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魔法じかけのテーマパーク(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編4)  作者: 月森琴美


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6/6

(なんかとんでもないことになっちゃったわね)

 茉理は勢い込んで走り出した。

 お城の門の前に着くと、まだ下へは誰も降りてきていない。

(チャンスだわ、今のうちに)

 茉理はすばやく城の中に入る。

 中は石畳の廊下になっており、ここもちょっとしたアトラクション会場だ。

 歩けば廊下にコツコツと音が響く。

 いろんな物語の挿絵が綺麗に描かれ、左右の壁に飾られていた。

「ようこそ、ドリームライト城へ」

「わっ」

 突然、目の前に現れた物を見て、茉理は声をあげる。

 別に敵ではない。

 それはこっけいな衣装をつけ、赤い長靴を履いたねこの人形だった。

「ここはメルヘンの国。僕はこのお城の案内人ナビと申します。どうぞごゆっくりお楽しみください、姫」

「あ……どうも」

(アトラクションのナビ役なんだ、あー、びっくりした)

 茉理は、ほっと胸をなでおろす。

「まずはこちらのお部屋から。どうぞ僕についてきてください」

 猫は気取った声でそう言うと、長いひげをしごきながら茉理の前に立って歩き出した。



(やれやれ、予想外の展開だね)

 お城を振り仰ぎながら、雅人はにやっと笑った。

(姫自ら名乗りをあげて乗り込むとは、流石僕が見込んだ少女だけのことはある。さて、と)

 彼は目を閉じ、親友の心に意識を向ける。

『ヤッポー、直樹君。なかなか面白い展開になってきたよ。そっちはどう?』

『打ち合わせが今、終わったところだ。来年完成予定の新しいアトラクション、こいつもなかなか期待出来るぞ』

 直樹の声が満足そうに響いた。

『そっちは片付いたか』

『それがとんでもないことになっちゃってね。君の力を借りたいんだ』

 雅人は、すばやく事情を伝える。

『……人質か。面倒なことをしてくれたな』

『そうなの。ま、でも姫が体を張って友達助けようとしてるんで、ちょっと時間が稼げるかな』

『そう長くはもたないだろう?』

『そこを君の魔術で遠隔操作して、助けてやって欲しいんだ。あの城の中にいるキャラクターたちは、君が知能を与えた人形だろう』

『そうだな。ま、やってみるか』

 直樹はにやりと笑みを浮かべた。

『久々に人形遊びも楽しいかもしれん』

『じゃ、よろしく。僕は人質を奪い返して、翔太君にお灸を据えることにするよ』

 雅人は思念会話を切り、お城をじっと睨む。

「じゃ、行きますか」

 浮遊魔法を使おうとしたその時。

「た……助けて」

 突然、背後で声がして、雅人は振り向いた。

 フランケンシュタインに可愛い少女が捕まえられ、バッグをむしりとられている。

 雅人は駆け寄ると、モンスターに一撃を食らわせ、少女を救い出した。

 弾みで彼のサングラスが地面に落ちる。

「大丈夫? お嬢さん」

 雅人が少女を支えて優しく声をかけると、少女は顔をあげ、はっと目を見開く。

(なんて素敵な人……)

「きゃーっ、王子様だわっ。かっこいい」

「うわっ、ちょっとっ」

 ボンッ。

 たちまち白煙が立ち、雅人の姿は掻き消えた。

「え? あ、王子様、どこ行っちゃったの?」

 少女は黄色い声をあげながら、辺りをきょろきょろ見回す。

(なんということだ。これからって時に)

