冷たい上司の呪いを解いたら、壁ドンしてきた~突然壁に追い詰めないでください、壁ドン?聞いたことがありません~
※結構ご都合主義です。
※一時創作では中々みれないキャラ崩壊があります。もはや楽しんでください。
_____________ドン
(私、ニーナ・ミスナルは、上司に壁に追い詰められています。俗にいう”壁ドン”というものなんかな。私には威圧的な上司からの尋問にしか思えんけど。)
なぜ、こうなった。
◇◇◇◇
__________カランコロン
ベルの軽快な音が鳴り、解呪屋のドアが開く。
(まずい、眼鏡どこだったけ。)
机の上を探してみても見つからなかったため、フードを被り、瞳を隠すために濃いヴェールを身に着ける。
(多分男だ、妙に体格が良いな。騎士とか?髪は長めで明る________)
気がづいてしまった、気がづきたくなかった。その来客者が私の嫌いな上司だったことを。
その男はオリュントス国の第一騎士団、団長の、リアム・ローズヴァルだ。肩より少し上まで伸ばしている髪は淡い栗色をしていて、狸の様に垂れている目は、エメラルドの瞳を囲っている。顔だけ見ればかなり中性的で、格好良いというよりも麗しい。しかも伯爵家の長男ということで、御令嬢からも人気だ。
そしてニーナは、その第一騎士団の雑務担当、滑落気味の男爵令嬢だ。書類整理に物資の配給チェックなど、地味な仕事をこなしているのだが、いつの間にか昇進してしまいなぜか団長の補佐(?)秘書(?)の役割になっていた。ちなみに口の悪さとふとした時にでる言葉遣いは友人の騎士たち譲りだ。
私は上司に嫌味をいわれたり威圧的な態度をとられたりしながらも、いつも「ねぇさま、えらい!」と言ってくれるかわいい弟ことジークと、ここまで育ててくれた両親のために一生懸命働いている。
ここに来たという事はまさか上司にも何か呪いが掛かっているのだろうか。
(いや、騎士団長やってるくらいなら無いか。)
”上司”がゆっくりとした足並みでこちらへ歩いてきた。私だという事が声でバレなければいいのだが。
「…………”金糸雀の解呪師”はどこだ。」
(相変わらず威圧的だな、副業まで上司と関わりたくねぇ~)
ニーナは内心悪態を付きながら、いつもより慎重に低い声を出した。
「私です。騎士様はどのようなご用件で?」
「は?」
驚くのも無理はない。解呪というものは体力をかなり持ってかれるため筋力の高い男性がやっている事が多い。まあ私の場合少年に見られることが多いが。
上司は目を見開き数秒固まった後、ニーナの頭のてっぺんからつま先まで見つめた。納得したような表情をしたのち、嫌な感じににやりと口角を上げる。
「ああ、だから金糸雀なのか。」
ニーナの肩まである髪は、鮮やかな檸檬の様な色だ。恐らく金糸雀の意味の7割はそこだ。残りは、
(絶対ちっこいって思われるんだよな。だれが小鳥だ。てか女だし。女基準だったらそこまでちっこくないし。)
この国では男性の髪が長いことも珍しくない。軽く変装すれば少年みたいになることもできる。
「まあ平均身長より少し低いだけ____」
「金糸雀のことを話しにきたわけではない、本題に移ろう。」
(感じ悪っ!敬語やめてぇ~!)
だめだ、もし正体がバレていた上で、ここで口調を崩したら首が跳びかねない。二つの意味で。
「そうですね、で、どの様な呪いなんです?人に悪態をついてしまう呪いとか?」
かといって嫌味くらいは言いたくなる。このくらいは許されて欲しい。上司の方をみると目を極限まで開いて驚いていた。
(何で……?そこまで嫌味が効いた?)
