本戦二日目(1)
翌日、Bブロックの第一回戦。これまた見逃せない対戦だった。ひょっとして最初に釘付けになるような組み合わせになってんじゃね?
「『白皇剣』対『黒帝剣』か……。さすがにこれを見ない手はないでしょ。そりの合わない事で有名な二人の戦いに決着がつくかもしれないし、さ」
「両方とも三十戦十四勝十四敗二引き分け……だったかしら?よくやるわよねえ」
「同じ流派だっていうのもあるんだろうけど、やっぱり方向性の違いが大きいんだろう」
「皇帝の白と黒、か。師匠さんも大変だろうね」
「あそこの師匠も千葉家だぞ?正確に言うと、千葉家で免許皆伝を受けた人だ」
「昨日も思ったけど、千葉家の人はいい加減にした方が良いんじゃない?」
「そんな事を俺に言われてもな……。あの二人は名前は有名だけど、ランクは俺と同じSだからな。
まあせいぜい楽しませてもらうさ」
とは言ったものの、やはりどことなく心配だ。なんせあの二人の戦いは白熱すればするほど苛烈になっていくというか、防御をもう完全に無視するというか。要するに血みどろになる。
あんたらは戦国時代の武士か、と言わんばかりにぶつかりあう。いざとなっったら止めるために乱入するのを覚悟しなきゃいけないかも。
そんなはらはらした心理状態で、俺は画面を見ていた。今のところ、二人ともそんな状態ではない。まあ最初は小手調べが基本だしな。鍔迫り合いながら動きまくっていた。
ぶっちゃけもう一般人の眼には、ぶつかった瞬間に人影と火花ぐらいしか見えていないだろう。ご愁傷様。
知っているかもしれないが、本来そんなに鍔迫り合う事はない。使用者よりも刀や剣の方が持たないからだ。だが、実力が拮抗しすぎるとこういう事が稀にある。それでも稀少な事だが。
『やはりこうでなくては面白くないな!さあ、ここからギアを上げていくが、果たして貴様についてこれるかな?』
『はっ!馬鹿げた事をぬかすな!ついてくるどころか追い越してやるわ!』
ああ、熱が入っちまった。こりゃ止めるのも苦労するぞ。
それぞれが築いた技術をさらに練り上げた技同士が花を咲かせる。
白皇は己のスピードを。黒帝はその連撃を突き破る一撃を。それが連発されてる。あそこの異界のフィールドがとてつもない速度で破壊されてる。
このまま放っておいたら、二人共異界の狭間に落ちておじゃんだな。さて委員会はどういう判断を下すのかな?そう思っていると、滅多なことでは開かない後ろの扉が開いた。
「何か用か?クソ爺」
「あった途端その言いざまは無いじゃろ。クソガキはいつまで経ってもクソガキじゃな」
「あんたにだけは言われたくないがな。……それで?本気で何の用だ」
「わかっとるんじゃろ?……あの二人を止めて連れ戻せ。あのような才能ある若者を失うのは惜しい」
「とっとそう言えばいいのに。それじゃあ、十分ぐらいかな?あそこの空間を維持しといてくれよ」
「それぐらいならなんとかなるじゃろ。一花君と交渉することにはなるじゃろうが……」
「宿代だ、と言えば何とかしてくれるだろ。それじゃ行ってくるわ」
「「いってらっしゃーい」」
そろって言いやがった。俺は専用の魔法陣に向かって歩いて行った。そしたら爺に怒鳴られた。クソ、ゆっくり行ったっていいじゃないか。そう思いながら俺は走り出した。
魔法陣の場所にまでたどり着き、試合が終わるまで動かないようにしている封印を壊した。もしかしたらアラームとかの類がなってるかもしれないが、気にはしない。
魔法陣を稼働させ、俺は二人のいる場所まで転送された。
「やっぱり思ってた通りだ。千葉の家は問題児が多すぎるんだよ。ホント迷惑なことだらけだ」
「「誰だ!?」」
「俺だ。お前ら試合は終了だ。これ以上やるって言うんなら、俺が元の空間で相手をしてやる。この空間はもう限界が近いからな」
「この勝負の決着をつけずに戻れるか!剣士同士の決闘を貴様の都合で邪魔するというのか!?」
「まあ、ぶっちゃけそうだ。いい加減にしてもらわないとこっちも困るんだよ」
「フン!知った事ではない。さあ、我らは続けようではないか!この戦いをな!」
「だから止めろと言っとるだろうに……。もういい。お前らがそういう選択をするなら、俺がお前らを潰してやるよ」
俺は右手の封印を二段階まで解き、鎧を纏ってまだ剣を打ち合っている馬鹿二人に向かって突っ込んでいった。もちろん俺の事をわかってるんだろう。
同時に刀を俺に向かってふるってきた。それの全てをかいくぐり、まずは白皇に向けて鳩尾に向けてブローを叩きこもうとした。だが、体を反り返ってかわしやがった。イナバ〇アーか!?
しょうがないから黒帝の側頭部に向かって蹴りをぶちこもうとすると、あいつかわして俺に掌底を当てようとしてきやがった。なまじ実力があるとこういう事があるから困るんだよな。
「しゃあない。もうひと段階ギアを上げるとするか。ついてこいよ?」
「当り前だろう。お前とは一戦してみたいと思っていたのだ。こいつと一緒にというのが癪に障るがな!」
「それなら貴様がどけ!こいつは私が倒す!」
なんか仲間割れの様相を呈してきたけど、まあいいか。俺は三回目の封印を解いた。さっきまで余裕で俺の速度についてきた二人は、俺がとてつもなく速度を上昇させたのを見て構えた。
それでも俺の速度は、さっきの約1.5倍だ。いきなりの急加速についてこられる訳が無い。ここで決めさせてもらう!
俺はすぐさま白皇の腹にローキックをぶちこんだ。のけぞった白皇を何発も殴ってやった。十発殴った頃にはもう気絶していた。
俺はそれを確認すると、すぐさま黒帝に向かって走り出した。そして飛び蹴りを黒帝の右肩に当ててやった。なんか嫌な音がなった。多分右肩の骨が折れたんだろう。
黒帝が顔をしかめて後ろに下がる――――前に近づき、ブローをあいつの鳩尾に叩きこんだ。あまりの威力に数メートル後ろに下がった後、地面に倒れこんだ。
うわ、白目になってるよ。今更ながらやりすぎたな。ま、いいか。俺の忠告を訊かなかったこいつらが悪いんだし。そう思いながら俺はこの二人を魔法陣の位置まで運び、転送した。
空間が軋む音がしたから、俺もあわてて魔法陣に乗って競技場まで転送した。そして戻ってきた俺を迎えたのは、すさまじい量の歓声だった。
「すさまじい技量を持った二人を抑え込み、そして軽い表情で帰還したのはCブロックのシードであり、『白銀の神狼』の異名を持つ乾慎也選手です!」
「「「ウオオオオオォォォォオオオオ!!!!」」」
試しに手を振ってみると、さらに歓声は上がった。俺は鎧を解除し、入ってきたゲートから元の部屋に歩いて戻った。その道中に興奮を抑えるのに結構苦労した。