千葉家の正月
正月、俺達は千葉家で行われる祝いの席にいた。俺が女性を連れてきたのがとんでもない事件の様に扱われて、大騒ぎだった。
まあ、この家は男がほとんどだから女性が来るととんでもなくテンション上げるんだよな。そう思っていると、竜次君が話かけてきた。
「あけましておめでとう。それにしても君が女性を連れてくるとは。驚いたね」
「妻子持ちの貴方には言われたくありませんが……。とりあえず、あけましておめでとうございます」
「それでも、だよ。君が連れてきたのは、とんでもない有名人じゃないか。僕の件と一緒にしないでくれ」
「はあ。それは良いんですけど。……ところでなんであの爺はいないんですか?当主でしょう?あれでも」
「親父殿は、なんか任務を受けてるから今はその対処に行ってる。『ついでに猪でも狩ってくるわ!』とか言ってたけど」
「いつもながら奔放な人だな……。それで?俺にどんなご用時で?」
「うん。正月だし、新年一発目の初試合の御相手を願えないかな?と思ってね」
「別に構いませんが……。俺でいいんですか?俺の得手は徒手格闘ですよ?」
「構わないよ。それで負けたら僕も恥ずかしいしね。それに、初試合だから肩慣らし程度でいいよ。この間君とやったら両方の木刀が砕け散ったよね」
やったな~。あの時は驚いた。剣道みたいに面とか胴とかを着けていた訳じゃないんだけど、気付いたら熱くなって思いっきり打ち合ってたんだよね。
それで俺達の威力に剣が耐えきれなくなって、粉々に砕け散ったんだ。あの時は、折れた木刀が両方の顔面に当たる、なんていう恥ずかしい終わり方だったし。
「それじゃあ、用意してくるから。後で道場に来てくれ」
「分かりました」
そう言うと、竜次さんは道場の方に歩いていった。俺も徳利に入っていた酒を飲み干すと、動こうとしたが面倒な奴に絡まれた。『黒帝剣』こと、黒市雅章だ。
「おお、久しぶりだな!大会以来か?」
「お前な……。今日は暴れてくれるなよ?いくら無礼講とはいえ、な」
「それ位は弁えている。師匠にお前に用があるから呼んでこい、と言われたのだ。ついて来てくれ」
「分かった。っていうか、あいつ来てるのか?」
「ああ。今日ぐらいはな、と仰ってな。まあ、あの人なりに考えがあるんだろう」
「ろくな事じゃ無いと思うがな」
だだっ広い食事処を進んでいくと、『白皇剣』こと白金彰人と共に酒を飲んでいる一人の女性がいた。年齢は大体二十六ぐらい。
「やあ、久しぶりだね」
「そうだな。咲乃さん。お元気そうでなによりです」
この人は千葉咲乃さん。母さんの歳の離れた妹さん。俺からすれば叔母さんって呼ぶべきなんだろうが、年齢が近すぎる所為で呼ぶ気にはなれない。
そんな人が徳利片手に、こちらに笑いかけていた。