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白銀の鎧と黄金の剣  作者: あかつきいろ
~世界代表トーナメント戦~
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本戦三日目

「ねえねえ兄さん。私も兄さんがいる観覧席に行ってもいい?」

「どうした?唐突に」


 今日は土曜日で明美が通ってる学校は休み。それで久しぶりにゆったり起きて朝飯を食べていた。他に泊まってる皆も叩き起こして、だが。洗い物は一気にやった方が楽だからな。


 歓談しながら、コーヒーを飲んでいると明美が唐突にこんな頼みごとをしてきた。いったいどういう心境の変化だ?


「席取るの忘れて、見るのがテレビしかないのよ。でもこういうのって直に見た方が勉強になるんじゃないかと思って。ね!?いいでしょ?」

「迫ってくるな。鬱陶しいから。……そりゃ直に見た方が鍛錬になるだろうけどさ。でも、今日も九条さんが来ないとは限らないしな」

「泰斗さんならきっと来ませんよ。あの人はこういう事に興味の無い人でしたから」


 真由美さんがいきなり会話に参加していた。いきなりどうしたんだろ?なんか微妙に表情も硬くなってるし……。


「それ、本当なんですか?真由美さん」

「そうよ、明美ちゃん。だから気にせずについていけばいいわ」

「いやいや、勝手に決めないでくださいよ。入れる事が出来るかどうかも分からないのに」

「それなら私も行きましょうか?総局長の娘が来たとなれば入れてくれるでしょう」


 こんな会話を経た末、俺たちは今シード組の部屋に来ていた。なんでこんなことになったのかを説明した後のジェルザの一言はこれだった。


「あんた、馬鹿じゃないの?」

「ひでえ、この女結構真顔で言いやがった」

「そうだよ。ジェルザ、馬鹿はいくらなんでもひどいよ。慎也は抜けてるだけだよ」

「うん、お前も黙ってろ。俺にどうしろって言うんだよ。表の警備員は普通にスルーしてきた所為で、俺は文句の一言も言えなかったんだぞ?」

「こんな事態にしたあんたが悪いんでしょ。知った事じゃないわ。……それで明美ちゃんだったかしら?」

「はい。千葉明美、旧姓乾明美です。はじめまして!」

「はじめまして。黒銀鉄鎖(フォルミウス・テルナ)さまの名前は訊き及んでいます。お目にかかれて光栄です!」

「ありがとう。まったくこんな礼儀正しい娘の兄がこんなのって世の中って間違ってるわよねえ」

「失礼なのはお前だ。……それで、お前が本当にここに来たかった理由ってなんだ?」

「……ばれてた?」

「当たり前だ。選手には選手用の席がある。わざわざここに来る必要はない」

「ちょっといいかな?」


 問い詰めようとした矢先に、レジルが出鼻をくじいてくれた。こいつ、本当はただのKYなんじゃないのか?


