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魔法じかけのテーマパーク(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編4)  作者: 月森琴美


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 ドリームライト城のてっぺんでは、赤い忍者が苛立っていた。

「ええい、まだあの小娘はつかまらんのか」

「申し訳ございません。翔太様」

 黒い忍者が一人、膝をついて報告する。

「現在、ターゲットは第3のアトラクションを通過した模様です」

「次の部屋で必ず捕まえろよ。早くしないと日が暮れてしまう」

 翔太はぶすっとした顔で、日が傾いていくのを見守った。

(くそっ、俺だって門限があるからな。早く帝を引っ張り出さないと、今回も空振りでおわっちまう)




 小人の小屋から出ると、そこは深い森だった。

(ここって何のアトラクションかな)

 茉理が案内図を広げるより早く、ナビが答える。

「ここは眠り姫のいる森。ほら、あそこに見えるお城の塔に姫が眠っています」

「そうなんだ」

 ここでは何をしたらいいのかな、と首をかしげていると、森の中から颯爽と白馬に乗った王子様が現れた。

(うそっ、あの王子様って)

 茉理は目を丸くする。

 王子の人形は、まるで本物の――遠野斎(とおのいつき)そっくりな顔をしていたのだ。

 彼は茉理と同じ一年生で、生徒会では臨時書記を務めている男子だ。

『ふふっ、驚いた? なんたってここは直樹ワールドだからね』

 雅人のいたずらっぽい声が頭に届く。

 茉理は一瞬げっと思った。

(もしかして、このあとのアトラクションに出てくる登場人物って……)

 こんな風にモデルがいるのだろうか。

 斎顔の王子様は白馬から降りてきて、茉理の側に近づいてきた。

「僕は隣の国の王子です。この森の奥に美しい姫が眠ると聞いて、やってきました」

「は、はあ」

「でも森には姫に呪いをかけた悪い魔女がいて、侵入者を防いでいます。僕に力を貸してくださいませんか。一緒に魔女の竜を倒し、姫を目覚めさせましょう」

(あー、そういう内容なのね)

 茉理は納得し、こくりとうなずいた。

 王子は綺麗な笑みを浮かべ、茉理に小さな剣を渡す。

「これは光の剣。この剣の光を竜に当てれば、倒すことが出来ます」

 では行きましょう、と王子は茉理を白馬の後ろに載せた。

(うーっ、子ども向けのだから大丈夫と思うけど、ちょっと緊張するなあ)

 剣を手に王子の背の後ろで堅くなっている茉理を、雅人はからかう。

『ほらほら、姫。ちゃあんと斎を助けてあげないと』

「って、王子様でしょ。遠野君じゃなくて」

(あー、やりにくい。なまじモデル本人をよく知ってるだけに)

 偽者とはわかっているが、どうしてもイメージが重なるのは否めない。

 茉理は鼓動する胸を抱え、かぽかぽ馬に揺られて森の中に入っていった。




 薄暗い森の中をゆっくりと進んでいると、突然何かが目の前を横切った。

「きゃっ」

 茉理が驚いて体制を崩すと、馬もよろめく。

『気をつけて。吹き矢だ』

 ポシェットの中に納まっていた雅人がえるの緊張した声が響く。

「吹き矢って……わーっ、何あれ」

 茉理はまわりを見て呻く。

 昼尚暗い森の中。

 自分は白いドレスを着て白馬の王子様の後ろに乗っているというのに、木々の枝におびただしい数の忍者を発見してしまった。

(うーっ、全然アトラクションにそぐわない。どうせなら吹き矢じゃなくて、忍者じゃなくて、戦士に弓矢とかにならなかったのかな)

 周り中、敵に囲まれているというのに、なんかやけくそでそんなどうでも良いことを考えてしまう。

「魔女の手下だな。追いつけるものなら追いついてみろ」

 斎顔の王子は威勢良く叫び、馬の腹を蹴った。

「うわっ、ちょっと、早すぎーっ」

 茉理は必死に王子の背にしがみつく。

 突然、全力疾走されて、体が追いつかない。

 振り落とされそうになりながら、茉理は何とか森の奥まで来た。

 忍者たちは追ってきたものの、途中で何故かいなくなる。

(どこかで待ち伏せしてるのかな)

