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魔法じかけのテーマパーク(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編4)  作者: 月森琴美


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(ここは……)

 痛む体を起こして、茉理は辺りを見回した。

 薄暗い場所だった。

 頭の上から、ぽたりと冷たい雫が落ちる。

(なんか洞窟みたいだけど――どうしてここに?)

 一生懸命、記憶を探る。

 確か自分は天の川翔太に捕まって、帝を呼ぶための人質にされそうになった。

 風で作られた太い綱に体をぐるぐる巻きにされ、身動きとれずにもがいていたとき、突然足元に黒い穴が出現し、翔太と二人で吸い込まれてしまったのだ。

(どうみても城の中じゃなさそうだな。またどっかの異次元世界かしら)

 以前、帝と一緒に異次元に飛ばされたときのことを思い出し、茉理は溜め息をつく。

 不思議と不安はなかった。

 これからどうしようかという気持ちはあったが、ここから出れないかもしれない、という悲しい思いは、茉理の中に沸いてこない。

(ま、たぶん助けに来てくれると思うんだけどね)

 あの帝のことだ。

 自分の女がこんな変な次元に囚われてしまったと知ったら、持てる魔力を総動員させて、どうにでもしてくれることだろう。

 そこまで帝への信頼度が高まっている自分の気持ちを自覚して、茉理は顔を歪める。

(あーあ、こんなはずじゃなかったんだけどな)

 さっきのシンデレラの場面を思い出し、自己嫌悪に陥ってしまう。

(認めたくなかったし、こうなる前に気持ちを止めたかった)

 彼と出会って3ヶ月。

 会った当初は、どうしようもなく嫌な男だと思っていた。

 それなのに結局彼の心の奥に触れていくたび、惹かれていってしまった自分。

 茉理は身を洞窟の冷たい壁に持たせかけた。

(思わず口にしちゃったけど、やっぱり好きなんだろうな、わたしは)

 帝先輩の事が。

 自分自身に嘘をついてもしょうがない。もう認めるしかないのだろうと、茉理は頭をめぐらせた。

(まあでも自覚したってどうしようもないよね。一年後に失恋決定だし)

 現実の世界では絶対に気持ちは伝えない。

 一旦そう心を整理した彼女は、一つ息を吐いて気持ちを整えた。

(そういえばあの人、どうしたかなあ)

 帝との対戦を願い、むちゃくちゃな作戦でぶつかってきた天の川翔太。

 なりふり構わずというのは、ああいうのを言うんだろうなあ、と茉理は頭の中で先ほどの彼とのやり取りを想い返した。

(あの人って、どうしてこんなにも帝先輩にこだわるんだろう)

 周囲の人間を巻き込み、何年もあきらめることなく、好敵手魂を燃やしまくって。

(そこまで出来るって、よっぽどの思い入れがあるんじゃないかな、帝先輩に)

 単にコオロギ踏み潰して反撃された――それだけでここまで執拗に帝を追いかけられるものだろうか。

(今度会ったら聞いてみようかなあ。でも、もう二度と会いたいとは思わないけど)

 溜め息をつき、茉理はじっと壁にもたれて痛む体を休めた。



 ポチャッ。

 何度目かの上から落ちる雫を頬に受け、茉理は少し身動きした。

 体は大分落ち着いたし、何よりこの暗がりに目が少しずつ慣れてくる。

 辺りの様子が、おぼろげながらわかってきた。

(やっぱり洞窟だわ)

 細長い岩の通路が、ずうっと延びている。

 先は暗くてわからないが、ここが行き止まりだということだけは、背後にそびえる岩壁がしっかりと教えてくれた。

(歩いていくしかないわね)

 遭難したらその場から動かないのが一般的な対処法だが、歩いていけばどこか日の当たる場所に出るかもしれない。

 茉理は心を決め、壁に手をついて起き上がった。

 一歩、足を踏み出そうとして、はっとする。

 横の岩が少し出っ張った所から、人のうめき声のようなものが聞こえた。

 首を向けてみると――。

 赤い装束と、鋭い手裏剣。

(ああっ、やっぱりこのはた迷惑な人も、ここに飛ばされてたのね)

