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魔法じかけのテーマパーク(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編4)  作者: 月森琴美


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「よく来たな」

 突然かけられた声に、茉理は驚いた。

 屋上には飾り物の塔が3つ建っている。

 その内の一つ――真ん中にある一番大きな塔にもたれて、赤装束の忍者が立っていた。

「ここまで俺の手下どもを踏み越え、よくたどり着いた。その根性だけはほめてやる」

「ほめなくていいから、約束は守ってよ。わたしの友達を――みんなをさっさと下ろしなさい」

 茉理が顔を真っ赤にして怒鳴ると、翔太はふっと笑う。

「ガアガアやかましい女だな。見てみろ、俺はちゃんと約束を守ったぞ」

 まわりを見てみろ、と言われ、茉理は空を見上げた。

 夕暮れの空には、凧一つ見当たらない。

 地上を見下ろして、彼女ははっとした。

 凧は全部地面に降りていて、女性たちがあわててゲートに駆けていくのが見える。

(良かった。みんな無事に降りられて)

 ほっと胸を撫で下ろした彼女は、翔太に向き直った。

「意外と、あなたってマトモな人だったのね」

「何だと」

「話のわかる人で良かったわ。じゃ、わたしはこれで失礼します」

 茉理はそう言うと、彼に背を向ける。

(えーと、降りる階段は――)

 左手に専用非常口と書いた蛍光灯が床に張り付いているのを見て、茉理はそちらに歩いて行こうとした。

「ふん、ここまで来ておいて、それはないだろう」

「え?」

 しゅっと何かが茉理の背後から投げられる。

 それは彼女の踏み出そうと上げた左足に絡みついた。

「きゃあああーっ」

 太いロープの投げ縄が、彼女の足を捕らえたのだ。

 そのまま引っ張られ、茉理はコンクリートの床に思いっきり転ぶ。

(いったーいっ、この乱暴者)

 彼女は負け時と翔太を睨み返した。

「思慮の浅い女だ。わざわざ人質になりに来るとは」

「……」

「あんな凧に吊り下げた奴らなんか俺には用のないものだ。本命のお前を捕まえるのが、本当の目的だからな。余計な人助けの精神なんか発揮しやがって、これだから女って奴は馬鹿なんだ」

 あざけるような彼の口調に、茉理は何とか立ち上がると側に寄った。

 彼を睨むと、すっと片手をあげる。

 パチーンッ。

 見事に彼女の平手が、翔太の右頬に決まった。

「なっ、何しやがる」

「あんたこそ馬鹿? 幼稚園の頃からの恨みか何か知らないけど、たくさんの人を巻き込んで、テーマパークを台無しにして。ねえ、それで楽しい?」

「何だと」

「人のこと捕まえていい気になって、馬鹿にして、得意になって、それで楽しいのかって聞いてんのよ。そんなんで本当に帝先輩に勝てるとでも思ってんの?」

「……」

「あんたこそ大馬鹿よ。百年経っても帝先輩にはかなわないわね、そんなんじゃ」

「貴様……言わせておけば」

 翔太は、頬を押さえて怒り狂った。

 手に持つロープをぐいっと引くと、彼女をまた転ばせる。

「いい気になってんのはお前だぜ。お前を煮るのも焼くのも俺の自由。人質だってことを忘れやがって――こうしてやるっ」

 彼はすばやく口の中で呪文を唱え、ロープを両手でぎゅっと引いた。

「い……いたあっ」

 ロープを伝わって、何か見えない力が彼女の全身を締め付ける。

「ふふふ……お前の中の筋肉を今締め上げてやってるんだ。どうだ、ちょっとはスタイルが良くなったんじゃないか」

「くっ……」

 体中を締め上げる痛みに、茉理は呻き続けた。

(どうしよう……本当にやばいかも……)

 全身を駆け巡る激痛に、意識がどんどん遠のいていく。

 茉理は必死に抗うが、か弱い少女の身で魔法攻撃に太刀打ち出来るはずもない。

 そろそろ限界を迎えそうになった、その時――。

 ふっと突然、体が楽になる。

(え?)