 雅人は、参ったね、とつぶやきながら、ピョコンと少女のスカートの上から飛び降りて、お城に向かって跳ねていった。




 長靴を履いた猫は優雅にお辞儀をし、茉理を一室に導いた。

「こちらです、姫」

 そこは客間になっていて、ソファが数脚並べられている。

「まずはこちらでおくつろぎください。今、お茶をお持ちします」

「あ、あの、猫さん」

 茉理はあわてて言った。

「ごめんなさい。わたし、先を急いでいるんです」

「そうおっしゃらずに。ここはアリスのお茶会。ほら、もうすぐいかれ帽子屋と三月うさぎが、お茶を持って参りましょう」

「でも」

 茉理が次の部屋に続く扉の前に来たとき。

「見つけたぞ」

「女、おとなしくこっちに来い」

 扉を押し開け、黒装束の忍者が二人、襲いかかってきた。

「きゃーっ」

 茉理は悲鳴をあげ、ソファの影に隠れる。

 忍者の投げた手裏剣が、ぶすぶすソファに突き刺さった。

「やれやれ、困ったお客様ですね」

 器物破損は弁償してもらわないと――猫は長い髭をしごき、ポケットからメモを取り出すと、何か書き付ける。

 そしてにたりと笑うと、忍者たちの前に出た。

「ようこそ、招かれざるお客様。ここはドリームライト城。おとぎの国が楽しめる素敵なアトラクションです。ここに入れば、みな子どもの頃親しんだ物語の世界に旅立てる。どうです、ご一緒にメルヘンの旅へ出発されては」

「はあ? 何だ、この人形」

 忍者たちは、まるで意思があるかのように自由に話す猫の人形に、目を瞬かせる。

「恐れ入りますが、このアトラクション内では銃器・火気・刀剣のたぐいは、一切持ち込み禁止となっております。お手荷物は会場前の手荷物預かり所へお預けくださいますよう、お願い申し上げます」

 きどった声で言い立てる猫に、忍者たちの怒りが爆発した。

「なんだと、たかが人形の分際で」

「こんなもの、破壊してやる」

 忍者たちは、刀を抜いて猫に切りかかる。

 しかし驚くほどの身のこなしで、猫はするりと切っ先を避けた。

 何度も攻撃されたが、猫ではなく部屋の方がすごい有様になってくる。

(ちょっと、猫さん、すごい)

 いっぱしの大人を軽くあしらう猫の人形に、茉理は驚いた。

 どう見ても、アトラクションの仕掛け物とは思えない。

「あれあれ、ソファ及び絵画、絨毯、卓に花瓶――お客様、これはかなりの弁償額を頂戴することになりますよ」

 猫はひらりひらりと剣をかわしながら、メモに次々書き込んでいく。

「このやろう」

 人形にしてやられ、忍者たちはそれこそむきになって、更にすばやい攻撃を繰り出してきた。

(あ、猫さん、危ない)

 ついに入り口に追い詰められた猫を見て、茉理はソファの影から辺りを見回す。

(何かないかな。投げれる物、あ、あれは)

 茉理は床に転がっていたアンティークの装飾用大皿を手に取った。

 フリスビーよろしく後ろから忍者たちに向かって投げる。

「うわっ」

 後ろにいた忍者一人の肩に運良くそれはヒットし、彼は肩を押さえてうずくまった。

「こいつ、やったな」

 もう一人が血相を変えて、茉理の方に突っ込んでくる。

「きゃああっ」

 あわてて逃げ惑う少女の服が、剣によって切り裂かれた。

(ああっ、Tシャツぼろぼろじゃない)

 茉理はなんとか戸棚の後ろに回りこみ、すさまじくなった己の姿を見てうめく。

「そろそろお茶の時間ですね、お客様」

 猫がにやにやしながら言った。

 扉が開いて、大きな帽子をかぶった小柄な人形が入ってくる。

 手には紅茶カップとティーポットを持っていた。

 後ろからピョンピョン跳ねて、三月ウサギもついてくる。

 ウサギは手に大きなお盆を持っており、上にはこんもり盛り上がったトーストとジャムの入った瓶がある。

「ではどうぞ、ご相伴ください」

 猫の言葉で、帽子屋はパチンと指を鳴らした。

 すると突然天井から、特大シルクハットが落ちてくる。

「うわあああーっ」

 忍者二人はそれぞれシルクハットをかぶせられ、姿が見えなくなってしまった。

「姫、ここで世紀の大マジックをご披露いたしましょう」

 三月うさぎが叫ぶと、帽子屋はシルクハットを脱いで構えた。

「1,2,3、それっ」

 帽子屋は、手に持つシルクハットを天井に高く放り上げる。

 それと同時に、忍者たちを飲み込んだ特大シルクハットも宙に浮いた。

(嘘……あの人たちがいない)

