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魔法じかけのテーマパーク(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編4)  作者: 月森琴美


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 夏休みのさわやかなひと時を、家族や友達、恋人と楽しく過ごす。

 そんな予定はすべて吹っ飛び、ここYパークはモンスターの闊歩する恐怖のテーマパークと化してしまった。

 お化け屋敷の住人たちは今や魔法で呪縛をかけられ、好き放題に周辺を荒らしまくっている。

 雅人と茉理は中央広場の噴水に程近いアトラクション、3Dシステムの建物の陰に隠れて様子を伺っていた。

「これは後片付けが大変だね」

「操ってる人を見つけないと、このモンスターたち、止まら」

と茉理が言いかけたとき、突然スピーカーから大音量の声が響いてくる。

「見たか、俺様の華麗なる魔術を。ミカド・イジュール・クリスティ。今日こそは貴様との決着をつけてやるっ。かかってこい」

 お城のてっぺん、一番高い塔の上で、マイク片手に叫んでいる真っ赤な人影。

「あっちゃーっ」

 雅人は思いっきり苦い顔をした。

「やれやれ、世間知らずの坊やがとんでもないことをしてくれたよ」

「あれって誰なんですか」

 全身真っ赤な忍者の衣装に身を固め、背にはご丁寧に大きな手裏剣を背負い、メルヘンチックな西洋風のお城の上で叫んでいる少年の姿は、風景とミスマッチしていてコメントのしようもない。

 配下か何か知らないが、お城の壁にわらわらと黒い人影(全員忍者の装束だった)が張り付いている。

「うちのテーマパークのメイン、ドリームライト城が台無しだね」

「そんなこと言ってる場合じゃないと思うんですけど」

 あまりに予想外の光景に、茉理はあきれてつぶやいた。

「さあ、来ないのか、ミカド・イジュール・クリスティ。この俺、シャフト・ライトニング・ソルドが相手になってやる」

「あのお城の上で騒ぎまくってる彼は、天の川翔太(あまのがわしょうた)と言ってね。帝のクリスティ幼等部時代の同級生さ」

 雅人が、こめかみに指を当てながら説明してくれる。

「幼稚園のときのお友達ですか」

「友達じゃなかったんだけどね。帝が星組で、彼は隣の花組だった。ああ、ちなみに直樹は月組、僕は雪組だったね」

「花と星と月と雪組……ですか」

「組の名前は、なんでもクリスティ学園の理事の趣味だそうだよ。わかる人にだけ理解出来る世界だけど」

 雅人はそう付け加えると、ふうっと憂鬱そうにため息を漏らす。

「あの当時、帝はあまりケンカや争いを好まない、女の子みたいに可愛い少年だった。対する天の川翔太は小猿のように生意気でがさつで、ケンカやプロレスが大好きな少年でね。となりの花組のガキ大将だったんだ」

「そうだったんですか」

「それがある日、帝が草むらで見つけて、みんなに見せようと大事に持ってきたこおろぎを、翔太の馬鹿があっさり踏み潰してしまってね。帝は大いに怒って、彼に電撃攻撃を食らわせてしまった」

「電撃ですか」

 茉理は幼稚園児のケンカにしてはレベルが高すぎて、口をあんぐりと開けてしまう。

「普段女のようだと馬鹿にしていた子に負けて、翔太のプライドはずたずたに傷ついた。彼は傷心を抱えたまま、クリスティ幼等部を去った。いつか帝に必ず勝つという志を胸に」

「あの、まさか」

 聞くのも馬鹿馬鹿しくなったが、茉理は一応尋ねてみた。

「そのときの恨みで、こんなことしてるってわけじゃ」

「大正解。茉理姫、理解してもらえて嬉しいよ」

(うそでしょう。なんて執念深い人なの)

 茉理はあまりにも理解しがたい因縁に、それ以上何も言えなくなる。

「まあ、今日に限ったことじゃない。あれから彼はクリスティを去ったけど、毎年1、2回はこうして帝に挑戦に来る。そのたびにぼろぼろにされては再挑戦。今回で何回目かな」

「すっごくはた迷惑な人ですね」

 茉理はため息をついた。

(そんなの二人きりでやればいいじゃない。こんなに無関係な人を巻き込まなくてもいいのに)

 彼女の考えてることが伝わったのか、雅人が苦笑する。

「最初は帝個人に対して挑戦してきてたんだけどね。結局いつも敗北し、魔力も運動神経も格闘センスも帝には及ばないことが、流石に本人もわかったはずだ。帝もほとんど相手にせず、最近は無視してたし」

「まさかそれで、こんなに他人を巻き込んでるんですか」

「たぶんね。そうしないと、帝は彼の馬鹿馬鹿しい挑戦に応じて姿を現さないからさ」

 スピーカーから、またやかましい声が響いてくる。

「来ないのか。怖気づいたか、伊集院帝。そうか、今日もまたこの俺様を無視する気だな」

「いやあ、困ったな。帝は今お仕事中だし、翔太君の相手は出来ないんだけどね」

 雅人が、お城を仰ぎながらつぶやいた。

「帝先輩を呼んだほうが」

「ああ、駄目駄目。今、思念で連絡入れたけど、僕が適当に遊んでやれって言われちゃった。ま、あんな小物に関わりたくない帝の気持ちはよくわかるよ。僕だって勘弁して欲しいくらいさ」

