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魔法じかけのテーマパーク(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編4)  作者: 月森琴美


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 Yパークの横には、それなりに高級そうなホテルがあった。

 ここも伊集院財閥系列だが、流石に世界に名の知れた一流ホテルにはまだ及ばない。

 設備は最新流行のものを備えてはいるが、いかんせん一地方の小さなホテル。その地方では名をはせていても、まだまだ世界のトップと張り合うには格式が違いすぎた。

 そんなホテルの最上階、スイートルームには、豪華な家具調度すら凍りつきそうな北極並の凍気が張り詰めている。

 帝はじっと睨み殺しそうな瞳で、自分の目の前に立っている先輩二人に視線を注いでいた。

 一人はのほほーんと薔薇の花を弄び、一人はさっきから眼鏡を鈍く光らせながら、最上階の眺めにじっと見入っている。

 どちらもまったく悪びれない態度で、彼に報告をするだけすると、それ以上何も言わずに自分たちのしたいようにしていた。

「……それで」

 帝は低い声で、態度の大きい先輩二人の答えをうながす。

 雅人は天井を仰ぎ、ふうっと憂いを込めた吐息をついた。

「それでって? み・か・ど」

 にこやかに笑むと、彼はあきらかに不機嫌そうな後輩と向き合う。

「ふざけるな」

 帝はついに我慢の限界に来て、手のひらから電撃を放出させた。

 確実に雅人をねらったのだが、一応ホテルの一室なので威力を抑えている。

 そのためあっさり薔薇の花で受け止められ、電撃は霧散した。

「それだけってことだ。今のところは」

 窓から振り向き、直樹が答える。

「お前の指令を果たせなかったのは俺達のミスだ。どうののしられても、何も言えないよ」

「直樹君、帝に僕達をののしる言葉があると思うの?」

 やんわりと雅人がつぶやく。

「可愛い僕の王様は、ののしるなんてまだるっこしい手は使わないよ。本当に気に入らなかったら、さっさと処刑してお終いにするさ」

「確かに」

「そうだろう? ねえ、帝。君が僕達をこうして部屋に上げて話をしてくれてるってことは、今回の件は不問ってことさ」

「だれが不問、見逃すと言った」

 ダンッと勢い良く目の前のガラスのテーブルを叩き、帝は怒鳴った。

「早く何とかして茉理を救出しろ。直樹、迷宮空間魔法を即刻解除だ」

「無理だな」

 直樹は表情を変えずに即答する。

「魔法解除はすぐにも出来る。だが解除してしまったら、空間はすべて無に帰すだろう」

「つまり中にいる姫は、タチの悪いやんちゃ坊主ごと全部消去されちゃうってことだね」

「ああ」

 雅人の言葉に、直樹は相槌を打った。

「くそっ」

 帝は苦しげに一声あげると立ち上がり、窓辺による。

 眼下に広がるのは、夕闇に霞むテーマパーク。

 本当ならイルミネーションで彩られ、目も眩む美しい夜景となって、キラキラの電気で飾られたパレードが始まっていたはずた。

 しかし本日の突然のアクシデントによりテーマパークは門を閉ざし、来客は誰もいない。

 ふいの攻撃に備え、電源等もすべて消され、まるでゴーストパークのように静まり返っていた。

 今、彼が心に決めた少女は、この夕闇に包まれたパークの中で、必死に出口を求めて彷徨っている。

 元々の原因は自分で、彼女は完全に巻き込まれてしまったのだ。

 それがわかっているだけに、帝の中には悔しさが倍増する。

(やっぱりあの時、俺が天の川を始末しておけば――)

 茉理の突然の告白に心が動揺し、その場を二人に任せてしまったが、やはり自分がきちんと最後まで対応しれば良かったと、帝は心底後悔していた。

(俺のせいで今、お前は……)

