模擬戦の前に
「それでどうしてこんな流れになるんですか?」
あの後、ひとしきり泣いた神崎さんは唐突に、稽古をつけてくれませんか?と言ってきた。そしていきなりさっきの裏庭まで引っ張り込まれた。卓也と月花もちゃっかりついてきていた。
「私、強くなりたいんです。今回みたいに誰かに頼るだけでなく、自分の身ぐらいは自分で守れるように」
「別にそんな事をする必要はないと思いますけど。人には向き不向きという物がありますし」
「それでも、力は持っていた方が良いでしょう?いざという時のために」
「否定はしませんけどね。こういうこともありますし」
俺が足を地面に叩きつけるのと同時、ナイフが飛んできた。だがそれは、俺の足元の影から出てきた者によって阻まれ、俺は手に籠手を纏わせて飛んできた方向の木を殴った。それによって生じた衝撃波で何本か先の枝に足をつけていた男は落ちてきた。
「ばれたからってナイフ投げなくたっていいじゃないですか。えーっと確か、ギルフォードさんでしたっけ?」
「……分かっておられたのですか?私がいたことを」
「もちろん、貴方の気配を立つ能力は素晴らしいの一言に尽きます。ですが、視線が強すぎます。
あれでは方向はわからないでしょうが、監視されているのがばればれです。
それと魔力の動向ぐらい気をつけましょう。俺が即時結界で大体半径五百メートル程度の探査術式を使ったのにも気づかれていないようでしたし」
「「半径五百メートル!?」」
あれ?そんな驚かれるような事だっけ?……あ、そうだった。普通の術者でも即時結界の探査術って半径二、三十メートル位だっけ。いやあ、完全に忘れてた。
「直径一キロの即時結界なんて一花様だけの技だと思ってたのに、他の人にも出来たんだ」
「あんな超人と一緒にしないでください。あの人は訓練もせずに大規模攻撃魔術の展開までできたんですよ?しかも六歳で。いくらオーディンの魂を宿してるからってチートすぎますよ」
「チート云々はリーダーにだけは言われたくないけどね」
ええい、やかましいわ。一花とは一桁数字のトップだ。
オーディンの魂を宿している魔術界の女帝。そして世界でも有数の実力者。SSSランカーだからな。ちなみにSSSランカーは世界でも三人しかいない。
『一花』・『二木』・『三橋』この三人だけだ。もうやばい。この三人が先頭に出るというだけで、もう絶望しか残らないらしい。いわば、最終兵器ってところかな。
「とにかく。いくら元とはいえ、こんな失態を犯してはいけないという事を言いたいんですよ。俺は」
「そうですね、わかりました。あなたもSランカーとは思えませんが」
「それはもういいです。それじゃあ、始めようか神崎さん」
「はい、お願いします。私の事は真由美って呼んでくれませんか?」
「それじゃあ、真由美さんで。参ります」
俺は二本の木刀を構え、真由美さんはレイピアのような形をした木刀を構えた。そうして同時に飛び出した。
はい、同日連続投稿です。できればこのまま一、二話書きたいと思います。もう大奮発だー。というわけで楽しんでいって下さい。