本戦第一回戦(1)
あれから二日後、つまり本戦の日を迎えた。俺たち三人は一緒に会場に入った。
「予選を突破し、この本戦を迎えた三十二名がここに揃いました!」
「「「ウオオオォォォォオオオオォーーーーーーーー!!!」」」
予選でも思ったけど、盛り上がり過ぎじゃね?いくら三年に一回しか無いとはいえさ。初め訊いた時はオリンピックのパクリか!と思ったが。
俺たち三人と、観戦会に来なかったシード組最後の一人、なんでもその人が九条――――つまり、真由美さんの元婚約者らしい。名前は確か泰斗だったかな?四人が指定の位置に立った。
すると、床が光り始めA~Dまでの文字がランダムに表示され始めた。なんだこれ?
一分後には文字の動きが終わり、俺の足元にはCの文字が表示された。レジルはD。ジェルザはA。九条さんはB。
「各ブロックのシードが決まりました!
Aブロックのシードはジェルザ・ヘレウス!Bブロックのシードは九条泰斗!
Cブロックのシードは乾慎也!Dブロックのシードはレジル・ハルべス!」
一つを読むごとに歓声が上がった!そんなに声を上げられるほど有名か?そして残り三十二名のブロックの抽選が始まった。今日はAブロックの一回戦をやるらしい。
俺はのんびりさせてもらうとしようかな。ゆっくり見せてもらうとするさ。そんな事を考えていた俺の目の前に人が立っていた。
「何か俺に御用ですか?九条泰斗殿?」
「その話し方は癇に障るな。止めてくれるかな?」
「それは構いませんが。それでどんな御用なんでしょうか?」
「いえ、ただ私と争う事になるライバル殿の顔を拝んでおこうと思いまして」
「そうですか。それでは失礼します」
「ええ。……貴方にだけは決して負けません」
好きにしてくれよ。俺にとってはそんなことはどうでもいいんだから。ただ俺の目指す物は優勝して一花さんと戦う。ただ、それだけなんだから。
「始まったか?一回戦」
「もうすぐだよ。それにしてもいったい何したのさ。あの……九条君だっけ?ライバル指定されるなんてさ」
「ちょっとした私用だよ。それで一回戦の相手は?」
「千葉家と八市家の次期党首同士の対戦だよ。剣の一族と風の一族同士の対決だ。初っ端から面白くなりそうだね」
「番外と一桁同士の対決か。そりゃ面白そうだな」
八市家が風の一族と呼ばれているのは風を読むのが上手く、弓矢の技術が半端じゃ無かったからだ。だがバトルフィールドには風が無い。そう思っていたら……
「え?戦闘って異界でやるのか?」
「そりゃそうだよ。この大会はあくまで実践としての技術を図るのが目的なんだから。それにこのまんまじゃ千葉家が有利すぎでしょ」
「そりゃそうだが……なんだかな?」
「ほらもう始まるよ。これを見ない手はないでしょ」
えーっと、フィールドは草原?これは八市家の方が有利過ぎじゃないかと思ったら、千葉家の次期党首……確か竜次だったか。開幕当初に草を全部切り払いやがった。つくづく思ってたがバケモンだな。
八市家の方は女性で佳奈実って名前だった。佳奈美さんは懐から一本の弓を取りだし、それを展開し始めた。そんな隙だらけの状態を放っておく訳が無い。竜次君は走り出した。
すると地面に魔法陣が展開され、そこからまるで台風のような烈風が吹き乱れた。当然、竜次君は後ろに下がったが瞬時に考えを変え、烈風に向かっていき風の魔法をぶった斬った。
「うわあ。あんなのあり?」
「刀剣を持たせれば千葉家の人間は全員化け物だからな。あれぐらいの芸当、訳ないさ」
「それにしたって魔術を斬るなんて、僕にも出来ないよ?」
「お前何さまだよ……。あそこの人間を同格で見ない方が良い。あそこの鍛錬はアホみたいに刀剣にどっぷり浸からせるからな。あそこの党首にはいまだに勝てない」
「ところで八市家の人が出した弓って神弓かな?」
「間違いないだろ。韓国と朝鮮の伝承を持つ弓。これは予想以上に面白くなりそうだ。
あの刀はおそらく祢々切丸だ」
「勝手に出て行って妖怪を斬り殺すことで有名な?」
「そっ。でも、あの刀は退魔の力が強い。魔力で作られてる魔術は、相性が悪い」
はてさて、この戦いの行く先はどうなるかな?
