本戦五日目(2)
最終試合、相手は九条VSケルト神話の光の神『ルー』を宿すフレンヴィル・ラインズ君だった。ルーの武器はあの有名なブリューナクだ。
「どっちに軍配が上がるかな?」
「微妙なんだよな。ブリューナクはどこまでも長い射程が売りだ。でも、それも多分役に立たないし。かといって九条の騎士団はどうか、と言われればこれもまた微妙だし。
はっきり言ってあの騎士団は、足を破壊すればどうという事はない。まあ腕で這ってこっちに来る辺りは不気味だけど、所詮その程度だ」
俺は重力でほとんど叩き潰したが、別にそんなことしなくても対応策はいくらでもある。ジェルザなら砂鉄で足を縫い付けておくとかだ。
それでも無理やり動こうとするからな。あの騎士団の実力は術者の能力と同じかそれ以下だ。だから数を多く呼べば良いってもんじゃない。
そういう明確な弱点も存在する訳だけど、あの人はどう突破してくるのかな?ついでのようで悪いのだが、明美は負けてしまった。ぎりぎりで惜しかったがな。
「あ、始まりますね。九条さんはわからないですけど、ラインズさんは凄かったですよ。空間魔術で一気に距離を離した後、ブリューナクを連射ですからね」
「ブリューナクは一応武器の一種なんだが。あれってそう大量に作れるのか?」
「あれは魔力で形成されてるからね。でも遠距離からの連射か……。当たったらどう対応するか考えておかないと」
「その前に俺に勝つ事を考えておけよ。あの人の前に俺と当たる事になるんだし」
「そりゃあもちろん考えてるよ。それでも、だよ」
「考えてるなら構わないが。……お、早速騎士団の登場か。数は……十五体ぐらいか?」
「そうだね。正確に言うなら十三体だけど。それにしても鎧の形がちょっと龍っぽくない?」
「そりゃあ、あの家の紋章は龍だからな。確か黄龍だったかな?」
「五行思想ですか?」
五行思想ってのは、自然哲学の思想の事だ。万物は木・火・土・金・水によって構成されているという思想。それによって相克だとか相生だとかが存在する訳だが。今説明する気ないし。
黄龍ってのは土に分類される。土が表すのは季節の変わり目の事だ。それにしても、九条はこの技一つで今の地位に駆け上ったらしい。そこまで強いとは思えないんだけど……。
ラインズ君は空間魔術で五百メートルぐらいかな?まあそんぐらい後ろに下がった後、ブリューナクで掃射し始めた。うわ、どんどん倒れていくよ。
「これさ、ちょっと一方的じゃない?」
「大丈夫だよ、慎也。九条の実力はここからだから」
「ふうん……。ってあれ?なんか足が直ってきてないか?」
「そう。魔力を注ぎ込むことで体を直す事が出来る。しかも……」
ラインズ君がもう一度ブリューナクで掃射しようとしたが、今度は完全に弾かれた。そうか学習機能か……。何度でも立ち上がる騎士団に学習機能。なるほど。
分かった気がする。何故九条が一桁数字の地位に至れたのか。さてもっと楽しませてくれよ。一体これからどんなふうになるのかな?
ラインズ君は魔術も混ぜ込みつつ、ブリューナクを絶えず連射し続けた。高威力の術を持っていないのか、当たっても騎士の連中の鎧に穴をあける程度だった。
「これさ、ちょっと勝敗が見えてないか?」
「そうなんだよね。でも、なんかちょっと違うような気がするんだよね」
「違う?何が?」
「確かに、ラインズ君の売りは精密な遠距離射撃とブリューナクや魔術の連射だよ?
でも、全体攻撃技を持ってないはずが無いんだけどな……」
「でも事実使ってないだろ?……はあん、成程ね。でも、その程度の目論見が見えてない筈が無いだろう」
「そうなんだよね。どうしてそんな見え見えな案を使ってるのか分からない」
大方小技で目くらまししつつ、大技で一気にけりをつけるつもりなんだろうけど……。
それでどうにかなるほど、九条の力は甘くないだろう。まあ、九条の力はほとんど騎士団に集約されているという話だけど。
『どうしたんだい?そんな小技を連発しても、私の騎士たちは突破できないぞ!?』
『それぐらいはわかっています。だからこの時を待っていた。
汝は雷。汝の力を持って眼前の敵を断罪せよ!「ライトニング・ジャッジメント!」』
雷?何でまたその術を選択したんだ?ただ騎士団を消し飛ばすだけなら、炎とかの方が良いだろう。何を考えているんだ?
巨大な雷が騎士団に向かって降ってきた。騎士たちは一気に体が吹き飛んだ。電撃が流れている所為で、修復は難しそうだな。
そして九条さんの方法を見ると、肩から血を流していた。そうかあの術ですらも目くらましの一つか。小技を連発した後に大技を出す。だけどその大技すらもブラフ。
本当の目的は、『ライトニング・ジャッジメント』による目つぶしからのブリューナクを命中させる事だった。
確かに皆の視線はあの雷に向くだろう。その間に自分はブリューナクの遠距離攻撃……。考えたものだな。でも、これは一回こっきりの技だ。もう効かない。
『これは一本取られましたね。仕方がありません。お見せしましょう。我が九条家の奥義を!』
そういった直後、粉々に砕け散っていた欠片達が集まり巨大な竜の形になった。龍と言うよりも竜。東洋系統の竜の形だった。
『これこそが我が九条の奥義!『黄竜』だ!』
あらわれた竜の咆哮によって、ブリューナクの攻撃が消し飛んだ。なんて威力だよ。そして尾の一撃によって吹き飛ばされていた。
どうやらその一撃で気絶したらしく、試合はそこで終了となった。さて、明日に備えて修練してから寝るとしようかな。
あの竜に対しての対策も考えておかないと……。