「千葉家の人なんだよね?千葉家の人ってどんな修業をしてるの?」

「えっと、本当は話しちゃいけないんですが……。話してもいいと思う?兄さん」

「俺が知るか。俺はあそこの家で修業を積んだ訳じゃないんだからな」

「そうだよねー。まあ、この話を黙ってくれるなら話してもいいですが……」

「喋る訳無いじゃん。ジェルザも約束できるよね?」

「なんで私に話を振るのよ……。興味無いから話す気も起きないわよ」

「それじゃあいいですよ。まずは……」


 なんか話を露骨に逸らされた気もするが、まあいいか。俺は試合の映像を尻目に、明美の話を聞き始めた。


「そういえばさ。この試合って実況とか付いてないのか?」

「ついてるよ?でも、試合に集中するためにわざと切ってあるんだよ。どうする?訊きたい?」

「訊く。なんだか次の試合は面白くなりそうだし」

「次の試合?ノーネームの少年と『百獣』アリサの対決でしょ?すぐ終わりそうな気がするけど」

「なんかあの少年からは『力』を感じるんだよ」


 あれから二時間後、俺たちはもう黙って試合観戦をしていた。たまに意見の出しあいぐらいはしていたが。


 第四試合がこれから始まろうとしていた。この試合は世界代表トーナメント、と言うだけあってどんな奴でも二つ名を持っている。


 その中で二つ名持ちで無い者、つまりノーネームの者が出てくるというのはそれだけですごい事なんだ。でもまあ、たまに運だけでくぐり抜けてくる奴もいるんだけどね。


「それでは第四試合、『名無し』城宮貴也選手対『百獣』アリサ・フォールデン選手の試合を始めようと思います。

それでは両選手、台の上にある魔法陣にお乗りください」


 二人が同時に魔法陣に乗り、転送された場所は市街地だった。もちろん無人地帯だ。あの空間自体に元に戻る魔法が掛かっているため、破壊されても数時間後には元に戻る。


 いろんなバトルフィールドが用意されてはいる。草原、市街地、砂漠その他諸々etc。その中からバトルフィールドはランダムに選ばれる。


「慎也。彼、魔術師(マグス)みたいだね。札持ってるし」

「それだけで判断するな。ただ式神を使うだけかもしれないだろ?」

「そりゃそうだけど。それでも珍しくない?いまどき符を使って戦う人なんかそうそういないよ?」


 レジルの言う通り、今日において魔術は脳に刻むことが可能となったせいで、符を使ったりして魔術を行使する者はいなくなった。この技術はコネクトシステムと呼ばれる。


 使うのは何か脳に欠陥を抱えている者か、あるいは脳に刻み込むのを嫌がっている古い者達だけだ。もちろん脳に危険はない。それでも怖がるんだよ。なんでだろ?


「始まるな。どんな戦いを見せてくれるのかな?せいぜい俺を楽しませてくれよ?『名無し』君?」

「兄さん、なんかどこかの悪者みたいだよ?」

「気にすんな。……っていうか攻撃が速いな。コネクトシステムと同レベルじゃないか?あれでコネクトシステムを持ってたらもっとすごい実力者になれるのにな」

「そうだよね。でも、確か式符とかって保持者によって形態が決まってるんだよね?」

「ああ、そうなってるな。でもあれ鷹ってどんなんだよ?俺でもそうそうお目にかかった事無いぞ?」


 式符を使う術者は今言った通り、実力によってその式神の形態が決まる。たいていの式神は狐とか烏だな。偵察用に用いられる。攻撃用の式神なんて、滅多にお目にかかれないほど貴重なんだけどな。


「今度は西洋術式?もうなんでもありだね。っていうかあれ『白銀氷河(ダイヤモンドダスト)』じゃない?」

「微妙に違うな。しかしアリサは本当にすごいな。あれ鳳凰じゃないのか?」

「伝説の生物を使役する……やっぱり『百獣』の名は伊達じゃないね」


 城宮君だったか。彼も相当きつくなってきてるな。肩で息してるみたいだし。


 一応説明しておくが、魔力は無尽蔵では無い。体力と同じように使っていけば無くなっていく。一般的な修行方法と言えば、滝壺修行とか座禅とかが有名かな。


 まあ要するに、精神力を高められればおのずと魔力の総量も伸びてゆく。もちろん伸ばしていくのにも限度と言う物があるが。


「ねえ慎也。あれはどういう事だろ?」

「うん?……携帯?こんな戦場で携帯なんか出してどうするんだ?」


 城宮君は携帯を懐から取り出し、何か文言を唱えていた。さすがに声が小さすぎて聞こえなかったが。いったい何をするのかと思ったら、携帯を振りその振った空間から魔法陣が出てきた。


『この場に生ける者を吹き飛ばせ!「流星雨(スターダスト・レイン)」!』


 そして天から流星のような物がアリサと鳳凰に向かって降り注いだ。っていうか携帯からだと!?


「慎也あれって!?」

「あれはまさか、まだ実行不可能と言われてる『現代魔術(アリステル・マグナ)』なのか!?」


現代魔術(アリステル・マグナ)』―――――それは魔術が普及した今でも、完成不可能と言われている魔術の事だ。単純にそれを作る技術が無いからだ。

 そもそも、この技術に名前がついたのは三年前とある男がこの技術を作ったからだ。当時はとんでもないニュースになったさ。

 だがその男の死後、その携帯だったんだがその内部を調べようとしたがプロテクトではじかれて調べる事が出来なかった。そして無理やりこじ開けたら案の定データが全部壊れた。

 そして今俺たちの目の前で二人目の現代魔術師(アリステル・マグス)が現れた。彼は一体、何者なんだ!?


