移動
俺がその戦場に到着すると、完全に焦土と化していた。真祖達の眷獣の圧倒的な破壊力と、それを凌ぎきった花蓮の凄まじさが分かるな。
真祖達は俺の魔力を感じ取ると、一歩後ろに下がり控えた。俺の契約をどこまでも守るとは。律儀な物だな。今は有難く感じるが。
「遅くなった。もう大丈夫だ」
「……二人は?」
「殺しちゃいない。戦闘不能の傷は与えたが……今、真由美が回復魔術を使って治療してるしそのうち動けるようになるだろう」
「よくもまあ、家族に対してそこまでできるわね?」
「忘れるなよ、花蓮。我が悲願の成就はもうすぐそこまで迫っている。その道を阻むのならば例え家族であろうとも、否、家族だからこそ容赦はしない」
「家族を思うが故に……って奴?くだらない!家族よりも、その願いが大事なの!?」
「……花蓮。それを比べるのは卑怯ってもんだ。俺だって家族の事が大事だよ」
「それなら!」
「だけど、数年がかりで行動してきたんだ。その行動を今更止める訳にはいかない。この日のために命を奪ってきた者たちの為にも」
俺がそう告げると、花蓮は表情を暗くした。そして『言葉は不要』とばかりに神槍を放ってきた。もちろん全部かき消したけど。
「……俺は、これまで生きてきた。お前と真由美、それに他の多くの人々。たくさんの人々関わってきて、分かった事もあった」
「……」
「それは、皆がそれぞれの願いを持って生きているという事だ」
「……」
「俺がそうであるように。お前がそうであるように。真由美が、花蓮が。そうであるのと同じように」
「……それなら、どうして分かってくれないの!?」
「お前達の気持ちが分からない訳じゃない。俺だってお前には戦ってほしくないと望む。それと同じ事だってぐらいな」
「……それでも戦うんでしょう?」
「当たり前だ。今は、お前と一緒にいる。それだけが事実だ」
「そう、だね……。それなら」
「今を楽しむだけ、ってな!」
真由美は槍を振るい、俺は拳を振るう。自分たちの願いを突き通すために。どこまで行っても戦う事でしか、通じ合えない俺達だからこそ。
何度ぶつかり合っただろう?花蓮は何百本と槍を打ち込んできたし、俺は膨大な量の魔力を消費している。
今となっちゃ二人とも肩で息をしているレベルだ。消耗が激し過ぎる。こんなに力を使ったのは何時ぶりだ?
「次で最後、かな?」
「いいよ。……次の技が私の全力にして全開」
「いいねえ。そうでなきゃなあ!」
俺は拳に力を貯めた。魔力と神力を混ぜ込み、どんな物であろうと破壊する力を右腕に込めた。これが持つ時間は……推定十秒。
「全てを射抜き、我が障害を排除せよ!『神槍の宴』!」
俺の周りには、極大ともいえる槍が五本現れた。一体こんだけの質量の物を生み出すのにどれだけの力をつぎ込んだのやら。
「全てを喰らい、全てを引き裂け!『神に仇なす神狼の牙』!」
俺はその一本に拳を叩きこんだ。真正面からだった所為で、衝撃がもろに身体に響き渡る。鎧の中から血を吐いた。まだそれが紅かった事に、安心感を覚えていた。
俺の拳を受けた槍は、その表面をずたずたに引き裂かれそして存在の力を喰らわれた。これは神喰狼の牙を極限まで高めた物だ。だがこの力が時間を迎えれば、俺の鎧は消える。
『Ⅹ(テン)』
この状態になった事で、鎧に生まれた宝玉から音声が響き渡った。ちっ!分かってるよ!俺はすぐさま他の槍に目を向けた。
すぐに他の槍にも拳を叩きこんだ。でもこれだけの質量だ。持つのかも分からない。それでもやるしかない。ここまで来て負ける訳にはいかない!
『Ⅸ(ナイン)』
俺は三本目に移ろうとした所で、小さい槍に脇腹を貫かれた。こんな物……どこから!?見ると空間が裂けていた。暗器みたいなものか!厄介な!
『Ⅷ(エイト)』
何とかして三本目を破壊した所で、他の二本も同時に動き出した。一本を受け止めると、その後ろからまた小さい槍が複数飛んできた。
『Ⅶ(セブン)』
槍を一時的に受け流し、小さい槍を全て迎撃した。そこで一安心した所で、でかい槍に正面から向かってこられた。何とか回避したものの、余波で吹き飛ばされた。
『Ⅵ(シックス)』
そしてすぐさま飛んできたもう一本に思いっきり拳を叩きこんで、その槍を破壊した。残るはあと一本!そう思って振りかえると――――
『Ⅴ(ファイブ)』
何百本という数の槍が、空中に漂っていた。これを全部迎撃しろ、と?まったく厄介きまわりない業だな!こいつは!
『Ⅳ(フォー)』
大ぶりの一撃でその六割近くを全て撃墜させ、残り四割は飛んできた瞬間に攻撃を当てまくった。そして全てを落として安心しきった所に、最後の一本が飛んできた。
『Ⅲ(スリー)』
その攻撃で、喰らった分のエネルギーの八割近くを奪われた。だが攻撃力が小さくなった分、槍の表面を連打して罅を入れた。
『Ⅱ(ツー)』
そして俺に向かって思いっきり飛んできた瞬間に、カウンター気味の一撃でその槍を完全に崩壊させた。そして俺の右腕の骨は粉砕した。
『Ⅰ(ワン)』
激痛は走るがそれでも意地でなんとか真由美の前まで駆け抜けた。だがそこで――――
『TIME OVER』
術式の効果が切れた。俺は鎧を保っていることもできなくなり、左腕に籠手を装着させるだけになった。それも昨日のほとんどは使えなかったが。
「この勝負は、俺の勝ちだな」
「……そうだね。もう私に力は無い。もう好きにして」
――――神を喰らいし狼よ。今この者の『神』を喰らえ。
俺の身体に流れてきたのは、北欧の神「オーディン」の記憶。そして、その魂にしみ込んでいた花蓮の想い。溢れた花蓮の想い。
「お前、結構辛いだろう?」
「……そうだね~。もう動けそうにないよ。おんぶして」
「……少しの間だけな。もすすぐ刻限を迎える。その時間を迎えれば俺は、『観測者』になる」
どうやら花蓮はあの槍の嵐の術に己の生気すらも込めていたらしい。そりゃあ、あんな風にもなるわ。
俺は風神獣に花蓮を真由美の所まで送ってもらうように頼んだ。喜んで了承してくれた。俺はそれを見送った後、時が来るのを待った。