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魔法じかけのテーマパーク(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編4)  作者: 月森琴美


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2/5

 ――やっぱり来なきゃ良かった。

 Yパークの門の前で、茉理はとても後悔していた。

 YパークはY町中心部から少し郊外にあり、規模はそんなに大きくないが、スリル満点のジェットコースターや多彩なアトラクション、そして今年はなんと特設プールがオープンした。

 特設プールは日本一の長さを誇るジェットストリームなる名前の滑り台が設置され、今年はかなり盛況である。

 夏休みのこととでカップルや家族連れが平日でもひしめき合い、なかなかの人数だった。

 今もチケット売り場には、かなりの行列が出来ている。

(あーあ、どうして行くなんて言ったんだろう)

 茉理は居心地が悪くて、ため息をついた。

 彼女は今、ぽつんと一人で立っている。

 もちろん側にはさやかや朱鷺ちゃん、梓の姿があるけれど、それぞれ彼氏が横にいて、なんか話しかけるのもはばかられた。

 待ち合わせの門に着いた茉理に、閉口一番さやかが言う。

「ごっめーん、茉理。それがさあ。彼氏に探してもらったんだけど、バレー部の男子で今、彼女募集してる人いなくって」

「あ……そう」

「ま、そうしょげなくても大丈夫。プールに入れば、かっこいい人いるかもよ。あたしたちも探してあげるからさ」

(別にいいんですけど)

 茉理は、心の中で思いっきり膨れた。

(わたしは彼氏募集なんてしてないし)

 どうせ最初からそのつもりだったんだろう。

 ちょっと申し訳なさそうにしながら、朱鷺ちゃんと梓も自分の彼氏と一緒にいる。

 さやか自慢の緑川先輩は、すらりとしたさわやかな少年で、かなりかっこよかった。

 梓の彼は同じく眼鏡をかけて小柄で、顔はいまいちだったけど、梓の側で嬉しそうにしている。

 朱鷺ちゃんの彼は、いわゆる普通の男子って感じの特に目立たない少年だった。

(まあ、みんな、まともそうよね)

 茉理は紹介された彼氏たちをちらりと見ながら、そう思う。

 でもやはり容姿においては、クリスティ中等部生徒会メンバーにかなう男子はいなかった。

(さやかなんて帝先輩とか雅人先輩とか見たら、どんな反応するかしら)

 密かにそう考えて、茉理は一人な自分を慰めていた。

 門をくぐるとマスコットの像が立っており、みんな記念撮影をしている。

「私達も撮ろうよ」

 さやかが彼氏の手を引いて、マスコット像の前に立った。

「まつりーっ、撮ってーっ」

「はいはい」

 茉理は、さやかと彼氏のツーショットを撮る。

 次に梓、朱鷺ちゃんと、それぞれ彼氏とのツーショットを撮ってあげた。

「茉理も撮る?」

 そう言われて、首を横に振る。

 マスコットの前で一人の写真なんて、あまり嬉しくなかった。

「じゃ、早く泳ぎに行こうよ」

 緑川先輩の言葉で、7人はいそいそ右に進む。

「うわっ、すごい人」

「今日がジェットストリームのお披露目なんだ」

 緑川先輩が説明してくれた。

「そうなんですか」

「うん。だから遊園地オーナーの記念イベントがあるんだって」

「それでこんなに人が多いんだ」

 茉理は納得する。

「早く行こうよ、先輩」

 茉理と緑川先輩が会話したのが気に入らなかったのか、さやかはぐいっと先輩の腕を引いた。

(あーあ、別にそこまで警戒しなくても)

 茉理は心の中であきれてしまう。

 悪いが、緑川先輩に対して何の気持ちもわかない。

 帝に比べたら平凡な男子の一人に過ぎない気がして、茉理は関心もなかった。

(ま、いいか。泳ぐのは嫌いじゃないし)

 さっさと更衣室に行きながら、茉理はふうっとため息をついた。




 特設プールは肉眼で見ても十分に広い。

 しかしその分、人も多かった。

「泳げるかなあ」

 茉理はプールにすし詰め、泳ぐどころか動くこともままならない、人の詰まった状態を見て、うーんと思う。

 さやかたちは人がたくさんいようがおかまいなしに、プールサイドで彼氏とはしゃいでいる。

(もう勝手にやっててよ)

 茉理はそれでも人の少なそうな場所を見つけて、なんとかプールに浸かった。

 プールサイド前方には、巨大な赤い滑り台が見えている。

(あれがジェットストリームかあ)