 茉理は一気に力が抜ける。

 まだ起き上がれないのか、天の川翔太は岩の陰で伸びたままだ。

(どうしようかな)

 茉理は考え込む。

 本音は、ここにそのまま置いておきたい気もしたが――。

(しょうがないよね)

 彼も一応、外に出たいだろうし、魔法の一つや二つ使えるだろう。

 茉理は決心して、そろそろと彼の側に寄り、声をかけてみた。

「あの、えーと――天の川先輩?」

 背中についっと触れたとき、がばっと彼は起き上がった。

「捕まえたぞ」

「きゃああっ」

 突然押し倒され、茉理は悲鳴をあげる。

「ふふふ……俺が気絶したとでも思ったのか。この天の川翔太、これしきのことで参る男ではない」

「……」

「さあ、観念して帝を呼べ、女」

 茉理はきっと翔太をにらみつけた。

「こんな状況で、よくそんなこと言ってられるわね。ここがどこだかもわかんないのに」

「何?」

 茉理の両腕をがっちり掴んだまま、翔太は辺りを見回す。

 見たことの無い風景に顔が蒼白になり、体を震わせた。

「なっ、なっ、なっ……」

「少しは考えてものを言った方がいいと思いますよ」

 驚きで手を緩めた彼を軽く突き飛ばして、茉理は拘束から逃れた。

 翔太は、まだ絶句している。

「なんだ、ここはどこだ」

「わたしにわかるわけないんですけど」

 茉理は溜め息をつき、起き上がった。

「どこかの洞窟みたいですね」

「そんなのは俺だってわかるっ」

 翔太も立ち上がり、青筋を立てて怒鳴る。

「わたしに怒鳴ってもしょうがないでしょ。とにかくここがどこなのか、そしてどうしたら出られるのか考えないと」

「くそっ」

 最悪だ、と舌打ちする翔太を、茉理はじっと見た。

 彼は腹立ち紛れに横の岩に拳を叩きつける。

「くっ、また失敗か。帝の奴め」

「あの……天の川先輩」

 茉理はためらいがちに口を開く。

「なんだ、女」

「その女っての、やめてください」

 茉理は頬を膨らませた。

「後野茉理って、ちゃんとした名前がわたしにはあるんです。女じゃありません」

「あとのまつり?」

 一瞬、呆けて聞きかえされ、茉理は顔が赤くなる。

(うっ……そうだ。わたしの名前って、ちゃんとしてるっていうか)

 火照る顔を俯け、茉理は次の言葉が出なかった。

「本当に本名なのか、それ」

「悪かったですね」

「ふうん」

 思いっきり馬鹿にすると思いきや、翔太は何も言わない。

 茉理は不思議に思い、顔をあげた。

 彼はじっと茉理を上から下まで眺めている。

「天の川先輩?」

「いや、ナイスな名前だと思ってさ」

「えっ」

「名付けたのは誰だ。けっこう良い名前じゃん」

 真顔で言われ、今度は別な意味で茉理はうろたえた。

 名前を茶化されなかったのは初めてだ。

(なんか調子狂うなあ)

 小さな溜め息をつき、茉理は視線を彷徨わせる。

「なんだお前、自分の名前、嫌なのか」

「え、まあ」

「いいじゃないか。誰からも一発で覚えられる名前なんて滅多にないぞ」

「はあ」

「超大うけするし親しみやすい。どこが気に入らないんだ」

 腕組みをして、うんうん、なかなかいいじゃないか、とつぶやいてる翔太に、茉理は驚きが止まらなかった。

(変わってるけど、そこまで悪人って感じじゃないなあ)

 そう思い、はっと気を取り直す。

(そうだ、わたしの名前なんかどうでもよくって、今は……)

 先ほど言いかけた言葉を、茉理は口に出した。

「あの、先輩、聞いてもいいですか」

「なんだ」

「どうして帝先輩と勝負したいんですか」

「奴に勝つ。負けっぱなしは俺のポリシーに反するからな」

 びしっと親指を立て、ポーズまで決められ、茉理はげんなりしながら続けた。

「それだけですか」

「何だと?」

「どうして帝先輩に勝ちたいんですか。誰よりも強くなりたいから?」

「……」

「それとも、何か他に理由が……」

 翔太は茉理の凝視に合い、そっぽを向いた。

「お前に関係ないだろう、そんなこと」

 心なしか頬が赤らんでいる。

 茉理は、彼の態度に首をかしげた。

(なんかアレよね。そこまで帝先輩を超嫌っているって感じじゃないわ。むしろ……)

