去り際の一言
「そういえばリーダー。昨日リーダーの影から出てきたあの黒いのは何だったんです?」
「ん?」
翌日、俺と卓也と月花は朝食をとっていた。ああ、美味いな。ここの料理。いやあ役得、役得。朝からこんな美味い飯が食えるんだから捨てたもんじゃないな。
「ああ、あいつの事か。ちょっと待ってろ。もうすぐ説明してやるから」
「いや、それなら今すぐ説明してくれても……」
「何の話をしてるんですか?」
「おはようございます。真由美さん、ギルフォードさん」
「「おはようございます」」
二人はちょうど降りてきたようだ。ちなみに卓也飯を食うのに集中してるから、全然話に参加してこない。すると丁度よく注文していたステーキが運ばれてきた。するとそこにいた皆が怪訝そうな顔をしていた。
「朝からステーキですか?……胃にもたれそうですね」
「これを食うのは俺じゃないからいいんですよ。
……ほら、飯が来たぞ。そろそろ機嫌直せって。飯を一食抜いたぐらいじゃ死にゃあしねえよ」
俺が地面、というより自分の影を足でノックするように蹴ると、そこから黒い狼の形をした獣が出てきた。
出てきた時は不機嫌そうだったのに、できたてのステーキを見ると食べてもいいかと思念で訊いてきた。まったく現金な奴だ。俺がどうぞ、とジェスチャーをとるとむしゃぶりついていた。そんな腹減ってたのかよ。
「あの、リーダー?この黒い狼みたいなのは一体……?」
「俺の眷属。フェンリルってのは破壊と狼の象徴だ。
お前の槍の素材であるオリハルコンを取りに行く最中にあったんだよ。
それでこいつらの一族と契約し、俺の影に住んでるんだ。俺の命令は忠実に訊くし、いい奴だぜ?」
「それは別にいいんですけど、大丈夫なんですか?魔獣を勝手に眷獣にするのは認められていないのでは?」
「あのな、お前らの武器を作ってから二年もたってんだぞ?ちゃんと登録してあるさ。
それに好き好んで狼を眷属にする奴はいない。たいてい器としての力が足りず、殺されるからな」
「召喚術者(テイマ―)は?あいつらならできるんじゃないの?」
召喚術、それも魔術と同時に普及してきた物だ。今じゃあ、ペットとしての契約を交わす者もいるそうだ。まあ、そりゃ確かに生存競争が難しい自然よりは安定しているだろうけど……。
「召喚術者(テイマ―)が好き好んで狼と契約するわけないだろ。あいつらは基本的に孤高の生物。
誰かに媚びる事自体が珍しい。お前、狼に真正面から睨まれて平然としてられるか?」
「無理です。だから狼を眷獣にする人って全然いないんだ」
「そういう事。食べ終わったな。それじゃあ戻って寝てろ。また仕事になったら呼ぶから」
黒狼はこくんと首を動かすと出てきた時と同じように、俺の影に戻っていった。そのころには俺たちも朝飯を食い終わっていた。俺たちは席を立った。
「それじゃあ真由美さん。ギルフォードさん。任務も完了しましたし、俺達は帰らせていただきます。花を踊らす風が、貴方にもとどかん事を」
「ええ。ささやかな陽光があなたたちを包みますように。お元気で」
俺は一礼をした後卓也と月花と一緒に部屋に戻り、荷物をまとめてチェックアウトして車に乗り込んだ。車を動かしてちょうど街と街の境目であるトンネルに入ったところで、月花が喋りかけてきた。
「さっきの花を~のあれにはどんな意味があったの?」
「前にも説明した気がするが、まあいいだろ。要するに健康でありますようにって意味の別れの言葉。
真由美さんが言ったのは、ささやかな陽光のような幸せが包み守ってくれますように、って意味だ」
「そうなんだ。……そういえばリーダー、めったなことじゃ名前を呼ばないのに珍しいですね。何かあった訳じゃないのに」
「……まあいいだろ。少なくとも彼女と俺がまた会うなんて確率としてはそう高くないだろうし」
俺のこの甘い考えが覆されるのは、そう遠い未来ではなかった。
昨日は結構な数の読者に来ていただいたのですごい嬉しいです。これからも頑張っていくのでよろしくお願いします!