 くねくねと曲がりくねり、最後まで滑りきるには相当時間がかかりそうだ。

 滑り台の筒の中には勢い良く水流が走り、プールの中に流れ込んでいる。

(面白そうといえば、面白そうだけど……並ぶのが面倒ね)

 すでにジェットストリームの脇は、長打の列だ。

 茉理はぷかぷかと水に浮きながら、ゆっくりと泳ぎだす。

 ついこないだカラスになったことを思い出し、くすっと笑った。

(なんか本当にあったことだったなんて思えないな)

 突然、ジャジャーンと派手な音楽が流れ、茉理はびっくりした。

 見るとジェットストリームの前に小さな舞台が作られて、イベントが始まろうとしている。

 でもその前にはもう人が集っていて、茉理は何をやってるのか全然見えなかった。

(別にいいや。たいしたことしてないだろうし)

 彼女はそう思い、もっと人のいない方へとばしゃばしゃ泳いでいった。




 しばらく一人泳ぎを楽しんでいると、さやかと彼氏がプールの中で泳いでいるのが見えた。

 緑川先輩にべったりくっついて、さやかは得意そうに泳いでいる。

 対する緑川先輩は、何故かさやかから距離をおきたいかのようにぐんぐん進んでいた。

「もう、早いよ。先輩、待ってーっ」

 きゃあきゃあ言いながら、さやかは先輩の後を追っかけていく。

 茉理は突然一人身がむなしくなって、泳ぐのをやめて水の中に立った。

(ちょっと疲れたかも)

 端によって、コンクリートのプールに持たれ、少し息を整える。

「おーい、茉理」

 さやかが彼女を見つけ、寄ってきた。

「こんなとこにいたのね。誰かかっこいい人、見つかった?」

「別に」

 茉理はさやかをじろっと見て、そっけなくつぶやく。

「そうよねえ。ま、がんばりなよ」

 さやかは嫌味なほどにっこりしながら言った。

「あ、先輩、今度、あれ行こうよ」

「ジェットストリーム?」

「そうそう、茉理、じゃあね」

 手を振り、さやかは先輩と腕を組みながらプールサイドに上がっていく。

 茉理も泳ぐ気が無くなり、プールから上がった。

 置いておいたタオルを肩にかけ、膝を抱えてうずくまる。

 プールサイドは燃え上がるように暑いのに、何故か彼女はとっても冷え冷えとしていた。

(泳ぎすぎたのよね、きっとそう)

 茉理はぬるいプールの水のせいにして、しばらく膝に顔をうずめていた。





 すっと彼女の髪に、誰かが手を触れた。

「どうした、茉理。具合でも悪いのか」

「別に悪くありませんけど」

「なら、なんで泣いてる?」

 茉理はほっといてくださいっと言いかけて、はっとした。

(この声!)

 顔を上げると、そこには見知った黒髪と黒い瞳――。

「み……(みかど)先輩!?」

 茉理は驚いて飛び上がった。

「ど、ど、どどうしてここに?」

「今日はここでイベントがあってな」

 帝は、何でそんなことを聞く、と不思議そうな顔をした。

「いべんと?」

「さっきやったろう。あの悪趣味ジェットのお披露目だ」

 つまらなさそうに帝は答える。

「で、どうして帝先輩がイベントに?」

「お前な。ここは伊集院グループ系列のテーマパークだぞ」

 そんなことも知らんのか、と呆れ顔で言い返され、茉理は顔が赤くなった。

 帝は、茉理を引き寄せて肩を抱く。

「会いたかったぞ。なんで連絡してこない」

「別に……帝先輩こそ忙しそうじゃないですか」

「まあな。でもお前との予定は最優先させてやる。遠慮するな」

 会いたいときはさっさと思念を送れ、とささやかれ、茉理はさっきまでの冷えた心が一気にかあっと熱くなった。

(もう、こういうのは駄目だってば)

 彼女は、あわてて帝から身を引く。

 そんな茉理の反応に、帝はぶすっとして言った。

「イベントの最中、プールを泳ぐお前が目に入った。俺の視線はいつもお前を見つけるのに、お前は俺を見てくれないのな」

「そんな……別に避けてるわけじゃないですけど」

 茉理は戸惑いながら、ぼそぼそつぶやく。

「いーや、避けてる。夏休みの宿題だって、斎と一緒にやるそうじゃないか。何故だ、茉理。俺にもっと頼ってこいよ」

 強引に顔を向かされ、茉理はどきっとした。

 帝の綺麗な顔が目の前に来ていて、心臓に悪いことこのうえない。

 顔を赤らめながら、茉理は帝を見つめた。

 その目線が彼の心を騒がせる。

 目が離せないとはこのことだ。

 二人が寄り添って見詰め合っていると――。

「茉理-っ」

(げーっ、あの声はさやか!)

