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魔法じかけのテーマパーク(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編4)  作者: 月森琴美


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 しゃくしゃくしゃく。

 じゃりじゃりじゃり。

 じゃらじゃらじゃら。

 茉理は今、気持ちよい潮風に吹かれながら、砂浜を歩いている。

 足元に時々波が押し寄せては、スニーカーの底を濡らした。

 横にはあのはた迷惑な天の川翔太。

 こうして若い男の子と二人きりで砂浜を歩くなんて初めてのことなのだが、ちっともロマンティックな気分にはなれなかった。

(一体、どこまで行けばいいのかなあ)

 さっきからずうっと砂浜だ。

 どこまで行っても、砂と海だけ。

 建物も何もない、うんざりするほどの景色に、茉理はいい加減頭にきていた。

 ちらりと横にいる翔太に目をやると、彼も同じ想いなのかこめかみがひくついている。

 汗もタラタラと頬に流れ、やせ我慢しているという感じだ。

(無理ないわよね。忍者装束、暑そうだわ)

 頭の先から足元までばっちり保護している真っ赤な忍者の装束に、重そうな大手裏剣。

 常夏真っ盛りの気候の中では、あまりにも浮き立った存在である。

「あの、天の川先輩」

「なんだ」

「暑くないですか、その装束」

 一瞬、翔太は茉理をぎろりと睨む。

(うわーっ、暑さで苛立ってるよ。機嫌悪そう)

 茉理は彼の顔を見て、内心うめいた。

「それ、脱いじゃったらどうですか。ここって敵はいなさそうだし」

「脱ぐ? 俺のこの戦闘コスチュームを? 冗談じゃない」

 彼は思いっきり怒鳴る。

「いきなり眼鏡野郎の刺客に襲われたらどうするんだ。このコスチュームは爆撃にも炎にも毒ガスにも耐えうる機能が備わってる。これを着ていれば、あのいけすかない眼鏡のどんな罠でも対処出来るというものだ。はっはっはっ……悪いがそうなったら俺は全力で自分を守る。お前のことまで助けてやらないから、自力でなんとかするんだな」

「はあ」

 あまりにも自己中心的な発言にカチンとくる茉理だが、同時に彼の言葉のあやにも首をかしげた。

(まあ、いいけど。直樹先輩がわたしに危害を加えることはまずないだろうし)

 先ほどから暑苦しそうに汗びっしょりの翔太。

 威勢だけは良かったが、この熱気と重く蒸れた衣装のせいで足取りが完全に遅くなっていた。

(やっぱり身軽な方がいいと思うな。敵が来たとき、対応しやすいはず)

 茉理はそう思い、わざと挑発的な態度で彼に言ってやる。

「へえ、天の川先輩って、その衣装がないと戦えないんですね。けっこう不便だなあ、それって」

「なにい」

「だって帝先輩はいつも身軽な格好ですよ。でもちゃんと戦うし、魔法だって使う。もしかして天の川先輩って、帝先輩や直樹先輩の魔法攻撃を怖れているんですか」

「なっ、何を言う。俺は怖くなんかない」

(そこで胸を張られても、肩がしっかり震えてるってば)

 拳を握り、威勢良く叫ぶ翔太を見つめ、茉理は溜め息をついた。

(帝先輩もそうだけど、男子ってどうしてそう格好つけたがるのかな)

 素直に怖いと認めればいいものを――そう思いながらいると。

「ふんっ、こんな物なくても俺は戦える。いいか、よく見ておけ」

 そう言うなり、翔太は勢いよく忍者装束を脱ぎ捨てた。

(嘘……てか、勢いで女の子の前で突然脱がないでよ)

 言い出したのは自分だが、どこか物陰でも探してやって欲しかった、と茉理はあわててくるりと彼に背を向ける。

「何後ろ向いてんだ? お前」

 不思議そうな翔太の声に、茉理は恐る恐る振り向いた。

 彼の足元には、まるでせみの抜け殻のように赤い装束が落ちている。

 そして中には、ちゃんとTシャツと短パンを穿いていたようだ。

「なあんだ、中にちゃんと着てるんじゃないですか」

 茉理はほっとしながら言った。

「当たり前だ。卑劣な攻撃に俺のコスチュームが破れることだってあるんだからな」

 腰に手をあて、得意そうにしている翔太に、はい、そうですか、と茉理はおざなりの返事をしてやる。

「じゃ、身軽になったところで行きましょうか」

 茉理の言葉に、翔太は足元の装束を手に取り、なにやら呪文を唱えた。

 あっという間に長いつなぎの服が縮み、ポケットに収まるぐらいのサイズになったのだ。

 驚いて目を白黒させている彼女に、翔太がにやりと笑う。

「『縮小』の魔法を発動したんだ。なんだよ、お前、帝の女のくせに何、驚いてる」

「え? いや、初めてみたから――」

「変な奴だな。魔族のくせに。お前だってこれぐらいの魔法は使えるはずだろうが」

 初歩の初歩だぞ、とつぶやかれ、茉理は顔を赤らめた。

(ううっ……帝先輩の彼女なのに、魔力ゼロなんてなんか言いづらいなあ)

