掃除
「それで今回はなんの魔術の実験なの?」
「今回は天候を操る物にしようと思っているんだが……」
「中々難しくてねえ。過ぎると雪降ったりするし」
「……難しくて当たり前じゃん。魔術界でも一、二を争うほどの代物だし。そんなのを創る位ならそれぞれに分割させりゃいいのに」
「どういう意味なの?」
「要するに、雨を降らす術式。太陽を出現させる術式。まあ、おおまかに分ければこの二つかな?この術式をそれぞれ要所要所で使うようにするんだよ。こっちの方が安全だしね。手間はかかるけど」
食事も終わり、俺達はさっきの魔術の談義をしていた。真由美と明美には晩飯の用意をしてもらっている。
二人が暇だろうと思ったのと、この話はぶっちゃけ難し過ぎると思ったからだ。ぶっちゃけイロハを分かっただけじゃまったく意味が分からない。
「というか、なんでまた天候?」
「いや、最後に人様の役に立つ物を作ろうと思ってな」
「……どういう事?」
「別に体が悪いという訳じゃないのよ?ただ、私達もそろそろ歳だから。何時まで生きていられるか分からないからね。この辺で打ち止めにしようと思ってね」
言い忘れていたが、言葉使いこそ若いものの二人の歳はもう八十五だ。確かに魔術界を引退するのにはいい歳かもしれないけど……。
「そんな悲しそうな顔をするな」
「でも……」
「私達は大丈夫よ。慎也ちゃんが恋人を連れてきてくれたんだから。曾孫の顔が見れるまで死ねないわよ」
「そう……。まあ、あの術式が完成するまではざっと見て最低五年はかかるだろうけどね」
「ほう?言ったな?」
「ならその期間以内に完成させないとね?」
それだけ言うと、二人とも研究所まで戻っていった。俺は自分の部屋に戻って、そこに置いてあった和服に着換えた。
基本的には着ないんだけど、この家に戻ってきた時だけは着る様にしている。とは言っても、俺がこんな物を着てもこの家じゃする事は限られてるんだけど。
それは書庫などの掃除だ。なんせあの二人はズボラだからな。身の回りの事はほとんど俺がやっていたと言っても過言じゃない。そんなレベルだからな。
「あれ、慎也。………珍しいね」
「この服装の事か?この家に住んでいた頃はこれが普通だったんだよ。明美だって着替えてるんじゃないか?」
「ああ、確かに。私も着替えようかな」
「置いてあるかな?……なんなら着替えも手伝ってやろうか?」
「え?いいの?」
「いや、待て。冗談なんだから真に受けるな。大体俺がお前の着替えの所に同席していたらまずいだろう。色々な意味で」
「私は全然構わないけど?」
「俺が構うんだよ。というか、後で真由美に殺される。あいつが怒らせるのはもうごめんだ」
「本気で怒ったら鬼神みたいだもんね……」
俺は花蓮と別れて、書庫の方に向かっていった。予想通り、思いっきり荒れていた。俺は色々と片付けをしていく内に数冊ほど本を貰っていった。