本戦最終日・エキシビションマッチ
「それではこれより、一桁数字の第一位一花花蓮選手VS本戦優勝者乾慎也選手のエキシビションマッチを始めたいと思います!」
「「「ウオオオオオォォォォォォォオオ!!」」」
午後になって俺達は試合会場に居た。今回も今までどおり、魔法陣で移動すると思ったらそうじゃないらしく特別ステージに移動した。
「さて準備は良いですか?」
「私はいつでもオッケーだよ?それよりもさ、賭けしない?」
「賭け?何を賭けるんです?」
「そうだね……。私が勝ったら名前で呼んでもらおうかな?」
「そんだけでいいんですか?それじゃあ、俺の分は無しでいいんで城宮君を元の世界に返すのを手伝って下さいよ」
「別に構わないよ?それにしてもこれでお別れか、なんだか来る物があるよね?」
「そうですね。でも、試合否戦いには集中して下さいよ?」
「もちろんだよ。そっちこそ小手調べとかは無しにしてよ?」
「分かりましたよ」
「それでは両者準備はよろしいですね?」
「ああ」「ええ」
「それでは試合開始!」
「「最大接続!最大同調!」」
俺は先程の試合より洗練された形の鎧を纏い、一花さんは黄金の衣とモノクルを掛けていた。
「じゃあ、開幕そうそうなんだけど、いかせてもらうよ」
――――汝は絶対必中の神槍なり。今我が下に顕現し我が敵を撃ち抜け。神槍!
空間を割いて現れたのは一本の槍だった。だが、その穂先にはルーン文字が刻まれていた。その術式によってどこまでも追いかけ相手を貫く。
「行きなさい。我が宿敵、神喰狼を――――射ぬけグングニル!」
車が猛スピードを出したかのような速度で俺に迫ってきた。さすがにこれを完全に回避するのはキツイな。どうしようかな?
「それがどうした!総てを喰らいし神狼よ、汝が牙の力を我に!『フェンリスヴォルフ』!」
俺は背を反り返して槍をかわしつつ、右拳で槍の穂先を殴った。すると、神槍に刻まれていたルーンが消えて無くなった。そりゃもうあっさりと。
だけどその事に対して、一花さんは驚きもしなかった。そりゃそうだ。これは前に俺が暴走した時に開発した対神槍用の技なんだから。
「前は暴走してた時に使ってたよね。あの時はさすがに一人じゃ勝てないと思ったよ」
「あれは完全に俺の身体の限界を無視して、神喰狼が動かしてましたからね。あれから数日は全然動けませんでしたよ」
「数日で済んだなら大した物でしょ……。あれで結構な被害が出たんだからね?」
「世界最強の呼び声の高いあなたを含め、二木さんと三橋さんの三人がかりで俺は攻撃されたんですけどね!?」
「仕方ないじゃん。あなたは一応『神喰らいの魔物』なんだから」
「それでもあれはひどかった。なんせ三橋さんに吹き飛ばされ、二木さんに雷霆をぶつけられ、貴方に神槍を当てられる。悪夢のようでしたよ」
その後キチンとした処置を施されていなければ、ぶっちゃけ死んでいたと思う。治療班の人には感謝の気持ちで一杯だよ。
「それじゃ今度はこちらが行かせてもらうとしましょうかね。
汝は雷霆。あらゆる者を射抜き、我が前に骸を作り上げよ!――――ケラブノス」
「!?」
俺の掌の先に雷が集まり、その色はどんどん紫色になっていった。そして限界まで収束させきったそれを一気に放った。
一花さんが驚くのも無理はない。これは本来二木さんの技だ。誰にも真似する事が出来ないギリシャ神話の天空神の技だ。
「その雷霆を貫き破壊しなさい!『グングニル』!」
まあ、その攻撃も至極あっさりと破壊されてしまった訳だが。これを再現するの結構大変だったんだけどなあ。それでも驚愕だったのかしばらくは攻撃してこなかった。
「どうして?今のは魔力じゃなかった。確かに神力で構成されていた」
「そりゃ、雷神の力を使ってますからね。構成されてなきゃおかしいですよ。
それに俺達に停まっている時間なんかありませんよ?」
俺は瞬時に一花さんの懐に入ると、右ストレートを叩きこんだ。が、神力で瞬時に防御陣を構成されて防がれた。ちぃ、おしかったな。
「それならこうするだけだよ!