「チッ、なぜ分かった!………その通りだ。言葉を遮ってしまったり、舌打ちしたり………」
上司は嫌味っぽい笑みを浮かべた。眉間がぴくぴくして、まるで操られているように表情と口が動いている。
(これは本当っぽいな)
という事は今まで冷たかったのは呪いのせいだったのだろうか。正体を隠しているので聞けるはずもなくもどかしい。
「なるほど。社交界でよくローズヴァル様の噂は聞きますがそのような呪いの類のは聞いたことが無いのですが、」
「一部の使用人と現伯爵にしか教えていない。」
(まあ、それはそうだよな。)
呪いとは、先天性で起きるものだ。このオリュントス国では呪いがある者は就職で不利になったり、貴族だと跡取りから外されることがある。
ただ稀に呪いを隠し通す者もいる。それらの呪いは口調だったり姿だったりと、比較的バレにくい物が多い。その例が今私の目の前にいる上司だ。まさか騎士団長が呪いに掛かっているなど誰も思わないだろう。ちなみに大昔の治癒魔法にもそのような症状が副作用としてでていたらしい。
「なるほど。口外は言うまでもありませんがもちろんしません。」
「当たり前だ。」
「では、私の秘密もお教えしましょう。」
「………なぜだ。」
「私の自己満足です。過去に来たお客様にもそうしています。」
人の弱みを握っているということは優位な立場にあると思いがちだが、ニーナは例え苦手な上司であろうと人を蹴落とす趣味はないため、むしろ精神的に参ってしまう。だから、ニーナ自身の秘密を教え少しでも負担を減らそうという完全な自己満だ。
「私は、女です。そして、噂ではひっそりと暮らしていると言われていますが、全然外にでて買い物もしますし、_______」
「おい待て女と言ったか?成人男性かと思ったら少年で今度は少女か?馬鹿を言うな。」
「本当です。」
「………まあ良い、性別関係なくともかく呪いを解けたらいいんだ。」
(貧相な体つきで悪かったね!)
まあ少年のフリをしていたので文句は言えないが。
ニーナは改めて上司と向き合い、目を見た。それにしても綺麗な瞳だ。水々しいマスカットとブルーべリーを混ぜたような、お腹空いたな_________
「おい、聞いてるのか?」
「あっ申し訳ありません。もう一度おねがいします。」
上司は足を組みなおして頬杖をついた。あまりにも自然な動作なため本当に本心でやっていないのかと疑いたくなる。
「俺の呪いは反発しようとするほど酷くなる。部下や使用人にも誠意をもって行動しようとすると嫌味を言ったり悪態をついてしまう。」
「では社交界での御令嬢方からの評判は?ローズヴァル様はかなり人気のようですが。」
「なぜか俺の意の反する時や、重要な会議の時にはいくらか紳士的な口調になる。なぜ貴様は社交界の噂を___なんでもない。お前について深堀しても全く意味がないからな。」
「意に反する…失礼ですが、御令嬢方が苦手なんですか?」
上司は不自然に口角を釣り上げて口を開いた。
「ああ、あのまどろっこしい人間関係やいかにも動きづらそうな衣服、つけすぎなのかかえって臭い香水………」
(これは呪いとかじゃなく本心だな。)
「それは分かります。いくら殿方を見つけるためとはいえ御令嬢方はお美しいのだからあそこまでやらなくていいのに、というのは建前で私は単純に動きやすい服が好きだからめんどくさいんですよね。」
「はは、確かに貴様は着飾っても意味がないからな。」
(これは呪いのせい呪いのせい呪いのせい…)
ニーナは短く咳払いして真剣な表情をした。
「とっともかく、その類の呪いは比較的簡単に解けます。2,3時間で終わるので今やりますか?」
「今日しか暇は取れてない。にしてもよくそんな貧相な体でできるな。」
「………それには理由があります。今から見るものは他言無用で。」
ニーナはそっとヴェールを捲った。上司の目には、深い青と金が映った。ニーナの瞳は二層に分かれていて、下は濃紺、上は太陽のような金色のグラデーションになっている。そしてこの色は_
「………!?」
(珍しいもんな、二色。)
この反応にも慣れているためさほどこちらも動揺しない。
ニーナはエメラルドの瞳をのぞき込み、詩の一節を唱えた。すると上司の胸から少しずつ黒い靄がでてくる。
「はい!これで後2,3時間安静にしていれば完全に呪いは消えるので!代金はとりません。その代わり、他言無用で。」
「なっなぜ、そんな力を…………」
どうやら上司は言葉が出てこないようだ。
(そりゃそうだ、こんなあっさりと治せるなんて___ってまずい!)