 茉理は顔色を変え、帝から離れた。

「おいっ、茉理?」

「先輩、ちょっと離れて。他人のフリ、しててくださいっ」

「何故だ。どうしたんだ、茉理」

 突然の彼女の反応についていけず、帝は茉理の手をつかむ。

「ちょっと知り合いがいるんですっ。お願いですから離してくださいってば」

 茉理のあせる顔を見て、帝はいぶかしんだ。

「知り合い?」

「小学校のときの友達です。今日は一緒に遊びにきたんですけど……って、うわっ、見つかった」

 ぼそぼそと最後の方は小声でつぶやき、茉理はあきらめて、さやかの方を向いた。

 緑川先輩と一緒に歩いていたさやかは、茉理と横に立つ帝を怪訝そうに見る。

「ちょっと茉理、この人だあれ?」

 さやかの帝をなめるように見る視線に閉口しながら、茉理はしぶしぶ紹介した。

「え……と、その、この人は同じ学校の先輩で、偶然ここで会ったの」

「ふーん、偶然なんだ、そう」

 疑わしそうな目で帝を値踏みするさやかに、茉理は内心ため息をつく。

 もう腹を括るしかない。

 さやかの視線が、どんどん帝に向いていくのがわかる。

(そりゃそうよね、悪いけど帝先輩の方が、数段緑川先輩より上だって)

「ねえ、もっとちゃんと紹介してよ、茉理」

 さやかの口調が変わった。

 するりと緑川先輩と組んでいた腕をはずすと、彼女は帝の前に来る。

「初めまして、春日(かすが)さやかです。茉理とは小学校のときの同級生で親友なんです。あの、良かったら名前を」

伊集院帝(いじゅういんみかど)。クリスティ学園中等部二年だ」

 帝はぶすっとした顔で答えた。

「うわあっ、帝先輩ですかあ」

 甘えた女の子特有の声で、さやかははしゃぐ。

(さやかってば、なれなれしすぎ)

 茉理は不愉快そうに眉をしかめた。

 緑川先輩の方をこそっと見ると、心なしか顔が白くなっている。

(しょうがないな、もう)

 茉理は覚悟を決めて言った。

「あのね、さやか。帝先輩は、うちの学校の生徒会長なんだ」

「え? 生徒会長――ってことは、まさかあーっ」

 さやかの声が上ずる。

 何度も帝と茉理を交互に見返し、信じられないとつぶやいた。

「嘘でしょ。じゃ、貴方が今、茉理と付き合ってる人なんですか」

「そうだが」

 帝は仏頂面で応じる。

 彼のクールな反応に、さやかは思わず息を飲んだ。

(超かっこいいじゃん。茉理ってば信じられない)

 彼ならば、なんでも許せてしまう気がする。

 ゲームで彼女を決めているとか言っていたが、それはおそらくありきたりな告白や付き合いにあきてしまい、そんなことを思いついたに違いない。

(茉理なんかにもったいないわ)

 彼女の目線がどんどん怪しくなっていくのを見て、帝は不快そうに目を細めた。

 茉理も内心緑川先輩の表情が変わるのを、ひやひやしながら見守っている。‘

(まずいよ、さやかの浮気者。ちょっとどうしよう)

 あせっていると――。

「ここにいたのか、帝」

「そうだよ、帝。客人の相手を全部、僕に押し付けて消えるなんて、ひどいじゃない」

(うーっ、もしかしてと思ったけど、やっぱりこの人たちもいたんだ)

 茉理は、背後からかけられた声にげんなりした。

 直樹(なおき)英司(えいじ)が、プールサイドを歩いてくる。

 その場の空気が一気に変わった。

「お前ら、イベントの後始末は終わったか」

「終わったよ。ゲストへの挨拶とお礼、お見送り。こういうのは、伊集院財閥マスコット帝先輩のお仕事でしょ」

「俺は遊園地のぬいぐるみになるつもりはないが」

「だーっ、そうじゃなくて。今後の財閥発展のために、ちょっとでも顔、売っとかないといけないの。もう」

 関心ないなんて言わないこと、ぶつぶつ英司がつぶやいた。

「あれ? 茉理姫もいたんだ。そうか、それで――」

 英司はにやりと笑う。

「どうりで帝がすべての雑務を放棄して飛んでいったわけだよね。運命のいたずらか、偶然とはなんと驚く甘い罠を仕掛けてくることだろう。君と帝は運命の赤い糸で結ばれている。たとえどんな試練が来ようとも、この糸を断ち切ることは誰にも出来ない。なんて感動的な運命の再会なんだ! 僕の心は今、感激ではちきれそうだよ」

