願いの為に
「慎也、あんたの実力はそんな物なの?」
あれから姉さんに勝負を挑んだけど……やっべえ。あれからはもう別格とも言えるほどに強くなってるわ。俺はいろんな所を斬られていた。
「まあ、疲れ切ってるからな。こんな伏兵がいるとは思わんだろ」
「この世にはどんな事でもあり得る。だから注意を払っておきなさいって昔言ったわよね?」
「確かに。まあ、俺はどんな事をしてでも勝たなきゃならないんだが」
「……あんたはそういう所は全然変わらないわね。その絶対に折れそうにない意志。それは何年経っても変わらないのね」
「それが俺だからね」
「そうね。……でも動くのはよしなさい。あんた、出血多量で死ぬわよ?」
「死にゃあしない。俺はここで死ぬような人間じゃねえよ。それに、俺はもう半分以上人間じゃ無い。出血多量なんかじゃ死なないのさ」
「……まったく厄介ね。偽りとはいえ『神』の力という物は」
何故姉さんがこの世界の神の力を偽りと呼ぶのかは……なんとなくわかると思う。各世界の神の存在は『観測者』が代理をしている訳だけど。
そもそも異世界というのは、『最初の世界』から分岐した並行世界の事を指す。俺達の存在はどの世界にも存在する。どのような選択をしたかによって、未来は変わる。
その分岐によって発生した未来。それが今あるこの世界の事だ。それでも、その別れた世界の俺は俺だから、俺が見に行く事は出来ない。
だからこそ、その『因果律』によってがんじがらめに縛られている『今』を脱却しさまざまな世界を俺は知りたい。その代償がもう家族とふれあえない事だとしても……。
「それなら、その存在を殺すだけよ」
「もはや殺すですか……」
「あんたをこの『契約』から抜くためには、もはやあんたを殺すしかない」
「それは、そうかもね。まだ弱い俺を殺す事は出来ても、アーチノイズは限りなく最上位に近い上位の『観測者』。殺す事は出来ない」
『だが、こやつを殺させる訳にはいかんな』
「今のは……?」
「神喰狼?一体何を……」
『すまぬが体を借りるぞ。我が半身よ』
「ぐがっ!?」
何だ……?だんだん、俺の意識が遠く……。そこまで認識したところで、俺は気絶した。
『すまんが倒れてもらうぞ?小娘』