 ばつが悪そうな彼女を、探るような目で翔太は見つめた。





 それからしばらくは、お互いに無言だった。

 どちらともなく前後しながら、それでも一応離れることなく、二人はひたすら進んでいく。

 日は落ち、辺りは真っ暗になってきた。

 夜空を星が彩り、小さなさざなみの音が足元を揺らす。

 そろそろ歩きつかれたな、と茉理が考えていると――。

 なんだか物音が聞こえてきた。

「何? 今、なんか聞こえた」

「お前もか」

 首をかしげる茉理に、翔太が緊張した顔でつぶやく。

「あそこに誰かいる」

 翔太が指差した方を見て、茉理は目を丸くした。

 突然視界に、たくさんの人が出現したのだ。

 砂浜に着飾った男女が集まり、笑いさざめいている。

 そして数人ずつボートに乗り込むと、海に向けて出発していった。

「あれを目指しているのか」

 翔太があごで示した先には、豪華な客船があった。

(うわあ……大きくて綺麗な船)

 茉理は松明をたくさん点し、楽しげな音楽が流れてくる大きな船を、驚きのまなざしで見つめる。

「なんか船の上で宴会?」

「そのようだな」

 翔太は黙ってその船を眺めていたが、すっと身動きした。

「行くぞ」

「って、どこへ?」

「決まってるだろ、あの船に」

 あきれた口調でつぶやく彼に、茉理は目を丸くしてしまう。

「は? あの船に乗るんですか。わたしたちも?」

 どうして――と戸惑う茉理に、翔太は舌打ちした。

「このままいつまでも浜辺を彷徨うか、今夜の食い物を確保するか、お前がどちらが最善の道だと思うんだ」

「食い物? そういえば――」

 全然考えていなかったが、思いついたことで茉理のお腹がぐうっと鳴る。

「ほら見ろ。お前だって人のこと言えんだろうが」

 行くぞ、とうながされ、茉理は翔太について人込みに混じり、ボートに乗りこんだ。




 思ったより船への乗船は簡単だった。

 無礼講なのか、客のチェックもなければ招待状の確認もない。

「随分無用心だな」

 翔太は馬鹿にしたように鼻を鳴らし、甲板に堂々と進んだ。

 そこは大がかりな飾りつけがされたパーティー会場で、両サイドに大きなテーブルが置かれ、ご馳走が山ほど並んでいる。

 客人たちは皆西洋風のドレスや正装で、手にはワインの入ったグラスを持って華やかに談笑し、料理を皿に盛っては好きなように食べていた。

「ビュッフェみたい」

「みたい、じゃなくて、そうなんだろう。さ、俺たちも食うぞ」

 翔太はそう言うと、皿を一枚手に取り、次々と料理を盛っていく。

(勝手にご馳走になっちゃってごめんなさい)

 心の中であやまりながら、茉理もあれこれ美味しそうなのを選んだ。

 二人は隅に引っ込んで、確保した夕食を食べる。

「あー、食った食った」

「もうお腹いっぱい」

 デザートまで遠慮なく頂戴し、二人は満足したお腹をなでた。

 甲板は綺麗なイルミネーションで飾られ、美しい音楽が流れ始める。

 着飾った人々が、優雅にダンスを始めた。

(綺麗……)

 まるでおとぎ話の中に出てくる舞踏会のようだ。

「これで王子様とかお姫様とかが出てきたら、完璧なんだけどな」

 ふともらしたつぶやきに、翔太は馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

「あの眼鏡野郎の趣味は、俺にはまったく理解出来んな。表のアトラクションもそうだが、こんな世界を罠として用意するとは、魔力の無駄遣いとしか思えん」

「まあ、そういう考え方もあるわね」

 それはそれで一理あるかも、と茉理は思った。

(本当に何考えてるかわからない先輩だってとこは、わたしも同感だわ)

 下を見ると、穏やかな音で波が静かに船を揺らしている。

 その深遠の闇のような海の色を見つめていると、突然頭がくらっとした。

「おい、どうした」

 思わず船のへりにつかまった茉理を見て、翔太は怪訝そうな声をあげる。

「ううん、大丈夫。なんだか暗くて、怖いかなって……」

 茉理はわざと笑いながら海から目を離し、華やかな舞踏会場に向き直った。

 丁度歓声が上がり、本日の主賓が登場しているところだ。

「わあっ、本当に王子様とお姫様だ」

 茉理は皆の中央に迎えられた二人を見て、声をあげる。

「ますますわけがわからん世界だな」

 顔を苦々しそうにしかめ、翔太はこぼした。

 真っ白のドレスを身を包み、美しい髪を綺麗に結い上げた上品なお姫様と、優しそうな瞳を持つ美男子の王子様。

(あの王子様は……)

 カタンッと茉理はしりもちをついて、その場に崩れ落ちる。

 二つの目は衝撃で大きく見開かれた。

(まさかこんなことって……)

 身を震わせる茉理に、翔太も驚いた顔をする。

「お、お前……突然どうしたんだ」

「え?」

「その格好、さっきまでとはまるで違う。何時の間に一瞬で着替えやがった」

「……」

 茉理は己の姿を見て、更に声が出なくなる。

(何で? 何でこんなの着てるの? わたし)

 彼女はいつの間にかドレスに身を包んでいた。

 まわりのごてごて着飾った客人たちとはあきらかに違う、清楚で可愛らしいドレスだ。

 目を丸くする彼女の前に、そっと手が差し出される。

「大丈夫? 船に酔ってしまったの? 僕の可愛い妹姫」

(え?)

 茉理は恐る恐る顔を上げた。

 王子様が、心配そうに彼女を見つめている。

 王子の顔をはっきりと瞳に映し、彼女は衝撃で何も言えなくなってしまった。

(どうして……なんでお兄ちゃんが、ここに……)


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