(……なんか、この山下先輩、変)

 茉理ははっとした。

(そうか。中身は雅人(まさと)先輩ね。でも外見変えても、あいかわらずだわ)

 帝率いるクリスティ学園中等部生徒会には、副会長に伊集院雅人(いじゅういんまさと)という3年の先輩がいる。

 雅人は輝く金の髪と貴公子のような美しい容姿を持っているが、とある事情により、表に出る時は巣の顔で出ることは出来なくなった。

 そのため得意分野の変身魔法を駆使して、別人に化けて外を歩くことにしている。

 そしてまさに今、目の前にいるのが生徒会書記の山下英司(やましたえいじ)に変化した雅人というわけだ。

 さやかと緑川先輩の目が、別な意味であらぬ方に飛んでいる。

 あわてて茉理は紹介した。

「あ、あのね、さやか、緑川先輩。こちらは帝先輩と同じくうちの学校の生徒会の人で、山下英司(やましたえいじ)先輩と、森崎直樹(もりさきなおき)先輩なの。先輩たち、こっちはわたしの小学校のときの友達で、春日さやかさん、横にいる人は緑川先輩で、さやかの彼氏なんです」

「よろしく、可憐なお嬢さん」

 英司(中身は雅人)はにっこりと微笑むと、すっと薔薇の花を差し出した。

「お近づきの印に、この一輪をどうぞ」

「あ……ど、ど、どうも」

 さやかは顔を赤らめ、うっとりしながら薔薇を受け取る。

 外見は中身とは違うけど、英司も十分にかっこいい部類に入る顔立ちだから、それなりに格好がつく。

(雅人先輩、また余計なことを)

 彼女の瞳がハートに染まっているのを見て、茉理はうめいた。

「あ、あの、みなさん、そろって遊びに来たんですか。よかったら、わたしたちと一緒に泳ぎません?」

 さやかが弾んだ声で誘う。

 3人はちょっと目配せをした。

 英司(中身は雅人)が代表で答える。

「ごめんよ、そうしたいのは山々だけど、俺達には用事があってね」

「用事ですか」

「このあとテーマパークの責任者とスポンサー関係の人たちとの会食が入ってる。それから次は、新しく建設予定のアトラクションについての企画発表と、雑誌のインタビュー。夕方にはホテルに戻って、Y町の下請け企業との挨拶を兼ねた夕食会。就寝前までに明日の予定を組んでおくから、それにも目を通してもらわないとな」

 マネージャーよろしく、直樹がずらずらっとこれからの予定を並べ立てた。

「はあ……」

 茉理もさやかも目が点になる。

(とにかくよくわからないけど、忙しいってことだけはわかったわ)

 茉理はとてもほっとした。

 このまま一緒に泳ぐなんてことになったら大変だ。

 英司(中身は雅人)が、にこやかに微笑みながら付け加える。

「せっかくのお誘いなのに、ご一緒出来なくてごめんよ、姫たち。そうだ、かわりと言ってはなんだけど、昼食をご馳走させてもらおうかな。メインストリートの一番右にあるレストラン、わかる?」

「あ、はいっ、あのおしゃれな噴水のあるとこですよね」

「そこを予約しておくから、プールのあとで、ゆっくりランチを楽しんでくれたまえ。じゃ、帝、行こうか」

「お前らで、あとの予定はなんとかしろ」

 帝はすっと茉理の腕をつかんだ。

「行くぞ」

「って、駄目ですよ、帝先輩。ちゃんとお仕事してください」

 みんな、困るじゃないですか、と茉理はあわてて腕を振り解く。

「仕事などいつでも出来る。俺にはお前との時間の方が大事だ。さっさと来い」

(真顔で言わないでよ、そんなこと)

 茉理は思いっきり頬を染めた。

「駄目だよ、帝。君は今日はもう予約済みなの」

「さっさと済ませれば、後野さんとのデートを夜の予定に入れてやる。二人の時間が欲しければ、ノルマをきっちりこなすことだな」

 直樹のとどめの一言に、帝はちっと舌打ちした。

 茉理を引き寄せると、おでこをこつんとぶつける。

「すまないな。でも早く片付けてお前と遊んでやるから、待ってろ」

「あ……いいです。わたしのことは気にしないで、がんばってください」

 茉理は心臓を高鳴らせながら答えた。

 目の前に迫る黒い瞳の揺らめきに、心がぐっとせつなくなる。

 帝はそんな彼女の反応に満足げに微笑むと、行くぞ、と踵を返し、2人と去っていった。


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