VS太陽神
端的にいえば、俺は三橋さんの剣戟を回避し続けた。そうしなきゃぶった斬られてオダブツだ。
ぶっちゃけかすり傷みたいな物だけど、鎧の各部を斬られた。とはいえ、出っ張りの部分だから別にいいんだけど。
「くっ!いい加減おとなしく斬られろ!」
「嫌なこった!大体あんた雰囲気変わり過ぎだろ!?」
「こっちが素よ!こんな場面で仮面なんかかぶってられないわ!」
「面倒くさっ!」
本当に面倒くさい。俺は打ち込んではかわす。三橋さんは斬りこんではかわす。或いは八咫鏡で反射させようとした。全部当たりはしないが。
二木さんの方は、第一真祖が眷獣を召喚してこちらに来れないようにしていた。何とか救援に向かおうとするが、眷獣の圧倒的な力に四苦八苦していた。
「其は天宮の獣!」
「甘い!眷獣なんか召喚させる訳無いでしょ!?」
「風の加護を受けたが故に、全ての者に忌み嫌われた者よ!」
「詠唱を止めない!?」
俺は、何とかミリ単位の剣戟を回避し続けた。ぶっちゃけ奇跡的な時間だった。あそこまで集中できた事なんてなかった気がする。
「我と汝が交わりし時、それは世界の終末なり!」
「はあああ!」
「来たれ――――風神獣!」
俺の身体から圧倒的な量の魔力が溢れ出てきた。俺が呼び出したのは、世界を回る中で見つけた一人ぼっちの神獣だ。圧倒的な加護を受けた所為で孤独になったこいつに、俺は手を差し伸べた。
昔の俺と一緒だったから。そんなこいつに『家族の温かさ』という物を教えたかった。そして過ごす内に、俺はこいつと契約した。
『呼んだ?シン』
「ああ。ありがとうな、ヴェル」
『気にしないで。それで相手は神様を宿した人か。……あんまり暴力は振るいたくないんだけど』
「分かってる。だから、結界を張っていてくれるだけでいいんだ」
『それだけ?分かった。お安い御用だよ』
風の結界は見えない分、強力な結界だ。それに神獣が張るんだ。これで満に一つ増援の可能性は無いだろう。
「……それで?どうやって私に勝つというの?」
「こうやってですかね」
俺は今までの攻撃がお遊びにも見えるかのような速度で、拳と蹴りを放ち続けた。三橋さんは急激な加速だったにもかかわらず、それを何とかかわし続けた。否、かわすことしかできなかった。
え?なんで今まで力を抜いていたのか?それは俺がこの鎧の状態に慣れ切っていないからだ。今までのはいわば前哨戦。小手調べにすぎない。
だが、かわし続けるのにも限度がある。だから神気を放って、一度仕切り直しになった。
「なるほど。確かにとんでもない早さだね」
「分かっていただけたなら、よかったです。これであなたは俺に勝てないことが証明できたでしょう?」
「なめないで。私は『三橋』なのよ?こんな所では負けない」
「それではどうするというんですか?この状況下で」
「こうするんだよ」
三橋さんがそう告げると同時に、三橋さんの身体からとんでもない量の神気が放出された。少なくともこんな量は花蓮にも出せない。
『我が名は天照。日の出所より生まれし太陽神なり』
「まさか……神と契約したのか?」
『軽々しく口をあけるでないわ。忌み嫌われし獣よ』
「そんな事をすれば、貴女はただでは済まない!最悪、神に呑まれるぞ!?」
『この娘はそれぐらい分かっておる。だが、貴様如きの下等な男を救うためにこのような事をしたのだ』
「そういうのを……偽善っていうんだよ!」
俺は身体から『氣』を放出しながら、さっきと同じように突っ込んでいった。だがそれを事もなげにかわして見せた。そればかりか蹴りを放ってきた。
『その程度か』
おいおい、マジかよ?こんな奴、一体どうやって倒すんだ?
太陽神『天照』。その実力はやはり日本神話でトップを張れるだけあって、とんでもなかった。
「豊穣なる泉!我が身を守れ!」
『全てを焼き尽くせ!炎天双火!』
俺が水の術式で盾を創ってもすぐ後に、炎の術式をぶつけられて相殺される。攻撃の術式は八咫鏡によってすべて弾かれる。
まったく、これが『神』か。やっぱりやってらんねえな。こんな化け物と闘う運命とか俺はどんだけ不幸な存在なんだ?
「鮮烈なる雷!総てを破りし強靭な矛となれ!『雷霆矛』!」
俺は肉体強化で動き回り翻弄し続ける。そのおかげで今の所、剣戟は当たっていない。でも、それも時間の問題だ。子供だましにすぎない。
俺が拳をコンボになるように放ち続ける。それでもかわしつづける。だが、その攻撃にもようやく天明の様な物が見えてきた。
「くっ!」
かすっただけだけど、ようやく当たった。これなら、いける!
「劫火!」
この攻撃は当たってしまったが構うものか!腹に向けて拳を、蹴りを連続で叩きこんだ。何とか耐えていたが、それでも一発の拳が腹に当たった。
「ガハッ!」
「こいつで終いだ!」
――――神を喰らいし神狼よ。今、この者の『神』を喰らえ。
心臓の真上の部分に掌底を撃ちこみ、そして文言を唱え『天照』を喰らい始めた。だけどやっぱり『太陽神』だ。そう易々とは喰いきれない。
何とかを俺を剥がそうと剣戟を放ってくるが、それを全て受け流し続けた。後ろで何か声が聞こえてくるが気にしない。
そして長い時間の果てにようやく終わりが見え始めた所に、三橋さんは喋り始めた。
「これで貴方は、より強き力を手に入れた。でもその代わりにより強い神気を手に入れる事になる」
「それは貴方がより神に近づく事になる」
「そうすれば、貴方は悠久の時を歩むことになる」
「神とは力であり、呪いなのだから。ただでさえ、それを宿した人間を長寿にするのだから」
「その全てを喰らったあなたは、もはや人間ではなく『完全な神』になる」
『そんな事は分かりきっていることだ。俺はその覚悟を持ってここまで生きてきた。だからこそ。俺はこの使命を果たす。俺の一族に課せられた呪いを終わらせるために』
俺は今まで分かっていた。神を喰らい続けると言う事は、自分がより神に近づく事なのだと。その覚悟も無しに戦っている訳じゃない。
それでも俺は、ここで戦う事を止める訳にはいかない。ここで、『滅び』という名の呪いを断つために。俺は戦うのだから。
「……そう。それならあたしに言える事は……もう……ない……ね……」
ドサッ。俺は三橋さんを地面にゆっくりと倒した。そして二木さんの方を向くと、憤怒の表情を浮かべた二木さんが立っていた。
「貴様!よくも!」
「ここからが、貴方と俺の闘いですよ」
俺はゆっくりと拳を構えた。二木さんはすでに『神極雷霆』の発射準備に入っていた。