剣と弓の激突は続く。神弓と祢々切丸。どちらもそれなりに有名な武器なだけにスぺックはほぼ互角。後は持ち主の力量の勝負。
「魔力を乗せて撃ってるね。普通ああいう類のは加速されてるから、弾ける訳無いんだけどな。見事に弾いてるよね、彼」
「だから同格視するな、って言ってるだろ?彼の持ち前の動体視力だろう。あそこは感覚に頼る人が多いからな。そこを潰されたら終わりだ。それでもどうにかしちまうこともあるんだよな」
「まあ近づいてもかわされてるしね。そろそろ終わりも見えてきたかな?」
「さあな。ただ言えるのは……」
「言えるのは?」
「そんな簡単に終わるほど、千葉家の剣士は甘くないってことだ」
事実、矢の感覚も掴んできているんだろう。捌く技術が上がってる。突然竜次君が加速しだした。捌くのを止めて攻勢に転じるようだ。
もちろんそれを黙って見過ごすほど、佳奈美さんも甘くない。三本を同時に引き絞り、放った。もちろん魔術を掛けて。
竜次君がそれを切り払おうとすると、矢が勝手に動き剣撃をかわした。無理矢理体勢を変えて、矢をかわしたのはいいが、その矢が追ってきた。
「まさかあれは、追尾術式?そんな馬鹿な!?」
「現代の魔術の技術で不可能とされた追尾術式……。それを開発したっていうのか?そんな事が出来るほど八市家の技術水準は高いのか?」
「それでもだよ!いくら技術水準が高かろうと、魔力の持続性の問題で術式は完成してないんだよ!?それなのに、どうやって解を見いだしたって言うんだよ!?」
「とりあえず落ち着け。何かヒントがあるはずだ。何か……」
竜次君が肩口に目を向け、何かに気づいたような顔をした後矢に当たる寸前で刀を振った。そしてそれをかわすと、矢は竜次君の後を追ってこなかった。
「まさか……」
「何かわかったの?」
「あれは追尾術式じゃなくて、ワイヤーか何かひっかける物で追いかけてただけなのかもしれない。
追尾術式は無くても、その速度を維持し続ける事だけならできる。そうだな?」
「ああ、うん。でも盲点だったね。まさかワイヤーの類を使うなんて……」
「確かに戦術を試すにはいい技だな。たいていの奴はお前みたいに動揺して、その間にやられちまうからな。ある意味で千葉家が刀剣一択だったのが良かったな。魔術を下手に齧ってたらやられてたぞ」
「うん。二人ともすごいよ。そんな案を実行する八市家の人も、それを見破った千葉家の人も」
「今回は確かにレベルが高い。こんなのが一回戦から当たるんだからな」
竜次君が足に力を込めていた。何かと思ったら肉体活性の術式を使いだした。って、はあ!?
「なんで魔術使ってんだよ!?」
「確かに。一回戦から驚きの連発だよ。二人ともすごすぎ!」
一気に距離を詰め、竜次君は一応刀の刃は刃抜きしているとはいえ、あれだけ強烈に叩きこめば肋骨の一本は少なくとも折れているだろう。
これで一回戦か。これは今回の大会、参加できてよかったかもしれないな。
「そういえば慎也」
「なんだ?」
「ジェルザはどこにいるの?全然姿が見えないんだけど」
「……お前、それジェルザに会っても言うなよ?」
「なんで?……あ」
「思い出したか?あいつなら多分、トイレでうずくまってるのを」
「そういえばジェルザってめちゃくちゃプレッシャーに弱かったよね」
「「…………」」
本当に大丈夫かな?あいつ。




