なんでこんな目に……
「痛たた……っ。あの爺、容赦なくやりやがった」
俺は他の連中が牡丹鍋で盛り上がっている傍らで、日本酒を飲みながらその騒ぎを眺めていた。はあ、喧しいな……。
「おい、そりゃ俺が大事に育てた肉だぞ!」
「はっ!知るかよ!この世は弱肉強食、先手必勝!取った者勝ちだろ!」
あらら。酒が入った所為でかなりヒートアップしてるな。俺はこっちに飛び火しないようにその場を離れようとした――――
「やかましいぞ、馬鹿ども!たかが肉の一枚や二枚でぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねえ!」
こういう時のリーダーシップはさすがに凄まじいんだが……。
「そういう爺さんが一番肉を食ってるじゃないか!」
「ああん!?この老い先短いかもしれない爺が肉をたらふく食って何が悪い!」
「老い先が短いなら、そんなに酒をがばがば飲むなよ!?あんたもう一升瓶換算で何本飲んでるんだよ!?それこそ浴びるほど飲んでるだろ!」
「あんまり文句ばっかいってると黙らすぞ!」
もはや言い訳するのにも飽きたな、あの爺……。実力行使に出だしたよ。そこに救世主?が現れた。
「もう!お祖父ちゃん、いい加減にして!」
「なんだ、明美?何か文句があるのか?」
「喧嘩しないでよ!何のために鍋にしてると思ってるの!?」
「そりゃオメエ。料理が簡単だからだろ?」
「みんなで仲良く食べるために決まってるでしょ!それとそこの二人!水で顔を洗ってきなさい!顔が真っ赤じゃない!」
「「は、はい……」」
おお、あの騒動をたった一人で納めちまった。さすがだな……そんな事を思っていた俺が甘かった。明美がこっちに来た。
「よう、お疲れさん」
「もう、兄さんならあれぐらい止められたでしょ?」
「面倒だろ。さっきあの爺にやられたからな。まだ体が心許ないしな」
「また?まあいいけど。兄さんも料理手伝ってよ。人手が足りないんだよ」
「何言ってんだよ。こういう時、女性の手料理だから喜んでんだろ?そこに男の俺が入ってどうする」
「分かってないね。兄さんの料理は何時だって盛況なんだから!ほら、早く来る!」
「ちょ!?お前、止めろって!」
俺はなぜか男どもにもはや殺さんばかりの視線を向けられた。俺が一体何をしたって言うんだ!?しかも俺が料理を作って出したら、喜んで食いやがるし。
その所為で大量に作らせる羽目になった。なんでまったりと酒でも飲みながら過ごそうと思ってたのに……こんな目にあってんだよ!