 翔太の明後日を向いてる仕草を眺め、彼女の中にふとある考えが浮かんだ。

(え? まさか……違うよね。うん、そんなことってありえないって)

 一瞬、思いついたことを、あわてて否定する。

(本当は帝先輩のこと、けっこう好きで、かまってもらいたいとか、認めてもらいたいとか――ははっ、わたしったら何考えてるのかな。馬鹿みたい)

 茉理は小さく笑うと、翔太に言った。

「じゃ、行きましょうか」

「どこへだ」

「とりあえず、ここにいてもしょうがないと思うし、あっちの方に行ってみませんか」

 茉理の指差す洞窟の先を見て、翔太は顔をしかめた。

「むやみに突っ込んでどうする。敵の罠かもしれんぞ」

「敵って、ここにどんな敵がいるっていうんですか」

 怪訝そうに首をかしげる茉理に、翔太はあきれたような声をあげる。

「お前なあ、俺達は――少なくとも俺は、あの眼鏡野郎に厄介払いされたんたぞ。ここは奴の用意した侵入者始末用の空間に決まってる」

「はあ……」

 腕組みして真剣に眉を寄せ、考え込んでいる彼の横顔をみながら茉理は思った。

(なんかますます調子狂うなあ)

 抜けてるようで、実はかなりしっかりしてたりして。

 思考はむちゃくちゃだが、まったくの大馬鹿というわけでもないらしい。

 顔だって生徒会メンバーにはちょっと劣るけれど、十分女の子の好み許容範囲に入るだろう。

 そこまで思って、茉理はちょっと顔を赤くした。

(やだ、わたしってば何考えてんの)

 こんな観察をする必要なんてないのに。

 うろたえる茉理を、不思議そうに翔太はねめつけた。

「さっきからわけのわからん女だな。ころころと顔色変えやがって」

「え?」

「さっきまでは、なんかこう嫌そうな顔して近づいてきやがったのに、そうかと思えば真剣な目で俺に質問しかけたと思ったら、今度は不機嫌そうに顔をしかめ、更にまぬけな顔までする。どこまでこう顔が変化するんだか。今年の帝は、随分趣向が変わったものだな」

「悪かったですね、落ち着かない顔で」

 茉理はぶすっと答える。

「ま、いいけどな。しかし見ていてあきない顔ってのもあるもんだ」

 やたらと感心され、茉理は更に不機嫌になった。

(ぜっんぜん褒められてるって気がしない。てか、褒めてなんていないんだろうけどね)

 どう答えてよいかわからず、沈黙している茉理に、翔太はにやりと笑う。

「おしゃべりはここまでだ。行くぞ」

「は? あの、行くって……」

「虎穴に入らずんば虎子を得ず、と言うからな。この天の川翔太様を虎穴に入れたことを後悔させてやるぞ。はっはっはっ」

 高らかに笑いながら、彼は茉理より先にさっさと歩き出す。

(なんだかなあ。そっちこそ考えがころころ変わって、ついてけないよ、もう)

 半分あきれて彼の背中を見たとたん、ずるっと水に滑る音がして、つぶれた蛙のような声があがった。

「ちくしょう。こんなとこに誰が泥だまりなんか作りやがった」

 足元に溜まっていた水と土のぬかるみに足を取られて、翔太がはまってしまったのだ。

「敵の罠か。こんなもので俺様の行く手を阻めると思うなよ」

 ガッツポーズを決めながら、彼はよいしょと起き上がる。

 忍者の装束が泥を吸い込み、気持ち悪い色になっていた。

(この先輩も、口調は帝先輩と良い勝負かな。俺様って自尊心だけは帝先輩に負けないかもね)

 そんなことを考えながら、茉理は翔太の後に続いて、気をつけながら洞窟を進んでいった。


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