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魔法じかけのテーマパーク(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編4)  作者: 月森琴美


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3/4

「もう、もうもう、超美形、超かっこよかったったんだってばあーっ」

 レストランの二階席に、少女の興奮した声が響く。

 プールに入って思いっきり泳ぎ、少し遅めの昼食を茉理と3人の友達カップルは取っていた。

 雅人が予約してくれたレストランは、とてもおしゃれで高級そうな店。(何故、一流ホテルでもないテーマパークにファーストフード系ではなく、いかにも富裕層しか利用しなさそうな店が存在するのか、茉理は理解に苦しんだ)

 メニューも、一番高いランチのフルコース。

 さっきからキャビアやフォアグラが目の前を贅沢に行き渡り、茉理はまた行き慣れない世界に足を踏み入れた感覚で、食べてる気がしなかった。

 まわりを見れば紳士淑女――物静かな大人のカップルがほとんどで、キュロットやジーンズ、スニーカーやTシャツ系の人種は誰もいない。

(毎度のことだけど、居心地悪くてやってらんないわ)

 茉理は、ヒレステーキを切りながら肩を落とした。

 さやかはまわりの雰囲気など気にせずに、運ばれた料理を食べてはしゃべり、しゃべっては食べ、とにかく忙しい。

 横に座る緑川先輩に、茉理は心底同情した。

「すごいわよ。朱鷺ちゃんも梓も絶対驚くって。その生徒会長さんもそうだけど、横にいた生徒会の二人も、とってもイケてるって感じ。そのままタレントやっても即O.Kだよ」

 あんなに美少年をそろって見たのは初めてだわっ、と騒ぎまくるさやかに、朱鷺ちゃんと梓も盛り上がる。

「えーっ、いいなあ、さやか。わたしも見たい」

「わたしも」

 その場に座る男子3人がそれぞれ顔をゆがめているのに気付き、茉理は思いっきり決まり悪くなった。

(ごめんなさい、彼氏のみなさん)

 自分が悪いわけではないが、なんとなく謝りたくなってしまう。

 ダブルデートならぬトリプルデートを、思いっきりぶち壊したようなものだ。

 せっかくの時間なのに、横にいる彼女たちは別な男子のことで盛り上がっているなんて最悪だ。身の置き所がないとはこのことだろう。

 気まずい食事――3人の女の子だけがきゃあきゃあはしゃいで、男子は暗い顔つきで黙々と済ませた――がなんとか終わり、レストランを出る頃にはパレードの時間になっていた。

 大通りにたくさんの人が集まっている。

「早く早く、始まっちゃうよ」

 さっきまでの態度とはうって変わり、さやかも朱鷺ちゃんも梓も彼氏の手を引いて、人込みの中に入っていった。

(あ……行っちゃった)

 茉理は一人出遅れたが、彼らの後をついていく気にはなれず、離れた場所で見やすいところを探す。

 大通りの中央にはメルヘンチックなお城が建っており、そこの門からパレードはスタートすることになっていた。

 切れない人込みに辟易して、茉理はベンチに腰掛ける。

(いいや、なんか人の波に揉まれてまで、パレード見る気にならないし)

 帽子をかぶっている頭から、暑くてじとっと汗が出る。

 茉理は自販機でジュースを買うと、静かに座ってパレードが終わるのを待つことにした。




 派手な音楽と共にお城の門が開き、マスコット人形の一団が飛び出した。

 続いてバレードカーが綺麗に飾られて、ゆっくりと発進する。

 きわどい衣装を身に着けたお姉さんの踊り子や、名作童話の主人公たちが次々と現れ、にぎやかに行進していった。

(始まったみたいね)

 茉理はベンチにもたれて、ぐたっとしていると――。

『愛しい姫、お願いだ。僕に気付いてくれないか――』

「……今、何かの声が聞こえたような」

 茉理は目を瞬かせ、あたりをきょきょろ見渡した。

『姫―っ、お願いだ。この悪夢のような靴の攻撃から、僕を助け出してくれーっ』

「まさか」

 茉理は声の主に思い当たり、走って人込みの中を覗く。

 恥ずかしかったけど、しゃがんで立ってる人込みの間をじいっと見る。

 すると膝や靴の間にもまれ、むぎゅーっとなっているつぶれかかった金の蛙を発見した。

(やっぱり、雅人先輩)

