お見舞い
その後はどうしたかって?まあ、そりゃこんだけじゃ別に惚れる要素なんか一個もないからね……。普通に何回かお見舞いに行っただけだよ。
「こんにちは~」
「……ああ。一花さん、でしたっけ?」
「ええ。いいかしら?」
「どうぞ。わざわざお見舞いに来て下さったんですか?貴方達に迷惑をかけてしまった俺なんかの」
「ちょっとした嫌味?」
「違いますよ。単純にそう思ってるんですよ。俺と関わっても百害あって一利なし、ですよ?」
「……支部長が言っていた通りだね。そんなに自分の事が嫌いなの?」
「嫌いですよ。俺は誰よりも、何よりも自分の事を嫌っている。誰も助ける事の出来ない力なんて、無意味でしかない」
「……それは言い過ぎじゃない?君は他の人に比べれば、破格の力を持っているよ?」
「いざという時に役に立たないなら意味が無いんです。助けるどころか、他の人に迷惑をかけてしまうんですから……」
「そういえば……どうして暴走なんかしたの?あの忌み嫌われた獣の行動を制限しきれるのなら、そんな事にはならないと思うけど」
「……子供」
「へ?今、なんて?」
「俺が任務を受けた地域に、まだ避難しきれていなかった子供がいたんですよ。その子供を避難させようとしたら、魔獣に襲われましてね。それで大怪我を負いまして」
あの時は驚いたわね。大抵の組織に所属しているメンバーは、避難に遅れた子供を助ける事なんかしない。むしろ放っておくのが当たり前で、助ける人なんかいない。
理由?単純よ。動く上で邪魔だから。そりゃ、自分と敵の戦力が圧倒的なら助けるかもしれないわね。でも、普通そんな依頼を受ける人はいないわ。
「……それ、本当?」
「ええ。そういえば、あの子は大丈夫だったかな……?一応結界は張っておいたんだけど」
「そんな理由で負傷したの?」
それを言った瞬間の慎也のこちらに向けてきた視線は、若干だけど殺意も混ざっていた気がする。それ位圧倒的な威圧感だった。
「貴女にとってはそんな理由でも、俺にとっては重要な理由なんです。
貴女に分かりますか?頼りたい時に、自分にとって大切な人が傍にいない時の圧倒的な不安が。その孤独がどれだけの恐怖を生むのか。
本当にいて欲しい時に、誰もいない悲しみを。そしてそんな時に人に拒絶される事の、絶対的な心の痛みが。
それが分からないというのなら、貴女にそんな理由だなんて言う資格は無い。貴女はそんな事を口にしてはいけない」
「それは……」
「……ふう。すいません。せっかくお見舞いに来て下さったのに……」
「あ、それは別にいいの。たまたま暇だったからだし。気にしないで」
「そうですか?……それなら、また何時でもいらして下さい」
その時に浮かべられた瞳に合った孤独。それを私が埋めたいと思ったのよね。寂しげな笑顔もそうだったけどね。
この人に、笑顔を浮かばせたい。最初はそれだけだったんだけどね。その後、だんだんと色々な事を知って惚れちゃったのよね。