#3 腹が減ってはなんとやら
「まずは腹ごしらえよね!」
そう言って連れてこられたのは、城下町に入ってすぐのレストラン・スクワロル。なんでもこの街に滞在する冒険者たちが重宝しているらしく、値段に反して量がとても多いそうだ。店内は多くの冒険者で賑わっており、さっきのシニアの説明にも合点がいった。
「リースさん!いつものー!!」
シニアが元気よく呼ぶと、
「あいよ、いつものね」
と女性は優しく答えた。
「リースさんのミートスパゲティは天下一品よ!」
上機嫌なシニアに、俺も思わず笑みがこぼれる。ミートスパゲティ...よく母さんに作ってもらっていた思い出の料理だ。不意に母親の顔が浮かぶ。今頃どうしているんだろうか、そんな思考がよぎるが、首を激しく横に振って無理やりかき消した。
「はい、いつものね〜 特大ミートスパゲティ2人前!」
置かれた皿を見て唖然とした。そうだった...値段の割には量多いんだっけ...?
これでもかというほど大きな平皿には、竜巻のように盛り付けられた大盛...いや特盛のミートスパゲティが鎮座していた。
「こ、これ、ほんとに2人前なのか...?」
食べ切れるのか?青ざめる俺をよそに、シニアは端に置かれたフォークに手を伸ばす。
「美味しそ〜!いただきまーす!」
フォークで豪快にスパゲティを絡め取り、自分の皿に盛り付けるシニア。俺も負けじとスパゲティを自分の皿に載せる。そして一口目を口に運んだ瞬間...
「っ!...めちゃくちゃうまいな」
「へほ?(でしょ?)」
頬をリスのように膨らませたシニアがニコッと自慢げに言う。なぜ彼女が自慢げなのかは知らないが、確かに美味い。食感を残した粗挽き肉と芳醇な香りを放つトマトソースと果実酒。それらが相まって絶妙な味わいを生んでいる。そして...
「隠し味は生姜か...」
「ハヤタ、このお店初めてなのによく分かったわね」
シニアは感心した様子で言った。だが俺はすぐに違和感を感じて彼女に問いかけた。
「シニアは生姜を知ってるのか?」
「ショーガーでしょ?もちろん知ってるわ」
と不思議そうな表情で答えた。どうやらこの世界では、生姜のことをショーガーと呼ぶらしい。多少イントネーションの違いがあるものの、対して呼び名は変わらないようだ。意外な学びを得た。
しばらくしてからお勘定を済ませたシニアとともにレストランを後にした。結局俺の胃袋は総量の3分の1程しか受け付けず、残りは全てシニアが平らげてしまった。こんな華奢な体のどこにそんな栄養素が行くのだろうか...と思ったが、彼女の豊満な胸がその真相を静かに物語っていた。
「詳しいことは聞かないけど、行くあてはあるの?」
振り返ったシニアと目が合い、ハッとする。
「実は俺、記憶が曖昧なんだ」
咄嗟に出たにしては良いんじゃないか?記憶喪失ということにしよう。
「本当?それは大変ね...」
ひどく心配そうな彼女の顔を見て、優しい子なんだなと改めて思う。俺を助けてくれた時もそうだ。見ず知らずの俺を身を呈して救ってくれた。そんなこと、みんながみんなできる訳じゃない。だから俺はシニアに尊敬に近い感情を抱いていた。
「そうなってくると...泊まる宿でしょ?それにお金がいるから、働き口も探さないといけないわね」
「そんな早々に雇ってくれるとこあんのか?」
うーん...と少し考え込んだが、ひらめいた様にシニアが言った。
「冒険者!冒険者やってみない?」
「冒険者...か...」
きたきたきたー!やっと異世界っぽいのきたよ!各地を旅して?クエストをこなして?最後には魔王も倒しちまうぞー!なんつって...。あ、でも俺のスキルって"透明化"だけだったわ...
「やるよ、冒険者」
ラノベみたいに無双はできないが、冒険者として各地を回るのにスキルは関係ないだろうと考えた俺は、シニアの提案を快諾した。
「よし!そうと決まれば早速冒険者登録よ!」
ひとまず俺達は冒険者ギルドへ行くことにした。
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