ピノキオ【陰猫(改)ver.】
むかしむかし、あるところに人形作りのゼペットと呼ばれるおじいさんがいました。
ゼペットおじいさんは繰る日も繰る日も木材から人形を作る毎日を送って独り寂しい毎日を送っていました。ゼペットおじいさんはそんな孤独な心を埋めるように密かな楽しみとして子どもの姿をした木製の人形を作ります。
名前はピノキオです。いつか、このピノキオが喋り、自分に話しかけたら、どんなに楽しいかを想像します。
それから長い年月が経ちました。ゼペットおじいさんはもう人形作りが出来ないほど、弱りきり、ベッドで寝たきりの生活を送るようになりました。
ゼペットおじいさんはいままで丹精込めて作り上げた木製の人形──ピノキオに話しかけます。
「・・・ピノキオ。お前が本当に子どもだったら、どんなに良かった事だろうかと毎日のように儂は考えるんじゃ。
想像の中ではお前が私に話し掛け、様々な冒険をするんじゃよ。
学校に行く道中、悪い大人たちに騙され、やんちゃなお前は悪い大人たちについて行ってしまう・・・儂はそんなお前を連れ戻すべく、大海原を旅するんじゃ。
気が付いたら儂はクジラの腹の中におり、いつか、成長したお前に再び、会う事を夢見ながらクジラの腹の中で過ごすんじゃよ。
そして、幾ばくかの時が過ぎ、とうとう、儂はピノキオ──成長したお前に出会うんじゃ。再会したお前は悪い大人たちの誘惑に打ち勝ち、大人として成長しているんじゃ。
儂はそんなお前と一緒にクジラの腹から脱出し、お前の事を空から見守っていた神様が本当の人間にしてくれる──そんな事をいつも考えるんじゃよ」
焦がれるようにゼペットおじいさんはピノキオを見ますがピノキオが喋る事も返事をする事もありませんでした。
どんなに丹精込めて作ったとしてもピノキオは木製で出来たただの人形でしかありません。でも、ゼペットおじいさんにとっては大切な我が子のような存在に変わりありません。
ゼペットおじいさんは弱りきった手でピノキオの頬を撫でながら続けます。
「儂に夢を見せてくれてありがとうな、ピノキオよ。お前がいたからこそ、孤独な儂の心は救われた・・・お前に夢を貰った・・・それだけで儂は十分、満足じゃよ」
それからまた、しばらく経ち、ゼペットおじいさんの別れの時がやって参ります。
ゼペットおじいさんの遺書にはこう書かれていました。
『儂の墓にはピノキオを一緒に埋葬してくれ。天国へ逝っても儂がこの子と離れてしまう事はとても辛い。天国では本物の人間のように笑って儂と幸せに暮らすピノキオに見守られながら、儂はこの子と幸せな日々を送るんじゃ。
現実では孤独に人形を作り続けた最期のワガママじゃ。神様がいるのなら、この思いをどうか聞き届けてくれないだろうか?』
その遺書が読まれてゼペットおじいさんの孤独で寂しい暮らしとピノキオと呼ばれる木製の人形に彼がどれだけ救われていたのかを知り、人々は孤独に耐えながら、しかし、それでも幸せを夢に見たゼペットおじいさんの姿に涙します。
ゼペットおじいさんの遺書の通り、神父さまはピノキオと呼ばれた彼が我が子のように可愛がっていた人形を彼の墓に入れて一緒に埋葬して弔います。
こんな孤独なゼペットおじいさんのような人が現れぬようにその村では人々が支え合い、ゼペットおじいさんが思い描くピノキオの物語をおとぎ話にして人から人に物語として伝えるのでした。
【おしまい】