数多の神槍よ!今我が敵を撃ち抜け!――――グングニル・フェルベン!」
「ざっと二十本ぐらいかな?だけど、それがどうしたっていうんです?」
俺は瞬時に動いて、総ての槍の穂先を殴った。それだけでグングニルは力を失い落下してきた。もちろん、下には一花さんがいる。
まあ、当たり前というか簡単に弾かれたんだけど。そしてまた膠着状態に持っていかれた。いったいどうやって打開しようか?
そこからはほぼずっと平行線だった。どんな攻撃をしても対応してくる所為で、どんな攻撃も効かないんだから仕方ないだろ?
「氷結の世界よ。今その力を現界させ、この世界を飲みこめ。『ニブルヘイム』!」
「灼熱の世界よ。今その力を限界させ、この世界を焼き尽くせ。『ムスペルヘイム』!」
俺は氷を。一花さんは炎の術をぶつけあった。急激に空気中の温度が変化したため、霧が発生した。俺はこれを狙ってたんだがな。
「全ての者を凍てつかせる悠久たる大地よ。今我が敵を深き眠りに誘え。『コキュートス』!」
俺の放った術は水系統最強の術である『コキュートス』だ。この術は一気に零下三十度を超える勢いで空間を凍らせる。
この術を壊すには、圧倒的な魔力をぶつける或いは炎系統最強の『ラグナロク』をぶつけるしかない。
だけど、そんな事をすればただでは済まない。ダイナマイト二十個分ぐらいの爆発が起きるんじゃないかな?俺は鎧だからまだ大丈夫だけど、一花さんは神力を帯びているとはいえ、ただの布だ。耐えきれる訳が無い。
俺はそう確信し、霧が晴れた所で結果を確認しようとすると、そこには驚きの結果が待っていた。
「なっ……!?神槍を身代わりにするだと!?」
「君の策は面白かったよ。でも、それもここでフィナーレだよ!
汝、絶対必中の神槍よ!我が敵をその無限の槍にて討ち貫け!
『グングニル・インフィニティア』!」
「ってなんて数だよ!?」
俺がざっと確認しただけでも、三百本以上あったぞ!?無限の名を冠するだけはあるな。この場ではめんどくさい限りだがな!
「光と闇交わる時、そこには『無』があるのみ。全てを呑み尽くせ!虚無!」
俺は『虚無魔術』で何とか喰らいまくった。ちなみにこの術で喰らった物は何でもかんでも魔力に変換される。俺の魔力回復も兼ねてるんだよね。この行動は。
でもやっぱりそれでは間に合わなかった。まず両足の甲に当てられて、動きを制限された後に腕・肩・太もも等etc。
俺が鎧の中で喀血すると同時に、一花さんは神力で作り上げあげた神力の塊を槍状にして俺に飛ばしてきた。もちろん俺が動ける訳もなく。
腹の辺りに直撃すると、俺はそのまま場外まで浮き飛ばされた。そこで試合は終了。長かった十日間の日程は、一花さんの勝利によって幕を閉じた。
え?その後俺がどうなったかって?そりゃもう分かりきってるでしょ。魔力とは血に含まれる成分だから、使いすぎた所為で血が少なくなってる所に、体中を槍で刺されたから血が圧倒的に足りなくて死にかけたよ。あっはっはっは。
まあ、そのあと笑い事じゃないでしょ!って真由美さんと明美に怒られたんだけど。痛かったしすげえ怖かった。今まで一番の衝撃だったね。