「慎也。これって結構まずい事態だよね?」

「仕方ない。ここはあの爺に頼るしかないな」


 俺は懐から携帯を取り出し、とある番号に電話をかけた。


「はい、もしも――――」

「おい爺!今試合をしてる子の身柄を試合終了直後に何とか守れ!」

「なんじゃ藪から棒に。そんな事をする必要がどこに―――――」

「ふざけんな!あれは現代魔術だぞ?必要大有りだろうが!このまま放っておいたら、アメリカやイギリスのお偉方がその身柄を、保護の名目で奪い取ろうとするぞ!」

「……やはりか。仕方ないのう。何とかしてみよう。その代わり、身柄はおぬしが預かれよ?神喰狼(フェンリル)がその身を保護しているとなれば、迂闊に手は出さんじゃろ」

「分かった!それでかまわないからなんとか頼んだぞ」


 試合はもう城宮君の優勢で進んでいた。そりゃあ、あんだけ術式を連発されればな。


『氷結の世界よ。今その力を現界させ、この世界を飲みこめ。「ニブルヘイム」!』

「ニブルヘイムだって!?そんな上級魔法も記録されているのか!?」

「北欧神話に登場する世界、ニブルヘイム。その魔法化。現代でもようやく数少ない人間が行使できるようになってレベルだぞ?それをああも簡単に使うとは」

「まるで未来から来た人みたいよねえ。さすがに『百獣』アリサもこれは耐えきれないわね」


 そこで試合は終了。そして同時に黒服の人たちが会場内に入って城宮君を連れていった。


 そして二十分後、彼はこの部屋に来ていた。なんかがちがちに緊張してるみたいだけど……。まあ、別にいいか。


「あの、すいません俺何かしましたか?」

「まあ取り敢えず座って。訊きたい事は色々とあるからね」


 青くなってた顔がもっと青くなっていた。さてはてどう訊こうかな?


「とりあえず落ちつけ。そんなひどい事はしねえし、ただ話をするだけだ」

「はあ。それで俺に訊きたい事って何ですか?」

「ぶっちゃけ、俺が訊きたいのはそう多くない。そうだな……まずはこれかな?

君はこの世界の人間じゃないな?」


 これはただの確認だ。重要な質問はまだ別にあるんでけど……。ま、一応しておかないとまずいしな。


「……そうです。っていうか俺は俺がなんでこの世界に居るのか、自分でもわからないんです」

「ふうん?それはまた珍しい現象だね。まさか自分が選ばれた勇者とかそんなこと考えてないよね?」

「考える訳無いでしょ……。そんな余裕ありませんよ。この大会で本戦に入れれば、賞金がもらえるっていうか参加しただけです」

「へえ。そんなこと誰から訊いたんだ?」

「今お世話になってる人です。俺がこの世界に来た時近くにいた人で。達宮さんて人で……」

「え?花音ちゃん?……世界は案外狭いもんだなあ。まさか知り合いとはな。あの子なら納得だけど」

「え?知り合いなんですか?」

「まあね。それで君が使ったのって『現代魔術(アリステル・マグナ)』だよね?」

「ええ、一応そうですけど……。さっきの質問あれで終わりですか?」

「そうだよ?何か問題でも?」


 俺にとってあの質問はどうでもいいしな。魔術師としてはこちらの方がよっぽど重要な質問だ。それにこちらの世界には、空間操作の術の一環として次元移動の術がある。


 その術の制限時間は約三十秒。その間であれば誰でも例外なく、次元を渡る事が出来る。その制限時間内に通った所為で、こちらの世界に来てしまったんだろう。


「帰る方法なら大丈夫だよ。俺にも出来るけど、一応その方面にも長けてる人に頼んでみるから。それでさ、どういう仕組みになってるんだ?その携帯」

「これですか?これはその人特有の機動鍵語を唱える事で、記されている術を引き出す事が出来るんです」

「マジで?超便利じゃん。それってさ、やっぱり一般に出回ってたりするの?」

「いえ、そもそも魔術自体がそんな広まってません。だからこの世界には驚きましたよ。この携帯は一般に売ってるのに一工夫してるだけです」

「へえ、やっぱり他の世界と話すのは面白い。それじゃあさ……」


 この後試合観戦をすっぽかして話してたら、皆に睨まれました。いやあ、熱が入り過ぎたとちょっと後悔しながら、その日は少年を連れて家に帰った。後で花音ちゃんに連絡だけ入れといたけど。

今週もしかしたら金曜日UPできるかもしれませんが、できなければ来週の土曜日まで休載させていただきます。ご了承ください。では。

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