信念
体中が……すげえ痛い。これほどの激痛は今まで味わった事が無い。これならいっそ気絶した方が楽な気がする……。
「アーチノイズ。『契約』を……続けるぞ」
「……お前の得たい物は本当に『観測者』の地位なのか?」
「何をいまさら。俺は、世界のありようを変えたいだけだ」
「それなら、今日貴様がやってきた事を振り返るがいい。そしてもう一度考えろ。お前の得たい物は、本当にこれ(・・)なのか?」
「ここまで来て……そんな事を言えるような余裕は俺には無い!」
「本当にそうなのか?『観測者』というのは、自分にとって本当に大切な者を捨ててきたような集団だ。だからこそ、俺達は仕事に打ち込む。悲しみを紛らわせるように。
今のお前ならば、まだ留まる事が出来るぞ?」
どうして……今更そんな事を言うんだ?こいつにまでこんな事を言われてしまえば……考えてしまう。俺の進むべき道を。
でも、俺は皆に負い目がある。俺は今日この日の為に生きてきたんだ。それなのに……どうしてみんな俺の有り様を否定しようとする?俺は……間違っているのか?
「俺は……ずっと歩んできた。この茨の道を。そのために、色々な者を亡くしてきた。大切だと思っていた人も、両親も、仲間も。
そんな俺が!今更、こんな所で迷う訳無いはいかないのに!ずっと……ずっと、決めていた事なのに!俺は、世界の、今の有り様を変えたいと思って行動してきた。
その心は変わらない。世界は色々な意味で、変わりつつある。それこそ、『神』の想定しない方向にも変化…いや、『進化』を遂げるだろう。
この世界が偽りとはいえ、『神』の力を手に入れたように。誰も悲しまない世界なんて大仰な事は言わない。でも、悲しみを減らす事の出来る世界にしたい。
それだけが、俺の願いだった。偽善と罵られようと、自己満足の為と言われようとも。それだけを心の芯にして生きてきた」
「知っているさ。お前の事を俺はずっと見ていたからな。……お前は、昔の俺の様だ。大切な者を守るために、自分を犠牲にする。そして気づいた時には、守りたかったものはいなくなっている。
本当に大切だと思える者がいるのなら……手放すな。その手を離してしまえば……お前はもう手に入れる事は出来ないのだから」
「……それでも、俺はこの道を選ぶ。どこまでも誰かの為に。それが、俺なのだから」
「……いいのか?本当に?その道を選べば、お前は後悔するぞ?」
「俺の道は、後悔の道さ。どこまでも迷って迷って……その果てに選んだ道だ。誰かに選ばされたわけでも何でもない。俺が、心の底から本当にしたいと願った事なんだ!」
俺がここでそれを拒めば、確かに家族――――真由美や花蓮は喜ぶかもしれない。でも、俺は絶対にまた後悔しながら生き続ける事になるだろう。
どちらにしても後悔するというのなら、俺は自分の選んだ道を進む。それが、俺の信念であり……家族から教えてもらった大切な事だから。