支部長からの頼み
花蓮視点です。
えーと、まずは……慎也が暴走したって話を聞いたところかしら?なんでも、任務の途中で神喰狼に制御を奪われたのが始まりなんだって。
「……それで?その話をどうして私たちに?」
「いえ、誠に申し訳ないのですが……。御三方にもこの者の捕縛をお願いしたく」
「捕縛?どうしてまた。ぶっ殺しちゃえばいいんじゃない?」
「そういう訳にもいかないのですよ。この者というのが、かの『大魔法士』と『剣の才女』の息子でして、こちらとしても失うにしては惜しい存在なのです」
大魔法士。それは慎也の御父上『乾 寛治』。私たちに神の力を与えたといっても過言ではない人物で、しかも一般の人に広く魔術の存在を広めた人でもある。
そして剣の才女。これは千葉家きっての天才、『千葉 香奈枝』さんの事だ。実戦剣術の第一人者で、これも超ネームバリューのある人だ。
「……どうしてそんな人物が『暴走』なんかを?」
「なにぶん宿っている魔獣が魔獣ですので……。相手がかの『神殺しの魔物』となっては、さすがに御三方に頼むしか方法が無く……」
その時は驚いたわね。そん所そこらの魔獣程度なら、組織に登録している人達だけで十分だし有名な奴でもそれ専用の部隊が創られている。
そんな部隊すらも圧倒する技量の持ち主。興味が湧かなかったと言ったら嘘になるわね。でも、正直面倒だったのよね。下手をすればこちらもやられてたわけだし。
「……どうする?」
「私はどっちでもいいよ。正直私だけじゃどうしようもない気がするけどね」
「私もどちらでもいい。大体こういう事はお前が決めていたじゃないか。今更聞くまでもない。お前が決めた事に我々は従うだけなのだから」
「……そうだね。それじゃあ、受けようかな」
「!あ、ありがとうございます!何卒、よろしくお願いします!」
「でも、ちょっと質問がある。……どうしてそんなにその人を助けたいの?その人は『滅び』の時に、私たちの邪魔になるだけなのに」
「……そうですね。はっきりというなら、息子みたいな存在だから、でしょうか。あの男はもう両親を失って久しい。だから、危険な任務ばかり受ける。
まるで、その命を捨てるような行動ばかりする。そんな男ですが、それでも、その成長を見遂げたいとそう思う私の勝手な考えが由縁です」
はっきり言って、この時は驚いた。支部長は、そういう家族というか知り合いの事はあまり気にしない人だったから。そんな人が見遂げたいと思うほどの相手も見たくなった。
その翌日、包囲網にかかった慎也を相手にするために私たちは動き出した。