 茉理が首をかしげると、雅人の声が響いた。

『大丈夫。追っ手はみんな直樹の遠隔魔法操作で、今頃地獄を見てるさ』

「え?」

 どういうこと、と問おうとした茉理の背後から、シュッと手裏剣が飛んでくる。

「何が大丈夫よーっ、いるじゃん。敵さん」

 叫ぶ茉理の後ろから、今度はぐええええーっという鋭い声が聞こえてきた。

「何? 今の声」

 振り向き、茉理は驚く。

 忍者の一人が鬱蒼としげった木に捕まえられ、太い枝の間にはさまって、のた打ち回っていた。

「な、なんだ、この木は。ええい、燃やしてやる」

 忍者は懐から火薬玉を出し、投げて爆発させる。

 しかし自分を締めようとしていた木を吹っ飛ばすことには成功したみたいだが、辺りにひしめく木々の怒りをかってしまったようだ。

 今度は数本の木が枝を絡みつかせ、忍者の男に迫ってくる。

「うわああっ、助けてくれーっ」

『あーあ、ご愁傷様』

 雅人の声が楽しそうに響く。

『あそこの社員も大変だねえ。わけのわからん坊ちゃま付きにされて』

「社員?」

『翔太君は天の川建設の息子なんだよ。彼も長男だから跡取りらしいけど』

「そうなんだ」

『伊集院財閥に比べたら規模はどうってことないけどね。一応大手の建設会社なんだよ。金持ちのボンボンって奴かな』

 全然苦労を知らないで、甘やかされて育ったみたいだよ、彼、と雅人は軽蔑しきった声を出した。

『あそこの社長はかなり骨がある人なんだけど、仕事で忙しくて家庭にまでは手がまわらないんだって。だから子どもたちの教育は、とっても我が侭で子煩悩なご夫人が全部されてるんそうだよ』

「くわしいですね、雅人先輩」

『けっこう付き合い長いしねえ。最も僕じゃなくて、調べたのは直樹だけど』

 かえるはぺろりと長い舌を出した。

 もうあの忍者たちの姿は、どこにも見かけない。

(全員、あの木の攻撃で動けなくなっちゃったんでしょうね)

 そう思っていた茉理は、突然馬が走るのをやめたので、思わず前につんのめった。

「あたっ」

 王子様人形の背中に鼻をぶつけてしまい、茉理は小さな悲鳴をあげる。

「もう、どうした――って、うわっ」

 森を抜け、小さな湖と橋の前に来ていた。

 橋は真っ直ぐお城の門まで伸びている。

 そして緑色の澱んだ湖から、巨大な西洋風ドラゴンがこちらをぎろりと睨んでいた。

(うわーっ、けっこう迫力じゃない)

 茉理はドラゴンを見上げ、感心する。

「悪の魔女の手下よ。ついに正体を現したな」

 王子様人形は、大きな声でドラゴンに叫ぶ。

「今日こそここを通してもらう。僕の清らかな愛の前に、お前は塵と化すのだ」

(誰が考えたんだろう、こんなセリフ)

 茉理は後ろでげんなりしていた。

(僕の清らかな愛ってね……)