 もがきながらも蛙は薔薇の花をしっかり口に咥えている。

 茉理は手を伸ばし、足と足の間から蛙を引き出して胸に抱きしめた。

『姫、やっと僕に気付いてくれたんだね。ああっ、どんなに君を待ち焦がれていたことか』

「雅人先輩、またこんな姿になっちゃったんですか」

『ああ、ちょっと失敗して素顔を晒しちゃったんだ。踊り子のナイスバディなお姉さんたちに、きゃーっと喜ばれたのはいいけれど……そのあとはこのざまさ。面目ないよ』

「しょうがないですね」

 茉理はふうっと息を吐くと、蛙を大事に抱えてベンチに戻った。

『君の友達はどうしたの?』

「あ、みんな、彼氏とパレード見に行ってます」

 茉理の少し寂しそうな声に、雅人はすばやく事情を察する。

『そうか。じゃあ僕は超ラッキーというわけだね。君を独占出来るんだから。姫、僕と遊ぼうじゃないか。あとで帝をうんと妬かせて楽しめる』

「いや、そういう楽しみはいいですから」

 茉理は雅人をベンチに乗せて、くすっと笑った。

 彼の口調にいつもからかわれてばかりで腹立たしいと思ったりするが、時にはそれが心をなごませてくれることもあるのだと、茉理は最近気付いていた。

「雅人先輩こそ、こんな格好になっちゃって大丈夫ですか」

 いつ戻れるんだろう、と首をかしげる茉理に、雅人がえるはうーんと唸る。

『そうだね、蛙になってから、たぶん15分ぐらいだと思うから、あと45分はこのままだろうね』

「1時間経ったら、戻るんでしたっけ」

『そうだよ。ああ、この忌まわしき呪いは一体いつ解けるのか。僕に永遠の愛を捧げて、呪いから開放してくれる清らかな乙女はどこに』

「あの……蛙の姿でポーズを決めても、あまり様にならないと思うんですが」

 茉理は横から眺めて、げんなりしながらそう言った。

 とりあえず一人ぼっちの気分からは開放され、彼女は少し嬉しくなる。

「あ、そうだ。帝先輩たち、心配してませんか」

『僕が蛙になるところを直樹が見ていたからね。たぶん心配なんてしてないよ』

 雅人がえるは、ピョコンと跳ねた。

「でもこのあとの予定に、雅人先輩は行かなくて大丈夫ですか」

『行きたくても、この姿じゃね』

 しょぼんとした声を送られ、茉理はしまったと思う。

(えーと……あ、そうだ)

 彼女は立ち上がると、目の前の屋台に行った。

 チョコチップアイスをカップで買うと、またベンチに戻る。

 プラスティックのスプーンで、アイスをすくって蛙に出した。

「どうぞ。アイス、食べられます?」

『わあっ、ありがとう、姫。僕の好きなチョコレートアイスだね』

 蛙はピョコピョコ元気になると、茉理の持つスプーンからアイスをぺろりとなめる。

 ちょっと行き交う人の目が気になったが、茉理は開き直って蛙にアイスを全部食べさせた。

『美味しかったよ、ありがとう、姫』

 茉理の手のひらに乗ると、蛙はポンっと薔薇の花を出す。

 一輪ではなく、ミニサイズだが花束だ。

 ピンクのコサージュみたいな花束を、茉理は可愛いっと笑って受け取った。

『どういたしまして。ところで姫、良かったら僕と散歩でもしないかい?』

「いいですね」

 茉理は蛙を両手で包むと、ベンチから立ち上がった。

「どこ行きます?」

『そうだね。遊園地定番のメリーゴーランドに行こうか』

 雅人がえるの意見に、茉理はくすっと笑う。

『何がおかしいの、姫』

「だって普通男子ってメリーゴーランドなんて乗りたがらないじゃないですか。雅人先輩、好きなんですか」

『ああ、小さい頃から大好きだよ。あんまりジェットコースターにはスリルを感じないしね』

「え?」

『あんな乗り物に乗らなくても、飛行魔法とか使ってれば十分それ以上のスリルと臨場感が味わえる。別に興味はないよ』

「……まあ、確かに」

 茉理は納得して歩き出した。





 パレードに人が集まっているおかげで、乗り物はどこも空いていた。

『次はお化け屋敷。そのあとは海賊船』

「雅人先輩、お化け屋敷って怖くないですか」

『姫は苦手かい?』

「うーん、実は……」

 茉理が白状すると、蛙はいたずらっぽく声を送ってくる。

『大丈夫。ここのは小学生でも入れるぐらいの、ちゃちなぬいぐるみお化けしかいないよ。それにこないだ魔獣を目にしてる君ならば、今更気味悪い人形の一体や二体、平気だろうさ』

「そうかなあ」

『そうそう、君にぜひ見てもらいたいお化けがいるんだ。西洋のモンスターを集めた部屋。あそこのお化け、実は発案者は僕でね』

「雅人先輩が?」

『ふふ……もちろん製作者はプロの人形作り師だけど、どんなお化けを置くかは僕が決めさせてもらったのさ。ちなみに和風幽霊部屋は直樹の作だよ』

「その部屋、とっても怪しそうですけど」

 茉理は身震いした。

(直樹先輩の発明品って、とても怖い気がするよ)

 彼女の顔を見て、雅人がえるは、まあね、と思念でつぶやき、ぺろりと長い舌を出した。




「キャーッ」

「うわわーっ」

 あちこちのスペースから、軽快な悲鳴が聞こえる。

(雅人先輩の嘘つきーっ、何が怖くないよっ)