 ゆっくりと身を起こすと、今度は翔太が這い蹲り、かえるのような悲鳴を上げて苦しみ悶えていた。

「少しは考え直す猶予を与えたつもりだけど、これ以上はやりすぎだな」

 冷静な声が彼女の頭の上からする。

『はあい、茉理姫。大丈夫?』

 のほほんとした声が頭の中に響き、彼女の足の紐がはずされた。

 ピョコピョコ弾みをつけて、紐を解いてくれたのは雅人がえるだ。

「う……雅人先輩、直樹先輩」

 茉理は二人の姿を認め、ほっと体の力を抜く。

 安心したら涙が出てきた。

 へなへなとその場に座り込み、茉理はぽろぽろ涙をこぼす。

『姫、もう大丈夫だから、泣かないで』

 雅人が白いハンカチを口にくわえ、肩に乗って頬をぬぐってくれた。

「ううっ……ぐすっ、ありがとうございます、先輩」

 茉理は止まらずに出てくる涙を、ハンカチで拭く。

「さて、と」

 直樹は黒眼鏡のフレームに手を添えながら、真っ赤な顔をしてにらみつける翔太を見下ろした。

「今回のお前は少々悪戯が過ぎたな。余計な人間を巻き込みすぎた」

 冷たい声に翔太は威勢良く返事を返す。

「ふん、帝の腰巾着か。相変わらずあいつの下で、惨めにこき使われてるってか」

 揶揄する言葉にまったく動じず、直樹は薄く笑った。

「当然わかってると思うが、お仕置きの時間だ」

 黒眼鏡が鈍く光る。

 翔太は一瞬身をぞくりと震わせ、悔しそうに直樹を睨んだ。

(くそっ、今日はもうここまでなのか)

 今回もまた本命に会えずに終わってしまう。

 自分は全然彼にかなわないのだと――相手にされもしないのだと思い知らされるだけの結果しか得られないというのか。

 あきらめかけた翔太の目に、直樹の側でほっと一息ついている少女が映った。

(――あいつ……)

 彼の頭に執念の想いがわく。

 それが新たな知恵を翔太に授けた。

(まだだ。まだ手はある)

