魔術の修練
「それじゃあ始めようと思うけど、まず最初に城宮君。君、ひょっとして肉体強化の術が使えないんじゃない?」
「……よくわかりましたね。ばれてるとは思いませんでした」
「そりゃ君の身体能力なら、他の人に術を使ってると思わせる事もできるだろ。でも、俺や一花さんとかの眼をごまかす事は出来ないよ」
「え?あれで素の戦闘力なんですか!?」
今言ったとおり、素人目から見ても彼の身体能力はすごかった。俺は零距離での近接戦闘が主だからやれといわれりゃできるけど、それでもここまで行くのに時間がかかった。
明美とおんなじぐらいの年齢の彼がここまで来るのに、一体どれだけの修練を積んだのだろう?と思ってしまうぐらいに。
彼の魔力の流れを見れば、おのずとわかる。なんせ彼の発せられる魔力が体外にしか出ておらず、内には全然流れていなかったんだから。
「もしかして肉体強化の仕方がわからないのか?
「術もそのやり方もわかるんですけど……。なんて言うんでしょう?
理屈はわかるけど、納得いかないみたいな?そんな感じでして……」
「イメージしてみなよ。術を使った己の姿を」
「え?」
「少なくともこの世界ではイメージが大事なんだ。世界に影響を及ぼすイメージ。
今回ので言えば、魔力が己の体を循環するイメージだ」
俺の体の血脈とは違う物が次第に白く光り始めた。腕の先から始まり、体の隅々まで行き渡らせる。そして俺が目を開くと、鎧を纏っていた。あれ?俺こんなこと考えてないぞ?
『久しぶりに心地よい魔力だったからな。サービスという奴だ』
そりゃどうも。二人の方を見ると、驚いた様な顔をしていた。まあそりゃ目の前でいきなり鎧なんか纏ってたら驚くよな。
サービスはありがたいんだが、鎧を解いてくれ。神喰狼。
『むう、仕方ないな』
悪いな。鎧を解いてもらい、二人の方に意識を向けた。
「まあ、ざっとこんな感じ。ちょっとはイメージしやすくなったかな?」
「あ、はい。こう……でいいですか?」
「へえ、すごいな」
城宮君はもう俺がやったことを理解して実践して見せた。少なくとも一時間はかかると思ったんだけどな……。なんかちょっとショックだ。
「ちょっと動いてみな」
「はい。って、おわあ!」
あらら。唐突に動いたせいでめちゃくちゃ進んでる。というかこのまま進んだら、壁に激突するんじゃ……。
――――――ガンッ!
「あ痛っ!?」
「おーい、大丈夫かい?だめじゃん。いきなり動いたりしちゃ。最初は歩く位のスピードにしないと」
「は、はい。すいません。いや、元の世界じゃ出来なかったからはしゃいじゃって……。ははは、さてもう一回やろっと」
「ちょっと待った。少し休憩してろ。思いっきり当たったから、三半規管が治るまで待て」
「いえ、でも……」
「問答無用。そこで寝てろ。俺たちはちょっと向こうでやらなきゃならん事があるから。行きましょう、真由美さん」
「え、ええ。それじゃあ、ゆっくりしてね?」
俺たちは城宮君から離れて、少し行ったところで止まった。フィールドを設定して、彼の周辺一帯を森林地帯にした。
「どうしたんです?いきなり」
「ねえ、真由美さん。あなたは泣かない事が強さだと思いますか?」
「普通そうなんじゃないですか?」
「俺はね、泣く事もまた強さだと思うんです。泣ける時に泣ける強さも、人には必要なんだから」
そして遠くから城宮君のすすり泣く声が聞こえてきた。そう、皆の事思って泣ける、そんな強さも必要なんだ。それがわかったのか、真由美さんは静かに一言つぶやいた。
「そうですね」
本日の投稿第一弾です。今日中にあともう二話か来たところです。では。