは死だけだぞ」
「あ、すいません。じゃ、じゃあ食堂で話してもらっても良いですか?」
「あ、ずるい!私にも教えてよ、乾さん!」
すると教室の二の舞とばかりに皆が騒ぎ出した。仕方ないので思いっきり地面に足を叩きつけた。すると皆の騒ぎがぴたりと止まった。
「俺は聖徳太子じゃねえんだから騒がれても分からん。竜美ちゃんはまた後で教えてやるよ。
どうせ後で叔父さんに会いに行くしな。それじゃ、食堂だっけ?」
「あ、はい。案内します。俺に付いてきて下さい」
そして俺達は、天条君先導の元食堂に向かって歩き始めた。