 茉理は先ほどから、足が震えてがくがくしていた。

 何度怖くてこぶしを握りしめ、手に乗ってる雅人がえるを潰しそうになったかわからない。

『茉理姫、あんがい怖がりなんだね』

「ていうか、普通こういうのって怖くないですか。きゃっ、きゃーっ、なんか出た!」

 両サイドから突如現れた火の玉に、茉理は大きな悲鳴をあげる。

 走って、すぐさま次の部屋に駆け込んだ。

 そこは日本特有のお墓地帯。

 墓場の中央に、道が一本伸びている。

 両脇に配置されてるお墓や地蔵、そして少し先には怪しい武家屋敷が見えていた。

(げーっ、かなり雰囲気出てる……)

 茉理は、震える足を必死に動かして前進する。

 一歩二歩進むごとに墓の下から変な音がしたり、突然お岩さんやぬりかべが現れたり、天井から生首やら一反木綿がぶらりと下がってきたりで迫力満点だった。

 更に武家屋敷の横を通れば、怪しい声が聞こえてくる。

 一枚、二枚、三枚……。

 ズシャアッ。

「きゃああーっ」

 突然武家屋敷の中から刀を持った侍と割れた皿を手にしている着物姿の女性が出てきて、茉理は盛大な悲鳴をあげた。

 侍に刀で切られ、女性の人形は屋敷からばたりと外に倒れる。

 ご丁寧に血まで流して――。

(うわっうわっうわーっ! もう駄目―っ)

 茉理は更に加速をつけ、次の部屋に入った。

 雅人は雅人で必死に茉理にしがみつき、自分の位置を確保するのに悪戦苦闘している。

 次に現れたのは、小さな洋間だった。

(あれ……なんか少し怖さが薄れたみたい)

 茉理はライトアップされた薄暗い部屋を見回した。

『ここが僕の提案した西洋風モンスターの部屋。大丈夫だよ、直樹の部屋はかなり怖い演出がされていたから、次の間になるこの部屋には落ち着いて楽しめる芸術作品を置かせてもらったから』

 さっきみたいに突然何かが出てくることはないよ、と雅人は茉理にささやいた。

「ほ、本当ですよね」

 茉理は蛙に何度も念を押し、少しずつ歩いていく。

 洋間はソファが置かれ、暖炉に火が燃えていて、ハロウィンによく使われる愉快なゴーストやこうもりが天井を飛んでいた。

 ミイラ男やフランケンシュタイン、鼻の尖った魔女たちが滑稽な格好で並べられ、グラスを片手に乾杯している。

 オオカミ男は窓の外に配置されてあり、時々上る満月のせいでオオカミに変化し、咆哮をあげていた。

(本当だ。怖くないや)

 茉理は少しほっとして、蛙をまたちゃんと両手に包んで歩き出した。

 洋間の次の部屋は、洞窟みたいな場所である。

(うわーっ、なんかここも、ちょっと怖そう)

 茉理は洞窟の中を、おっかなびっくり進んでいく。

 洞穴に出ると、自動演奏しているピアノがあった。

 物悲しいノクターンを奏でるピアノのまわりは、ドライアイスの煙がたち込めている。

 突然、ピアノが激しい旋律を出したかと思うと、横から棺おけが立ち上がった。

(まさか、これ……)

 茉理の顔から血の気が引いていく。

 作り物とわかっていても、あのモンスターだけは見たくなかった。

 ギギッ、ギギギイーッ。

 棺おけの蓋が開き、そこに寝かされていた蝋人形の瞳が開く。

『大丈夫、襲ってこないよ。お辞儀するだけだから』

 雅人の声が聞こえ、茉理はかろうじて速る足をその場にとどめた。

 人形は赤い裏布をつけた黒マントを羽織り、黒いスーツを着ている。

 ぎこぎこ機械的な音を立てながら、棺おけから出てきてギクっとお辞儀をした。

(吸血鬼……だよね)

 茉理は顔をあげた人形の表情を見て驚愕する。

(この人!)

 それはよく知っている顔だった。

 目をつぶれば、今だあざやかに脳裏に浮かぶ。

 能面のように何の感情もうかがえない冷たい顔、かっと見開いた瞳。

 茉理の前に立ちはだかり、一族を滅ぼす巫女と罵倒中傷した唇。

 作り物だと承知している。

 でもあまりにも本物と雰囲気が良く似ていて、茉理の記憶はフラッシュバックを起こした。


 ――わたしの帝様をたぶらかし、一族を破滅に追いやる巫女よ! 

「ち…違う……」

 ――いづれ、その力、我が主のために、もらうこととなろう。

「し…らないっ、力なんて知らないよ……」

 ―― 帝様が必要とされているのは、お前ではなく、お前の中の力……

「わっ……かってる、そんなの、でも……」


 茉理の様子がおかしいのに雅人は気が付き、思念を送った。

『姫、茉理姫、どうしたんだ』

「嫌……わたし、知らないっ、何も知らないっ」

 茉理はその場にうずくまる。

 耳をふさぎ、目をつぶって少女は震えだした。

 人形の足元にて彼女は身をよじり、苦しそうな声をあげる。

 作り物ではない、あのときの幻影が今、茉理に迫っていた。

 無表情の顔が、アップで茉理に近づく。

「いやあああああーっ。来ないで、大和さんっ」

 断末魔のような悲鳴をあげ、茉理は完全に意識を手放した。

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