談話
光が収まって周りを見回すと、そこは普通の住宅街だった。変哲もないが、平和を感じる。そんな空気の住宅街だ。そして目の前の家の名前には『城宮』と書いてあった。
「帰ってこれたんだ……。本当に戻ってこれたんだ」
「よかったね。それでどうするの?すぐ帰るの?」
「まさか。俺はもう一個用事があるんですよ。城宮君、この辺りに雨宮さんっているかな?」
「え?うちの隣ですよ?ほら、あそこ」
城宮君が指をさした先を見てみると、そこには『雨宮』という名前が書いてあった。
「マジかよ。ま、それなら後回しでいいか。取り敢えず君の家族の人に挨拶しとこうか」
「え?いいんですか?」
「あのね、君の親御さんから見れば君の安全が大事なんだから当たり前でしょ。
っていうか家に居るのかい?いないんだったら後でもいいけど」
「いえ、いると思います」
俺がインターホーンを押すと、ピンポーンという間抜けな音が鳴り響いて少し待つと扉から苦労しているのがわかる女性が出てきた。
「はーい。って……貴……也……?」
「……うん。ただいま、母さん」
城宮君がそう言うとその女性、っていうか城宮君のお母さんは無言で城宮君に抱きついて泣き始めた。内心不安だったんだろう。
いきなり息子にいなくなられて、怖かったんだろう。それだけに元気で戻ってきた姿を見るのは、嬉しい事なんだろう。
それがわかるだけに、俺はずっと黙ってこの二人の親子を見守っていた。しばらくすると、立ち直ったのか俺達を家の中に招いてくれた。
「あの、名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あっと、これは失礼しました。俺は乾慎也と申します。こちらは神崎真由美さん。そして最後に一花花蓮さんです。この度は早く帰す事が出来ず、申し訳ありませんでした」
「いえ、帰ってきてくれただけで、私は安心しています。連れてきて頂き、ありがとうございました。あの、それでこの子はどこにいたんですか?」
「申し上げにくいんですが……異世界、と言ったら信じますか?」
「……なるほど。またどうしたらそんな所に行くのやら、分かりませんね」
城宮君のお母さんは、予想外に簡単に信じてくれた。あれ?異世界人ってメジャーなのかな?
「此処の住宅街は魔術師が住んでいますので。私の夫もそうでした。ですから今更異世界やらなんやらで驚く気にはなれませんね」
「それはそれは。うちの世界でも魔術はメジャーですけど、それなら信じられるでしょうね」
「貴也、あんたちょっと学校に行って皆に安全を伝えてきなさい。みんな心配してたのよ?特に竜美ちゃんが」
「竜美が?……うん、わかった。あの、申し訳ないんですけどついてきて貰っても良いですか?」
城宮君が何を言ってるのか、ぶっちゃけわからない。日本の治安は世界でも高い方なのに、何を心配する事があるんだろう?
「うん?なんで?学校の位置を忘れてる訳じゃないだろ?」
「そうですけど。でも心配させたんだから、という理由で無理難題を吹っかけられそうな気がして……。お願いします!」
「あはは。いいよ。もしかしたら会えるかもしれないな。結構久しぶりだけど、どうしてるかな?」
「え?何か言いました?」
「いや?何でもないよ。それじゃあ、行くとしようかな。二人はどうする?」
「「ついていきます」」
「OK。それじゃ、行こうか」
『竜美ちゃん』は元気にしているかな?俺の体感時間だと五、六年経ってるんだけど。久しぶりだ。俺の事を覚えてるかはわからないけど。