風呂場にて
「それで爺。あんなところで一体何をしてたんだ?」
場所を変わって風呂場。俺は湯船につかりながら質問していた。なんでここに居るかと訊かれれば、答えは簡単だ。
真由美さんに「臭いので風呂に入ってきてください」と言われたから。
ぶっちゃけ逆らう気もなかったの一緒に入ってしまっている。いやあ、極楽極楽。なんだか爺くさいがまあいいか。良い物は良い。それが真理。
「うーん?神界に行っとった理由か?ミスリルの回収とかもあったんじゃが、基本的には休暇じゃな」
「ああ、あんたがあの場にいてくれてれば、もうちょっとは状況が変わったかもしれないのに」
「婚約の件か?まあどうあっても儂は変えようとは思わんかったろうがな」
「あん?何でだよ。あんたは俺が何か分かってるだろ?俺は神喰らう狼をこの身に宿す者だぞ?どんな手違いが起こるか分からない。俺は世界に現存する中で唯一、神殺しの称号を持つ人間なんだから」
「……実を言えば、あの子は儂の子ではない。とある人に頼まれた子供なんじゃ」
「わかってるよ。あの人はあんたとは波動が違うからな。通常親と子供の波動は似るものだ。たまに例外はあるけど。それでもあんたと真由美さんは極端に違う。違い過ぎる」
「そんだけ分かっとるんじゃろ?それなら理解せい。
あの子の将来はあの子自身が決めるべき。儂が口を出すべきではない」
俺は少しため息をついた。この爺は一度決めたら梃子でも動かない。この人が一回決めた事を変えたなんて話を俺は一回も訊いた事が無い。
「俺なんかに王の力を持てる訳がないだろ?王を選定する剣――――エクスカリバー。もう折れてしまっていると訊いていたんだが、あれはなんだ?完全な姿だったぞ?」
「そうか。……儂があの子を見つけた時、あの子の本当の親は生気を吸い取られたような姿じゃった」
「剣が生気を吸い取って完全な姿になったっていうのか!?それじゃあ呪いじゃないか!?」
剣とはその者が誰かを救うために振るわれるべき物。誰かの存在を喰らってまで残す物ではない。そんな物は加護でも何でもなくただの呪いだ。聖剣などではなく魔剣だ。極めて悪質な。
「あの~。ちょっといいですか?」
「うん?なんだい?城宮君」
「話は百八十度以上曲がりますけど、魔法と魔術の違いって何なんですか?」
俺は城宮君の質問に唖然とした顔をしていた。
「魔術と魔法の違い?」
「ええ。昔からみんな魔術って呼ぶんですよ。でも俺の師匠ってズボラ症でして。教えてもらってないんですよ」
「魔術とは人が世界に干渉する術の事じゃ。対し魔法というのは基本的に人の力で起こす事は出来ないと言われておる」
「どうしてですか?」
「それは魔法と言われる物が、俺達風にいえば「奇跡」と呼ばれるものだから。人間に奇跡を起こす事が出来るか?答えは否だ。神の一部は条件を全てクリアしたら使えると言われちゃいるけどな」
俺は昔に一度だけみた事がある。魔法を。その神秘さ、神々しさと言ったら半端じゃなかった。あの力をもう一度、できれば死ぬまでにみたいと思う。
「とはいえ、魔術も魔法も世界に干渉する力じゃ。そう乱発するでないぞ?」
「干渉した世界は少しずつだが、その世界の理を変えるからな。一気に改変するとそこに綻びが生まれる事があるからな。
まあ、この世界は昔から少しずつ使われていたからそう簡単に綻びが生まれる事はないけど」
「そういえばお前さん完成したのか?あの魔術は」
「ああ。なんとかとりあえずの完成まで持って行けたよ。――――『虚無魔術』はな」
「完成したのか。二人も喜んでくれとるじゃろうな」
「止めてくれ!父さんは少なくとも絶対に喜ばない!あの人たちを――――両親を殺してしまったのは俺なんだから」
まだあの時の事は鮮明に思い出す事が出来る。俺がまだ未熟でなければ!父さん達は死ななかった。この研究だって父さん自身の手で完成されていたはずだ。俺よりもはるかに速いスピードで。
俺はいつの間にか唇を切っていたらしい。舌に血の味がする。親だけでなくたくさんの命を喰らった血に塗れた者の血が。
「あまり責め続けるな……と言っても意味が無いんじゃろう。それでもお前さんの手によって研究は完成された。これは快挙じゃぞ?お前さんは自分を誇ってもいいんだ」
「……悪い。気分がすぐれないから俺はもう出るわ。夕飯もいらないって言っといてくれ。それじゃあ」
俺は二人に背を向けて脱衣場に向かって体や髪を拭いて服を着た後、いつも寝ている地下に置いてあるベッドで寝た。ちなみに俺の部屋に置いてあるベッドは城宮君に使って貰っている。