 本物だったら絶対に言わないだろう。

 そう思っていると、突然ドラゴンはがあっと火を噴いた。

「わっ、ちょっと」

 茉理と王子様人形は、あわてて馬から下りて茂みに身を隠す。

『大丈夫。あの火も魔法で幻覚なんだ。熱くもないし、体に触れても大丈夫なんだよ』

 雅人の解説に、茉理は、へえ、本物の炎みたい、とまた感心した。

「さあ、心優しき友人よ」

 王子の人形が、茉理の腕をぐっと握る。

「へっ」

「今こそあの光の剣をかざすのだ。そうすればドラゴンは消える。お城の中で眠る姫を助けるために、君の力を貸してくれ」

「は、はあ……」

 一瞬、呆けた茉理だったが、すぐに思い出して、アトラクションが始まるときに渡された小さな剣を引っ張り出した。

「右手にかまえて、僕が合図したら天に向かって剣をかかげよ」

「天に向かって? ドラゴンに向かってじゃなくて?」

 不思議に思う茉理の手を、王子様人形はぐいっと引っ張る。

 ドラゴンの炎攻撃はやみ、二人は茂みから出た。

 もうほとんど強制的に、王子様人形は茉理の腕をつかんで剣を天に向けさせる。

 カァッというまぶしい光が、一瞬辺りを包んだ。

「グエエエエエエーッ」

 いかにも造り物らしい悲鳴をあげて、ドラゴンが消滅していく。

(お……終わったの?)

 あまりにもあっさりと消えたので、茉理は目を瞬かせた。

 あっけない結末にぼーっとしていると、雅人の声がかかる。

『もう、茉理姫。つまらないって顔してるぞ』

「いや、別に、そういうわけじゃ――でもなんかさっきまでとっても戦闘ムード抜群だったのに、なんかドラゴンあっさり消えちゃって」

『ふふっ、ここは幼稚園児でも楽しめるレベルのものなんだよ。そんな飛び跳ねて敵を回避し、戦闘しないといけないような高度な仕掛けがあるわけないじゃん』

「ま、そうですよね」

 茉理は、ふうっとおでこの汗を拭きながら剣をしまった。

「ありがとう、心優しき友よ」

 王子様人形が、笑顔で手を差し伸べてくる。

「君のおかげで、僕は魔女の手下であるドラゴンを倒すことが出来ました。姫の所に行くことが出来ます」

「あ……良かったですね」

 茉理は手を出し、握手した。

「さあ、一緒にお城に行きましょう。僕の愛で姫を目覚めさせてみせます」

 気合いの入った声に、茉理は、まあ、別にいいか、とちょっと笑った。



『……雅人、聞こえているか』

 突然思念で話しかけられ、雅人がえるは怪訝そうにした。

『おや、直樹君。声がちょっと変だけどどうかしたの? 何かやばいことになってるのかい』

『その、後野さんは今、ドラゴンをクリアしたろう』

『ああ。これから斎王子とお城に入るんだ。姫とのご対面さ』

 得意そうに言葉を念じる雅人に、直樹の低い声が届く。

『そのご対面、中止しろ』

『はあ? どうして?』

『いいから! やっかいなことになる』

『なんだよ、それ』

(直樹君、何かをためらっているようだけど、どうしたんだ)

 いぶかしむ雅人に、しぶしぶといった感じで直樹の声が響いた。

『そのアトラクションは俺の自慢の傑作だ。時々趣向を変えて遊んでいるのは知ってるだろう』

『そうだよね。ナビゲーターをフランダースの犬にしたり、アリスの白ウサギにしたり、ティンカー・ベルにしたり』

『それだけじゃない。王子役を変えたり……その、姫も』

『あ!』

 あることに思い当たり、雅人はさあっと冷や汗を流す。

(まずい)