 苦々しげに言うと、雅人は目の色を変える。

「さて、どうやってお仕置きしようかな」

 彼が思案していると、またスピーカーが喚きたてた。

「ええい、だが今日はいくらお前でも無視できないぞ。こっちには人質がいるんだからな」

「え?」

「何?」

 茉理と雅人は、意外な言葉に目を見張る。

 メルヘンチックなお城の背後に、日本の大きな和凧が何本も上がっていた。

「嘘……何あの大きな凧。人が張り付いてる」

「貼り付けられてるんだよ。なんてことだ、それも全員いたいけなレディじゃないか」

 雅人の頬が怒りに燃え上がった。

「か弱い女性にあんなことをするなんて、天の川翔太、許すまじ。僕が天罰を下してやる」

 しかし勢い込んだ雅人の動作は、次の翔太のセリフで一気に萎える。

「はっはっはっ、見たか、ミカド・イジュール・クリスティ。ここに縛られているのはすべてお前の女だってことはわかってるんだ。財閥の御曹司だかなんだか知らないが、29人も女を侍らせて、貴様、どういう神経してるんだ。たかが中学二年の分際で。俺だって中学二年だが、健全なる男女の付き合いを求めて、まだまだ修行中の身。なのに貴様は金と権力に飽かせて酒池肉林。見ろ、中には人妻もいれば幼女もいる。そんなに守備範囲が広くて、貴様よくやってられるな。この節操なし、男の風上にもおけん奴め」

「どこをどうすればそうなるんだ。帝の女が29人?」

 赤装束の発想の異常さに、雅人も茉理も首をかしげた。

「しらばっくれるな。ちゃんとこちらの情報網には、お前の今年の交際範囲が上がっている。Y町から来た女だ。それも今日この遊園地に来ている奴」

「それでY町から来た女のお客さん、みんな捕まえてしまったってわけ?」

「みんなじゃないよ。本命の君は見事に見逃されてる。ツメが甘い男だね」

 あいかわらず突拍子もない思考の男だ、と雅人は苦々しげにつぶやく。

「一つだけ言えるのは、彼の家の情報調査員を今すぐリストラした方がいいってことだね」

「はあ……って、あれはっ」

 茉理は凧の中に見知った人影を見つけて声をあげる。

「さやかっ、朱鷺ちゃん、梓っ」

「茉理姫、駄目だよ」

 雅人の制止も聞かず、茉理はお城の側に駆け寄った。

 地上からは、どんなに呼んでも聞こえない。

 3人は和凧に貼り付けられ、ぐったりとしていた。

 どうやら恐怖に意識を失っているらしい。

 茉理はせいいっぱいの大声を張り上げて、お城の上で怒鳴りまくってる人影に叫んだ。

「ちょっとっ、そこの忍者もどきの人、なんてことするのよ」

「何だ、あの女は」

 翔太は、お城の下で騒いでいる少女を見つけて怪訝そうにする。

「そこの変な忍者男っ、わたしの友達を帰して。なんでこんなひどいことするのよ」

「そこのわめいてる女、人の事情も知らないで、貴様にどうこう言われる筋合いはない。さっさとYパークから出て行け。さもないとお前も凧に貼り付けるぞ」

「降りてきなさい。この卑怯者。それでよく帝先輩に挑戦する気になったわね」

 茉理は怒りにまかせて叫んだ。

 翔太の顔色が変わる。

「帝だと? 貴様、奴の知り合いか」

「そうよ、よく知ってるわ。あんたって馬鹿? 帝先輩に女が29人もいるわけないじゃない。今年の帝先輩の相手はこのわたしよっ。そんなこともわからずに、よく帝先輩に挑戦なんてしてるわね。笑っちゃうわ」

 茉理の挑発に、翔太の顔面が憤怒に燃え上がった。

「くそっ、そうだったのか。本命を取り逃がしていたとは一生の不覚。野郎ども、今すぐあの女を捕まえろ」

 翔太の一声で、お城の壁に待機していた黒装束忍者たちは、わらわらと下に降りてきた。

(なんか……蜘蛛みたい)

 城の壁をつたって、おっかなびっくり降りてくる忍者たちを見て、茉理はそう思う。

 更に彼女は声を張り上げた。

「ちょっとっ、そこの頭の神経が一本ずれてる人、わたしと勝負しなさい」

「勝負だと?」

「そうよ。これからわたしと鬼ごっこするの。わたしはこのお城に登るわ。最上階のあなたのとこまで、たどり着いてみせる。そうしたらわたしの友達を帰して。いいわね」

「……」

「その間に、もし貴方の部下にわたしが捕まったら――」

「捕まったら?」

「おとなしく貴方の人質になろうじゃないの。帝先輩を呼んであげるわ。早く来て助けてって」

 茉理の言葉に、翔太はにやりと笑む。

「いいだろう。面白そうだ。貴様の挑戦、受けてやる」

(待ってて、さやか、朱鷺ちゃん、梓)

 茉理はぐっとこぶしを握り締めた。

(必ず上まで行って、助けてあげるからね)

 少女は強い決意のまなざしで、お城の門に駆けていった。

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