『観測者』
「刻は来た。もう十分だろう?『観測者』アーチノイズ」
『ずいぶん偉そうな口をきくね?別に契約を破棄してもいいんだよ?』
「その時は俺がお前をその地位から引きずり落とす。今の俺なら、出来ない訳じゃない」
『……嘗めた口を訊くんじゃないよ。たかだか二十年しか生きていない若造のくせに』
「それならあんたは数百年も生きてるご老人だろう?とっとと隠居でもしてろ」
俺は今、街の道路の真ん中につっ立っていた。そこが、俺と『観測者』アーチノイズの契約した場所だからだ。
今更だけど『観測者』というのは、その昔神に仕えていた神官の役割の者と最も神に近い位置にまで立つ事が出来た者に与えられる称号の様な物だ。
だけど、それだけの地位に至った者が普通の生活を送れる訳が無い。だからそういう者たちは、別世界……というか別の次元にまで飛ぶ事になる。
その世界では決して手の届かない高位の次元へと。俺達の空間移動の術は、空間と空間の垣根を超えているにすぎない。教室から隣の教室に移動する事は出来ても、上の階層へ行く事は出来ない。それと同じだ。
『フン……。まあいいだろう。契約は契約だ』
「ならいちいち文句を言うな。あんたの相手をするのはだるいんだから」
『そう言えるのも、この試練をクリアしてからだがな』
「……なんだと?それはどういう」
「なにしてるの?慎也」
「そ、そんな馬鹿な!?」
声は俺の背後から聞こえてきた。この距離で声をかけられるまで、俺が気配にすら気がつかないなんて……!しかもこの声は……!
「ね、姉さん!くっ!このタイミングは無いだろ!?」
「何言ってるの?」
「……姉さん、取り敢えずお帰り。俺はこれから用事があるんだけど?」
「知ってるわよ。そうじゃなきゃこんな所にあんたがいる訳無いしね」
「それなら」
「邪魔させてもらうわよ。これは『観測者』フィエルニクス様のご意思なんだから」
「ちっ!別の『観測者』だと!?」
「そうよ。私の敬愛しそしていつか倒したいと願っているお方よ」
「姉さんより強い奴って……どんだけ強いんだよ?あんまり相対したいとは思わないな」
「あの方はこう仰った。『我らも人材不足なのだ。この場で一人を世代交代させる余裕などないのだよ。だから、その契約は破棄させてもらう』ってね」
「他人が『契約』に口を出すな!絶対にして不可侵。それが『契約』だろうが!」
「そんな事は関係ないわ。私はあんたの邪魔をする。それだけなんだから」
そう告げると同時に、姉さんはどこからか剣を取りだした。姉さんは母さんから完全な形で技を受け継いだ『千葉流双剣術』と『千葉流剣術』の後継者。
ぶっちゃけ俺と姉さんが正面からぶつかれば、俺が負ける確率は七割。最後に相対したのが大体四年位昔だ。あの頃から比べれば強くなったけど……。
こんなに不利な状態じゃな……。まだ疲労も完全には抜けきっていないし。果たして勝負になるかすらわからん。これはまずいな。
今まで名前だけ出てきていたお姉さん登場!物語も色々と佳境に入ってきましたが、最後までお付き合い下さい。