荒療治の治療
あいつらの世界は、人間と獣人、それに吸血鬼が共存する世界だった。街で吸血鬼や獣人がうろついている、なんていうのは街で外国人がうろついているよりもよくあることらしい。
「俺からすれば、とてもそうは見えんがな……」
なんせ、吸血鬼と人間の外見の違いがよく分からんほどだからな。人だと思っていたのが吸血鬼だった。とかざらにあり過ぎてちょっとビビっている。
「まさに驚きの連続だね。今までとは別の意味で驚きだよ」
「魔物がいるとかは慣れたけど……これはちょっとびっくりだね」
俺達は適当な店で飯を食っていた。今は食後の腹ごなしの時間。一応色々と談笑していた訳だが、この世界では今吸血鬼がらみで、だけど危険な状態らしい。
「吸血鬼の身の『疫病』、ね。何か実感がわかないな」
「人間や獣人には関係が無いんでしょう?それなのに、どうしてみんなこんなに恐れてるの?」
「意味の分からない物には怯えたくなるのが、生き物というものさ。さて、そろそろ出るとするか」
俺達が会計を済ませて店を出ようすると、それはおこった。会計をしていた女性が倒れた。俺が急いで近寄ると、黒い斑点みたいな物が浮かんでいた。
噂の『疫病』って奴だな。なんでも発生は昔の『黒死病』と同じような感じらしいが、増殖速度が段違いらしい。三十分もあれば死に至るとか。
周りにいた客や、店員達は怯えきっていた。でも、このまんまで放っておく訳にはいかないだろ!?
「全てを零へ誘え――――最終元素――――」
俺は右手に白色の手袋を現界させ、女性の首元に触れた。そして彼女の中に潜む病原体の一切合財を『存在ごと』消去した。そんな状態を十秒も続ければ、病原体はいなくなった。
黒い斑点の様な物も、今ではその名残すらもない。俺は一応店の人に頼んで、救急車を呼んでもらった。彼女の首筋を見ると驚いていたが、なんだろう?
「さて、俺らはそろそろ行くか」
「彼女、大丈夫そうで安心しましたね」
「そうだね。彼女も問題なさそうだし。取り敢えずは宿の確保かな?」
「待って下さい!」
俺らが振りかえると、そこにいたのは白衣姿の男性だった。一体何の用なんだろう?