 彼はポシェットから顔を出し、お城の階段を上る茉理の肩に飛び乗った。

『ね、ねえ、姫。その、時間もそんなにないことだし、ここはパスして次に行かないか』

「え? でもこれもアトラクションの一つじゃないんですか」

 茉理は小首を傾ける。

「最後までクリアしないと、次に行けないんでしょ」

『まあ、そうなんだけど、ドラゴンは倒せたから、きっとナビに言えば次への扉を開けてくれると思うよ』

 雅人は、何気に後ろからついてくるナビを見た。

「そんなに時間はかからないと思うし、ちょっと寄ったら駄目ですか」

『いや……』

「ここまで来たんだもん。お姫様との感動の対面を見なくっちゃ」

 茉理の言葉に、かえるはゲコゲコやかましく鳴きたてる。

『いや、それはまた今度でも――早く友達を助けないと……って、ああっ、着いちゃったよ、もう』

 僕は知らないっ、と雅人はうめき、またポシェットの中に戻った。

 斎顔の王子様が開いた扉の向こうには――。

 豪華なベッドと薔薇の花に囲まれて、薄い布団の中で姫が眠っている。

「おお! これは何と愛らしい人なんだ」

 斎の顔で、王子様が叫ぶ。

(どれどれ、直樹先輩がどんな綺麗な人形をこしらえたのか見てみなくっちゃ)

 茉理は王子の横から、ベッドに横たわる少女の人形を凝視した。

(なっ、何よこれーっ)

 次の瞬間、彼女はへなへなとベッドの横に崩れてしまう。

(なっ、なっ、なんなのーっ)

 顔が真っ赤になり、心臓がばくばく音を立てる。

 立ち上がれないとはこのことだ。

『茉理姫、そんなに悪く思わないでね』

 雅人がすまなそうに声を送る。

『このアトラクションは、直樹の遊びみたいなものなんだ。遊び心で、彼は去年から我らがキング、帝の最愛の人をお姫様役のモデルにすることにしたんだよ』

「なっ、なっ、そんなあっ」

『偽者だってば、そんなに気にしないで』

「気にしますよっ。何が悲しくてわたしがお姫様なんですか。しかも、しかも……わあああーっ、やめてーっ」

 茉理は顔を両手で覆って、思いっきり叫んだ。

 まともに凝視出来るわけがない。

 自分そっくりの少女に、斎そっくりの王子が口付けをしたのだ!

 茉理顔の姫人形は、抱き起こされて王子の胸の中、目をぱっちりと開いた。

「貴方がわたしを目覚めさせてくださったのですね。嬉しいわ、王子様」

「美しい姫、どうぞ僕と結婚してください」

「はい」

(やーめーてーっ。そんなつぶらな瞳で、うっとりしたまなざしで王子を見るなーっ。頬をそめるなーっ。あああっ、もう嫌―っ)

 茉理は思いっきり心の中で絶叫する。

 心境は、まさしく某有名な絵画ムンクの叫び。

 しばらく立ち上がれず、空気の抜けた風船のように萎れている茉理の肩を、トントンとナビが叩いた。

「姫、さあ教会へ。王子様とお姫様の結婚式が始まりますよ」

「へっ?」

「姫も一緒に祝福してあげましょう」

 おごそかな顔で言われ、茉理は頭を抱える。

(け、け、結婚式? そんなの見れるわけないじゃん)

 茉理はそろそろと顔をあげる。

 すると先ほどまであったベッドは天井にピアノ線で吊り上げられて見えなくなり、バックに教会の背景画が降りてきた。

 運命の出会いを果たした人形たちは、いつの間にかいなくなっている。

 と思ったら突然部屋が暗くなり、スポットライトが中央の床に開いた丸い穴を照らした。

(何時の間に、あんなとこに穴?)

 そういえば、さっきまでベッドがあったところだ。

 ベッドが宙高く片付けられたことで、見えるようになったのだろう。

 などと感心している場合ではなかった。

 運命の時を彩るウエディングマーチが部屋一杯に鳴り響く。

「それでは、新郎新婦のご入場です」

 マイク片手にナビが司会をする。

 ウイーンと仕掛けの音らしい機械音がして、穴の中から人形が出てくた。

 斎と茉理のカップル人形がタキシードとウエデイングドレスを着て、とても幸せそうに寄り添っている。

(ぎゃーっ、もういいよっ)

 茉理はあわててナビのところに行き、マイクを奪った。

「どうしました。結婚式はこれから」

「もう、パス。結婚式はいいから、さっさと次のアトラクションに行っちゃって」

 叫ぶと茉理はマイクを床に叩きつけ、ナビのしっぽを引っ張って、部屋を足音荒く出て行った。

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