解呪をした後は魔力が切れてしまうため瞳がいつもの姿に戻ってしまう。フードを被りヴェールを着けようとしたが上司に手を掴まれてしまった。すでに私の髪色は黒に代わり、瞳は空色になってしまっていた。
「ニーナ・ミスナル。君だったのか。」
いつもより柔らかい表情で上司がこちらを見つめてくる。呼び方も貴様から君になった。
「ローズヴァル様、なんのことでしょう?どこの令嬢ですかそれ知らん知らん!!!」
「なぜニーナ・ミスナルを令嬢だと決めつける?」
(まずい墓穴掘った………。お父様、お母様、ジーク、今までありがとう。)
なぜか上司の胸から黒い靄が止まった。
「あっ!だから安静にと!座ってく___」
「嫌です。ミスナル嬢。」
(ミスナル嬢???さっきまで君だったよね?)
心なしか上司の目がいつもより垂れている気がする。距離も近いし雰囲気も柔らかく…いやなぜか威圧感が増している気がする。
上司は、いや、リアム・ローズヴァルは掴んでいた私の腕を離し、逃げる隙も無く私の体を後ろの壁に押し付けた。押し付けたというものの、優しく、でも絶対に抜け出せないように私は拘束されていた。
◇◇◇◇
今に至る。
(なんか、既視感あるな、これ。ああ、そうだロマンス小説でシルヴァがセレスティアに___)
「大丈夫ですか?あぁ、いきなりこんなことされて動揺してますよね。ごめんなさい、抑えられなくて。」
(敬語、ごめんなさい、心配)
昔の上司じゃ考えられないワードが次々と出てくるため頭がパンクしそうだ。取り敢えず情報整理をしたいため恐る恐る口を開く。
「え~まず、ローズヴァル様は私の上司、団長ですよね?」
「はい。あなたは私の専属秘書です。」
(ああ、秘書だったんだ。あの書類は契約書だったのか。)
団長の秘書に配属される前は、第一騎士団全体の雑務をやっていたのだが、ある日団長に呼び出され、4枚ほどの書類にサインを書かされた。その時の団長の顔が怖すぎて何も読まずにサインをしてしまった。あれのどれかが専属秘書の契約書だったらいし。
「次ですね、本来もう少し時間のかかる解呪がものの2分ほどで靄の排出が止まってしまった場合、もう一度解呪しないと完全には解けないはずなんですが、それについては知っていることはありますか?」
「分からないです。」
毒気のない笑顔で言われてしまっては信じるしかない。昔ケロべロスだったものが人懐っこい大型犬にでもなったみたいだ。
「あぁ、でも強いて言うならば、」
「強いて言うなら!」
「私の愛の力じゃないですか?ニーナ嬢。」
(あ~、何かしらの副作用だなこれ。あとで医師を紹介しよう。)
ニーナはもはや”ミスナル嬢”呼びから”ニーナ嬢”呼びになったのも気にとめなくなった。先ほどから情報量が多すぎたからだ。
「最後に、なぜこの体勢なんですか?頭とち狂いましたか?」
もはやニーナの方が悪態をついている。上司は大輪の薔薇が咲いたように微笑んだ。目に悪い。
「えぇ、ようやく本心を伝えられそうで頭が狂いそうです。歯止めが効くといいんですが.........。」
(なるほど、部下としてのニーナ・ミスナルがよほど嫌いだったんだ!)
上司はなぜか悲しげに口を開いた。
「もしかしたら、いや、かなり嫌われてると思うんですが………好きなんです。」
「あぁ、マスカットですか?分かります。」
(きっとマスカットの話をしているんだよな。)
今間違いなくとち狂っているのはニーナだ。どこからマスカットの話題になったんだ。
「いえ、ニーナ嬢がです。騎士団の雑務として来たときから、ずっと、ずっと。だから思いを伝えるために解呪しに来たんです。でもまさか解呪師がニーナ嬢だったとは.........なんだか恥ずかしいです。」
頬をバラ色に染めて上司言う。瞳はうるんでいてまるで乙女のようだが絶対に逃がさないように拘束されていて温度差が凄まじい。
呪いの事を知った上で思い返せば心当たりはある。
例えば、初出勤から2週間たった時、書類を一枚無くしてしまい焦っていたら上司が、『そこの黒髪の、これはお前のか?』__ニーナは謝罪と供に感謝を伝えた。すると、
『雑務が向いていないなら別の場所を薦めるが。』___この言葉だけ聞いたらただの気づかいにも聞こえるが、人を嘲笑うような表情で言ってきたものだからカチンと来てしまった。
