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魔法じかけのテーマパーク(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編4)  作者: 月森琴美


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7

 次に入った部屋は、衣裳部屋だった。

「この部屋は何?」

 ぐるりと壁を取り巻くドレスやタキシード。

「姫、ここは<ベルのドレスルーム>です」

 猫がうやうやしく言った。

「どれするうむ?」

「こちらでお着替えを。次の間はダンスホールとなっています。ビーストが正装して、姫をお待ちです。早く行かないと、待ちくたびれて衣裳部屋に踏み込んできますから、急いで着替えましょうね」

「って、わたし、ダンスなんてしてる暇はなんですけど」

 茉理はためらいながら答える。

 雅人がえるが、ピョコンッと跳びはねた。

『茉理姫、ここはナビの言うとおりにした方がいいよ』

「どうして? 早く上に行かないと」

『このお城は、ちょっとした仕掛けがしてあってね。上の階に行くためには、それぞれアトラクションに参加してクリアしないと行けない様になってるんだ』

「ええーっ、てことはつまり、これからこのお城自慢のアトラクションを全部まわらないといけないってこと?」

『そういうこと』

 茉理はげんなりして、ポシェットから案内図を取り出す。

 ドリームライト城の紹介をじっと見た。

 流石魔法のかかったお城だけあって、アトラクションが男の子用と女の子用、二つの対象コースがあり、お城に入った時点で自動的にナビにより選択され、各コースに案内される仕組みになっている。

(うわっ……メインのアトラクションだけで7つもあるわけ?)

 さっきアリスのテーパーティーは通過したから、あと6つ。

 彼女は大きなため息をつき、ドレスの波を睨んだ。

(えーと、とにかく一番動きやすそうで、さっさと着られるのにしないと……)

『姫、姫』

 雅人がえるが、弾んだ声を送ってくる。

『これを着てくれないか。きっと君によく似合うよ』

 かえるが指し示すドレスを見て、茉理はうっと顔をしかめた。

 それは裾がふわっとふくらみ、いかにも童話に出てくるお姫様が着るような豪華なピンクのドレスだった。

(絶対、あんなの着て動けないわ)

 茉理はぶるぶると首を横に振る。

(そうだった。雅人先輩の好みって、ああいう女の子らしい可愛い系だっけ)

 個人的にあこがれないことはないが、今は非常時。

 茉理はしょんぼりするかえるを横目で見ながら、さっとドレスの波をかき分けて一着選び出した。

 奥の更衣室にあがると、しゅっとカーテンを引いて隠す。

 手早くぼろぼろのTシャツとキュロットを脱ぎ、膝丈までのシンプルな白のドレスに着替えた。

「お待たせ」

『わあっ、そのドレスもなかなかいいね』

「よくお似合いですよ」

 茉理は彼らの賛辞を耳から聞き流し、さっさと次の間に向かう。

 扉を開けると、そこは大きなダンスホール。

 ビーストの人形が跪き、スタンバイしていた。

 茉理が側に行くと、ビーストは立ち上がり、彼女に腕を差し出す。

 それにつかまってホール中央まで歩き、人形と向かい合った。

(って、これからどうするんだっけ?)

 茉理の頭はパニックを起こす。

 ダンスなんて踊ったことない。

『大丈夫。このアトラクションは幼稚園児でもO.Kなんだからね。ただビーストと一緒にくるくる回るだけでいいんだ。ステップなんかはなし。振りだけしてれば終わるからね』

 雅人のアドバイスが終わるや否や、ワルツの音楽が流れ出した。

 茉理は言われたとおり、ビーストの動きにあわせて、ゆっくり回転する。

(なんかちょっと雰囲気出てるかも)

 女の子なら一度はあこがれる『美女と野獣』のお話。

 ビーストは滑稽な顔をしているけど、物語の世界ではとても一途に少女を思う。

(お話みたいに誰かに想われてみたいけど……わたしじゃ無理よね)