 茉理は目を瞬かせる。

 シルクハットの中にいたはずの忍者たちは、影も形も見えなくなってしまったのだ。

「やれやれ、随分荒らしてくれたね」

 帽子屋はまたシルクハットを受け止めてかぶると、あちこちに倒れたソファの中から、破損が激しくないものを選んで起こした。

「姫、もう大丈夫ですよ、粗大ゴミは、ゴミ処理場にとばしましたから」

「ささっ、こちらに来て、僕達とお茶にしましょう」

 ウサギと猫が、戸棚の後ろから茉理の腕を引っ張った。

 ソファに座らせられ、熱いお茶の入ったティーカップを渡されて、茉理は困惑する。

「あの、わたし、こんなところでお茶飲んでる場合じゃなんですけど」

「まあまあ、ちょっとお待ちを。はい、トースト、おいしいですよ」

 帽子屋がにこやかに笑むと、茉理にジャムとバターをたっぷり塗ったパンをくれた。

「姫、実はここに貴方の従者がお迎えに来ることになってまして。もう少々、お待ちください」

「へっ、従者?」

 茉理は首をかしげる。

(また何か出てくるのかしら)

 あせる気持ちを抑え、待つことしばし、扉の隙間から現れたのは――。

『茉理姫―っ、やっと会えた』

「ええーっ。 雅人先輩?」

 またかえるになっちゃったんですか、と、自分の膝にかえるを受け止めて、茉理はため息をついた。

『そうなんだよ。君を守るナイトになる予定だったのに……ごめんよ、姫。こうなったら、僕も一緒に最上階までお供させておくれ』

『いいですけど――』

 茉理の了承に、かえるはピョコピョコ跳ねて喜ぶ。

『君達もありがとう。僕のいない間、姫を守ってくれて』

 雅人が人形たちに思念を送るのを見て、茉理は不思議だった。

「あの、先輩、この子たちってアトラクションの仕掛け人形じゃ」

『この子たちはね、アトラクションの仕掛けだけど、直樹の作なんだ』

「ええっ、直樹先輩のですか」

『そう。このドリームライト城も直樹の製作品さ。中にいるアトラクションの人形たちは、全部ただの電気で動く自動人形じゃなくて、魔法で知能を与えられている。アトラクションに無関係な敵の駆除とかそういう予想外の行動も、己の知能で判断して行えるというわけさ』

「そうだったんですか」

 こないだ貸してもらったグラサンうさぎのぬいぐるみも、そういえば魂があるかのようにしゃべって動いた。

「すごいですね、魔法って」

 感心する茉理の頭に、弾んだ雅人の声が響く。

『物は使いようってね。戦闘だけが魔法じゃないよ。もっと楽しいことにも使用出来るんだ』

「そうなんだ」

 そういう魔法だったらわたしも欲しいかも、とつぶやく茉理に、雅人はピョコピョコ景気よく跳ねる。

『大丈夫。姫にはどんな魔法なんかにも勝る優しい心があるからね。さ、お茶を一杯飲んだら、すぐに出発だ』

「はい」

 茉理はうなずき、ティーカップの中身を飲み干すと立ち上がった。

「姫、次のお部屋へは、こちらからどうぞ」

 猫が長靴をキュッキュッと言わせながら、先に立って案内してくれる。

 壁の中央に、可愛らしい扉が姿を見せていた。

「いってらっしゃーい」

「がんばれーっ、姫」

 帽子屋と三月ウサギの応援に手を振り返すと、茉理は勇んで次の部屋への扉を潜った。

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