だがニーナは貴族にしては苦しい生活をしてきただけあって、精神面では異様に強く、負けず嫌いな性分なため、『お気遣いなく、必ずお役にたててみせますわ。』と、きちんと令嬢の言葉で、笑顔で言ってやった。
そのあと先輩からは慰められたが、負けてたまるかと思い団長とは胸を張って喋っていた。完全に強がりだった。
「あ~、なるほど。たしかに雑務担当の女性では私だったもんな~、団長と普通に喋ってた人。」
「はい、その時私は嬉しくて…その時はまだ恋情までは行かなかったのですが、喋るうちに、人懐っこい笑顔や、社交界の令嬢と違い自分の意志で自分の人生を歩んでいるところとか、淡い水色の瞳と白い肌にに映える黒い髪も、釣り目を気にしてる所とか、首の後ろにある黒子、それに辛い物が___」
「あの!本人の前でそれ言わないでください!!!」
ニーナの顔はもう熟れた林檎よりも真っ赤だ。本黒子の位置を知られていることに恐怖を覚えるべきなのだが。前は嫌いな上司だったはずなのに途端に優しく(どころか口説かれた)ら照れてしまう。
「流石に…恥ずかしいです…。」
上司は突然膝から崩れ落ちた。顔を片手で抑えて何かに苦しんでいる。なぜか片方の手は私を掴んでいるが。
「えっあの大丈夫ですか!?解呪の反動!?」
上司は唸るように小さな声でつぶやいた
「ゕっゕゎぃい…。」
「は?」
上司は膝が震えてるもののゆっくり立ち上がり、私の両手を包み込むように掴んだ。頬はまだ赤いが真剣な顔をした。
「いままで酷い態度をとったことは、呪いのせいだとしても私の責任ですし、自業自得です。ですが、どうしても、この気持ちはなかったことにできない。もちろんニーナ嬢が嫌なら断ってくれても構いません。………どうか、僕の婚約者、いえ、気軽に恋人に、なってくれませんか...?」
「___ごめんなさい。恋人になることはできません。」
「っ_____分かっていても、言葉にすると、いえ、なんでもありません。ミスナル嬢のお時間をとってしまってすみません。では。」
そう言うとリアム・ローズヴァルは目を伏せてその場から立ち去ろうとした。
(ふざけるな。)
(私が振っといて無責任だ。彼に気を持たせてしまうかもしれない。)
ニーナはリアムの袖を掴んだ。元ケルベロスの大型犬は目元を赤くして振り向いた。
「お友達に、なってくれませんか?」
「………気を使っているんですか?」
「違います!!!」
思わず叫んでしまった。本当に気を使っているわけではないのだ。
「確かに!私は最初あなたみたいな上司のことが嫌いだった!」
令嬢らしからぬ言葉使いだ。でも、本心を言いたい。
「でも、悪い人ではなかった!呪いを抜きにしても、戦う姿はかっこよかったし、悪態をついてたとしても根本的に悪ではなかった!でも今すぐに恋情を抱けるわけじゃない、だから!」
「あなたのことが知りたい!!!」
私の友人(予定)は、こちらをみて、微笑んだ。
「ありがとうございます………やっぱり好きです。愛して___」
「友人相手に愛してるとは言いません。まずは私を堕としてからにしてください!!!」
「では、呼び方を改めませんか?ぜひ、私のことはリアムと。リーでも良いですよ?」
この男、気を許したらいつの間にか結婚式を挙げられそうだ。気を付けよう。
「では、リアム様と。」
「………もう一度呼んでくれませんか?」
「いっいやで_」
「呼んでくれなければミスナル男爵家に正式に婚約を申し込もうと思うのですが...だめですか?」
上目づかいで言うような内容ではない。
「りっリアム様…。」
「ありがとうございます。では、これからは友人としてよろしくお願いしますね。もう日が暮れているので家まで馬車で送りましょうか?」
「………それはどの家ですか?」
リアム様は先ほどとは違う艶やかな笑みを浮かべた。
「バレてしまいましたか。」
(なんだよ、なんなんだよ。わたし嫌いだったはずじゃん。)
私が堕ちる日はそう遠くはなさそうだ。
最後までお読み頂きありがとうございました。好評でしたら続編を書きます。よろしければ、☟の☆を★に変えて下さい。作者が跳んで喜びます。誤字脱字、アドバイス等あればぜひ!
よければ【冷徹な騎士団長の話し方がギャル語になりました~古代のフィジカル治癒はもう二度としませんから許して~】も読んでみてください。