 小さくため息をつきながら、茉理はホール中央までやってきた。

 ビーストのリードにあわせて、今度は反対周りに進む。

『なかなか決まってるよ、姫。今度は僕と一曲踊っておくれね』

 雅人の言葉が頭に響き、茉理はつんのめりそうになった。

『でも雅人先輩、わたし、ダンスは本当に出来ないんですよ』

『僕が教えてあげるよ。あ、でも君にダンスを申し込んだら、帝に電撃を食らいそうだな、ははっ』

 なごやかな思念会話の途中、なにやら隣の部屋から物音が聞こえてくる。

『ん? 何だ』

 雅人がすばやく反応した。

 脇に控えていたねこのナビが、首を振りながら衣裳部屋の扉を開ける。

 すると。

『茉理姫、危ない!』

「え?」

 雅人の声よりも早く、彼女はビーストに押し倒された。

「きゃーっ、何?」

 ドガアアーンッ。

 ビーストの体が上に覆いかぶさり、彼女を守る。

 凄まじい轟音と共に何かが吹っ飛んできた。

 突風が吹きぬけ、ばらばら上から得たいのしれない物が落ちてくる。

 それらはすべて茉理の上にかぶさっているビーストの人形を直撃した。

 埃と煙、上から落ちてくる天井の崩れたコンクリの粉。

 しばらくすると、すべてがしーんと収まった。

『茉理姫、大丈夫かい?』

 雅人の思念が、心配そうに呼びかけてくる。

「あ……はい」

 茉理は重たいビーストの体の下で身動きし、ビースト人形を横にどけた。

 起き上がり、辺りを見回して彼女は絶句する。

(嘘……)

 そこは先ほどとは打って変わった地獄図と化していた。

 きらきら輝くシャンデリア付きのホールは今やがらくたと砂と埃で溢れ帰り、とてもさっきまでダンスをしていた場所とは思えない。

 床には衣裳部屋にあったドレスの切れはし、天井から落ちてきたシャンデリアの残骸、壁を飾っていた造花や厚いカーテン、絵画の破片などが、崩れた壁や天井の欠片と共に乱雑に転がっていた。

『くそっ、翔太の奴、部下に命じて気爆魔法具を使いやがった』

 雅人のくやしそうな声がする。

『君を生きたまま捕まえないといけないからね。ホールじゃなくて、隣の衣裳部屋で爆発させたんだ。君を足止めするために』

「そんな……」

 茉理はよろよろと起き上がり、はっと床を見た。

 足元にころがっているビーストの人形――。

 作り物であったけど、まるで生きているかのように彼女の手を取って踊ってくれたその人形が、無残にも四肢がつぶれ、体のあちこちから詰め物がはみ出して見る影もない姿となっていた。

(わたしのこと、かばってくれたせいで――)

 茉理はしゃがみこみ、人形のちぎれた腕を拾う。

 そっと抱きしめて、目を閉じた。

 人形が壊れたぐらいで泣くなんて、自分は本当に子どもだと思う。

 でも悲しくて、茉理の目から雫がこぼれた。

 自分を守って、粉々になってしまった人形。

 たくさんの子どもたちの――小さなレディたちの手を取って夢の世界に誘い、ダンスをしてくれた存在。

(ごめんね、ビースト。わたしのせいで、こんなになっちゃった)