 いつもと同じではない。

 そう、もしかしたらもっと凄い結果を手にすることが出来るかも――。

 往生際の悪そうな翔太の表情を見て、直樹は顔をしかめた。

「悪いが、今回は時間がなくてね。さっさと終わらせてもらうよ」

 そう言うなり、すっと人差し指を翳し、翔太に向ける。

「わが魂に宿りし清廉なる水よ。内より出でて、戒めと――」

 魔法の呪を最後まで口にする前に、それは起こった。

「やああああーっ」

 突然鋭い一声をあげ、翔太が直樹に向かって体当たりをしてきたのだ。

「なっ」

 咄嗟のことだったが、直樹は素早く身を横に数歩ずらし、彼の体を避ける。

 しかし――。

『あああっ、茉理姫っ』

「しまった」

 直樹の横をすり抜け、翔太は茉理を羽交い絞めにした。

 雅人がえるは、翔太が突撃してくるときの勢いにのって、情けない事に足で踏み潰されてしまう。

「ふふっ、今日はどうやら俺の勝ちになりそうだな。さあ、さっさと帝を連れて来い」

 茉理をがしっと体で捕まえて身動き取れないように拘束しながら、大胆不敵に翔太は笑った。

「やれやれ、今回はすぐに終わりそうにないということか」

 直樹は内心の動揺を押し隠し、小さくつぶやく。

「そうだ。ここで終わらせてなるものか。俺の今までの苦労と情熱を、貴様たちにあっさり潰されはしない。さあ、早くしろ……っくっ、何しやがるっ」

 翔太は苦痛の叫びをもらした。

 茉理はおとなしく捕まってなどおらず、彼の腕に思いっきり噛み付いた。

『……さすが姫だね』

 雅人がえるはへなへなになった体を元通りに膨らませ、感嘆する。

「そんなこと言ってる場合か」

 直樹が少々あきれ気味に、翔太と茉理を見守った。

 彼の強い腕の力から逃れようと、茉理はせいいっぱいもがく。

 両手両足を駆使して、まるで猛獣のように彼女は抵抗した。

「やだやだやだっ、離して、この変態」

「くそっ、なんて女だ」

「あんたこそどこさわってんのよっ。きやーっ、痴漢っ、おまわりさん呼ぶわよ」

「って、ああっ」

 何気に少女の胸を背後からわしつかんでいたことに気付き、翔太は顔を赤らめる。

 実は意外と純情だった。

「す、すまない、別にわざとじゃ」

「じゃ何よ。わざとじゃないなら、さっさと離して、このド変態、女の敵」

「俺の敵は帝一人だ。女ではないっ」

「ならさっさと離れなさいよ。いつまでくっついてんの」

「いや、これは、その……ってか、別にお前をどうこうする気はないぞ。おとなしくしててくれればいいんだ」

「冗談じゃないわ。こんなことしといて何もする気がないですってえっ。そんな言葉、信じられると思ってんの?」

「いや、だから別にお前をそういう気持ちで襲う気はないってことだ。どうせ襲うんだったら、こんな幼児体型じゃなくて、もっと美人でグラマーな子がいいし」

 バッチーンッ。

 最後の翔太の止め台詞に、茉理の平手が炸裂する。

 顔を真っ赤にさせ、彼女は目を潤ませて、思いっきり怒鳴った。

「どうせ、どうせ、わたしは胸ないですよーだっ。どうせ美人でも可愛くもない並以下のレベルですよっ」

「……」

『あーあ、翔太君。君、玉砕したね』

 雅人がえるが、くすくす笑いと共に思念を送る。

『女の子の扱いがなってないなあ。帝といい勝負かも』

「ていうか、なんかこの場にいるのが馬鹿馬鹿しくなってきたぞ、俺は」

 あまりにも予定外の対決を見せられ、直樹があきれた声を出した。

「さっきまではどうなるかと思ってたんだが。なんだかな、やる気が失せた」

『直樹君……』

「緊張感というか、緊迫感というか、そういうのが一気に消し飛んだな」

 ふうっと溜め息をつき、直樹は黒眼鏡のフレームを直す。

 くだんの二人は、まだ互いを挟んでにらみ合っていた。

「くそっ。こんなことしてる場合じゃねえっ」

 絡む視線を最初にはずし、呪を唱え始めたのは翔太だった。

「大気を揺るがす大いなる風よ。戒めの鎖となり、この女を捕えろ」

 突風が屋上に吹き荒れ、さながら竜巻のようにぐるぐると渦巻いて襲い掛かる。

「やばいっ」

 直樹が身を伏せながら舌打ちする。

「こんな大量に敵意ある魔力を放出したら――って、ああっ」

 動揺して叫ぶ直樹。

 竜巻は透明な綱となり、茉理を捕えてぎゅうぎゅうと縛りあげた。

「やめろ、天の川っ。今すぐお前の魔力を収めろ。さもないととんでもないことに」

「そんな脅しに乗るかってんだ。さあ、帝の女は確保した。あいつが来ない限り、この女は解放しない」

 ぐるぐる巻きに縛られた茉理の横で、ふんぞり返って赤忍者は高らかに笑う。

「今日は、俺の根性と情熱の勝利だ。はっはっはっ」

 そう言って笑っている彼と茉理の足元が少しずつ歪み、黒い水溜りのようなものが広がっていく。

「しまった。発動したか」

 舌打ちする直樹。

 足元がどこか変なのに茉理は気付き、悲鳴をあけた。

「なっ、ななななに、これっ」

「なんだ、うわーっ」

 あわてて翔太は黒き水溜りのような広がる異空間への穴に驚き、飛び退った。

 しかし一瞬遅く。

「うわああああーっ、吸い込まれるーっ」

「いやああーっ、と、飛ばされるーっ」

 黒いブラックホールもどきから掃除機の吸い込み口のような威力が発揮され、二人は瞬く間に黒い空間に吸い込まれてしまった。

「……」

『……あれって何だい? 直樹君』

 雅人がえるの怒りを含んだ問いに、直樹は苦虫をかみつぶしたような顔をした。

「あれは対侵入者用に設置しておいた魔道罠<闇の迷宮にご招待されました、おめでとう>装置だ」

『なんでそんなものを、こんな子ども向けテーマパークに……』

「こういう城には大抵あるだろう。隠し通路とか落とし穴とか秘密の部屋とか」

『忍者屋敷じゃないんだけどね。一体、これからどうするのさ。帝に半殺しにされるぞ、僕達』

「まあ、俺一人だけじゃないのが不幸中の幸いだな。雅人、こういうときは横にお前がいてくれて助かるよ」

『なんだよ、それっ。僕まで巻き込もうってのかい』

「この場にいたからお前にも連帯責任はあるってことだ」

『ああああっ、もう。そんなことより今後の対策は? 姫を助ける方法は?』

「……検討中だ」

 ぼそっとつぶやいた直樹の言葉に、雅人がえるは膨れた蛙腹から力が抜けて、その場にぺしゃんとつぶれてしまった。

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