 何も出来ない自分のふがいなさに、彼は拳を握り締め、激しく苛立つ。

 そんな帝の肩をポンッと直樹が叩いた。

「本当にすまないな。帝」

 声色は低く、いつもの冷静沈着な彼の声とは微妙に違う。

 長年の付き合いで、帝は直樹も後悔しているのだと悟った。

「天の川翔太を思ったよりなめていた。予想を遥かに上回る執念の前に完敗してしまったのが、今回の結果だ」

「まったくだよねえ、僕たちがしてやられるなんて、あまり美しい結末じゃないね」

 雅人は、薔薇の花をくるくると回しながら深い溜め息をつく。

「とにかくあの迷宮自体は、1時間もあれば抜け出せる代物だ。彼女たちが出てきたら、今後の対処を考えることにしよう」

 元の冷静な声に戻り、直樹は言った。

「そうだね。それしかないなら、今は他に出来ることをすることにしよう」

 明るい声で意見する雅人に、帝は眉を潜めた。

「他に出来ることだと?」

「あとで茉理姫をちゃんと迎えてあげられるように、時間をつくっておかないと。というわけで、帝、残りのお仕事スケジュールをすべて速攻で片付けてしまうことにしょうじゃないか」

「仕事などしている場合か」

「でも英司君に身代わりやらせるのも限界があるでしょうが。そろそろ休ませてやらないと、彼だって身が持たないよ」

 ま、君がどうしてもって言うんなら、英司はぶっ倒れるまで君のかわりを勤めてくれるだろうけど、と付け加えると、帝はとても嫌な顔をする。

 そして二人の前を通り過ぎ、部屋を出て行った。

「ふふっ、相変わらず仲間思いの王様だね」

「お前な」

 苦い顔をしながら直樹はつぶやく。

「で、姫は今、どうしてるの?」

 相変わらず憎い顔をして、雅人はやんわりと聞いてきた。

「わかってたのか」

「まあね。こちらから何も手は出せなくても、今、彼女たちがどうしてるかは、ちゃんとチェック出来るはずだよね。元々侵入者用の罠なんだし」

 罠にかかったものの状態を確認出来なければ、仕掛ける意味がない。

「とりあえず天の川と進んでるみたいだな」

「ふうん、でさ、なんで帝に今の姫の状態が見れるって言ってあげなかったの?」

 雅人は少し非難を込めたまなざしを向ける。

「確かに手は出せないけど、無事かどうかは確かめられる。これって少しは王様の心の負担を和らげると思うんだけど」

「いや、逆効果だな」

「なんでさ」

 雅人は目を瞬かせ、意外そうに聞き返す。

 直樹はソファに深く座ると、両肘をテーブルにつくと指を組み合わせ、顎をのせた。

「あの迷宮は、天の川には何の障害にもならないんだ」

 直樹の言葉が、部屋を瞬時に冷たくさせる。

「な……んだって」

 美しい顔を呆けさせ、雅人は薔薇の花をカーペットに落としてしまった。

「じゃ、一体、何のための罠なのかな、直樹君」

 穏やかだが、その声にはわずかばかりの殺気が入っている。

 直樹は更に顎を沈め、声を落とした。

「あの城のアトラクションは、客人(ゲスト)に後野茉理を選択して女子用コースで進んでいた」

「そうだよね――ってまさか」

 雅人はあることに思い当たり、思いっきり叫ぶ。

「……その、まさかだ」

 直樹は深い溜め息をついた。

「あの場に彼女がいた。そして彼女の周囲に激しい敵意ある魔力を感知して、あの罠は発動した。当然侵入者として認識されたのは後野茉理ということだ」

「つまり、あの罠でダメージを受けるのは――」

「後野茉理、一人だけということになる」

 直樹は声にならないうめき声を上げた。

「さっきこちらから確認したが、やはり彼女をターゲットにした内容が反映され、闇迷宮は発動している。肉体的には傷つかないが、精神的ダメージを負わせるようにな。だから迷宮の状態を帝に見せても、彼女がどんどん傷ついて追い込まれていく様子を目にするだけだろう。そんなのを目撃して、帝が苦しまないと思うか」

「……」

 重い重い沈黙が、部屋中に満ちる。

 向かい合う二人はそれ以上何も言えず、ただ肩を落とし、黙り込むのみだった。

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