 茉理は心の中で、何度も人形にあやまる。

『姫』

 残骸の中から、ピョコンと雅人がえるが現れた。

 彼女の側に行き、かえるは優しく慰める。

『大丈夫だよ。ビーストはまた元通りになるって』

「本当?」

『直樹君、ご自慢の人形だよ。もちろん事が終わったら、彼がしっかり直すさ』

 心配しないで、と雅人はぴょこぴょこ跳ねた。

「シャンデリア3つ、絵画が4点、カーテンに緞帳、窓ガラスにドレスが50着――と。これもかなりの額になるなあ。しっかり弁償してもらわないとね」

 猫の人形ナビが、シャンデリアの破片の横で、メモを取り出して書き付ける。

『姫、さ、早くここを出よう』

 雅人の言葉に、茉理は立ち上がった。

 ビーストの腕を床に置き、かえるを拾い上げて手のひらに乗せる。

 とそのとき。

「悪いが、ここで鬼ごっこは終了だ」

 ドスの効いた声と、冷たい銃口。

 背後から忍者が3人、忍び寄ってきていたのだ。

『姫、僕がこいつらを何とかする。その隙に逃げるんだ』

 雅人はそう思念で叫ぶと、すばやく跳び上がり、忍者の一人の顔に張り付いた。

「くそっ、何だ、このかえる!」

 視界がふさがれ、忍者は体制を崩す。

 他の二人の目線が一瞬それた隙に、さっと走り出した。

『雅人先輩!』

『僕なら大丈夫』

 雅人はピョコンと次の忍者の背後に回りこみ、背中に張り付いてくすぐる。

「うわっ、やめろっ」

「この生意気なかえるめ」

 忍者たちはいきり立ち、一人が銃口をかえるに向ける。

「わっ、やめろ。俺を打つきか」

 もう一人の忍者が銃口を向けられ、あせって叫んだ。

 雅人はその忍者の胸に飛びついていたのだ。

「くそっ、早くこいつを引き剥がせ」

 3人が右往左往している間に、茉理は部屋の隅まで退避する。

「姫、こちらに早く」

 ナビがカーテンを引いて、金色の扉を開けた。

 するとがらがら音がして、とても綺麗な装飾を施したエスカレーターが現れる。

「くそっ、逃がすな」

 かえるに気を取られていた忍者たちは、我に返って茉理を追ってきた。

「早く乗って」

 ナビに続いて、茉理はあわててエレベーターに乗り込む。

 忍者たちが銃口を向けて照準を合わせるより早く、エレベーターの扉が閉まった。

 ドギューン。

「きゃあ」

 動き出したエレベーターの扉を貫通し、銃弾の一発が打ち込まれる。

 茉理は頭をかかえてうずくまった。

 銃弾は彼女とナビをそれて、エレベーターの壁に穴を開ける。

「あーあ、エレベーターの壁も一箇所貫通、と」

 ナビがメモを出して、更に追加した。

 茉理は無事エレベーターが上昇していったのに、ほっとする。

『あっ、雅人先輩は』

 少女ははっと気付き、顔が真っ青になった。

 雅人がえるを敵の渦中に置いてきてしまった。

 今頃、彼はどうしていることだろう。

『どうしたの、茉理姫』

 軽快な声が、幾分笑いを含んで聞こえてくる。

 茉理は目を見開き、声のするほうを見た。

 エレベーターの床に雅人がえるがちょこんと座って、茉理を見上げている。

「ま、雅人先輩、何時の間に」

『さっき姫の方にあいつらが駆けていった時に、瞬間移動したんだ』

 気がつかなかったでしょ、と声は明るく響く。

 茉理は思いっきり力が抜けて、へなへなとその場に崩れてしまった。

「良かったあ。雅人先輩までどうにかなっちゃったら、どうしようかって思った」

『僕がビーストみたいに吹っ飛ばされるって?』

「笑い事じゃありませんっ。わたし、本当に心配したんですからね」

 茉理はじとっとかえるをねめつけた。

『ふふっ、わかってるよ。ありがとう、姫。でも僕はそんなへまはめったにしないから、心配しないでおくれ』

「万が一ってこともあるじゃないですか」

『そうだけど、僕はちゃんと自分を大事にする主義だから、無鉄砲なことはしない性格なんだよ。僕が死んだら全学年にいるファンのレディたちの胸に、どれだけの苦しみと悲しみを負わせてしまうことになるか、ちゃあんとわかっているからね』

「はあ……」

 自信たっぷりに言われ、茉理はそれ以上何も言えなくなる。

 チーン。

 そうこうしているうちに、エレベーターが止まった。

「姫、着きました。こちらは<7人の小人の小屋>です」

 ナビが先に立って、エレベーターから降りる。

 そこはとても可愛い部屋だった。

 食堂にはちいさな椅子と食卓、寝室には7つの小さなベッド。

「可愛い」

 茉理が声をあげると同時に、小さなドアから7人の小人達が現れた。

 彼らは茉理を見ると歓声をあげ、ぐるぐる部屋の中を回りながら楽しく踊る。

『ここは別になんてことはないんだ。白雪姫の気持ちになって、踊りを見てればいいんだから』

 雅人がつまらなそうに解説する。

『幼稚園の小さなレディには凄くうけるみたいだけど、僕達ぐらいの歳だったら、ちょっと幼稚な志向だよね』

「でも見てるのは楽しいですよ」

 茉理は、可愛い、と声をあげながら、小人たちの踊りを見守った。

 踊りが終わると、小人たちは帽子を脱いで食卓に付く。

 そしてすでに置いてあった食事のおもちゃを、美味しそうに食べ始めた。

『ずっと見ていたいところだけど、そろそろ行こうよ、姫』

「そうですね」

 茉理は食事を続ける小人たちを後に、ドアから外に出た。

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