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魔法じかけのテーマパーク(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編4)  作者: 月森琴美


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 はあ、はあ、はあ……。

 茉理は全速力で走った。

 かぼちゃの馬車もハツカネズミの馬も無くなっていたので、ドレス(これは魔法で出したのではなかったから、消えなかった)の裾を踏んづけそうになりながら、やっと町まで戻ってくる。

「姫、お疲れ様でした」

 シンデレラの家の前で、ナビがひげをしごきながら待っていた。

「ふう、たくさん走っちゃった。ねえ、ナビ、悪いけど、お水ある?」

 もう喉渇いて、と息を切らせながら言う茉理に、ナビはぱちんと爪を弾き、冷たいジュースの入ったグラスを出してくれる。

「どうぞ。少し休んでから、次、行きましょう」

「そうだね。ちょっと休憩」

 茉理はふうっと一息つくと、おでこの汗を袖でぬぐった。

「あー、美味しい」

 ごくごくと全部ジュースを飲み干すと、茉理は笑う。

「ねえ、そういえば森崎先輩と雅人先輩は?」

「お二人は何かシステム上のトラブルだとかで、ちょっと席をはずしてます」

 ナビが髭をピンと立てて説明した。

「すぐに戻ってくるから心配しないように、との伝言がありました。それまでわたしが姫をしっかりご案内しますね」

「よろしく」

 彼女は逆に二人(正確には一人と一匹)がいないと聞いて、ほっとする。

 まだちょっと目が赤い。

 頬には涙のあともある。

 こんなの見られたら、雅人がえるに思いっきりからかわれてしまうだろう。

 今、そういうのには耐えられなかった。

(それより早く進もう。あれからどのくらい経ったかわからないけど)

 もうすぐ夕方だ。

 夏の夜空を彩る花火が、ドリームライト城から上がる時間になる。

 そのときにあの凧たちが空に浮いたままだったらどうなるのか想像もつかなくて、茉理は身震いした。

「休憩終わり。あ、ねえ、ナビ。そういえばわたしの服ってどこかな」

 第二のアトラクションで着替えた時からシンデレラのドレスになるまでの間、茉理はずっとシンプルなワンピースドレスで進んできた。

 城に入るときに着ていたTシャツとキュロットスカートは、そういえばどうなったのだろうと今更ながら思い出す。

「えーと最初にこのアトラクションに入られたときの服でしたら、わたしが持ってますよ」

 ちゃあんと持ってついてきてますから、ご安心を、とナビは言った。

「え? ずっと担いでるそのリュックってまさか」

「はい。第2のアトラクションでお着替えされたときから、わたしは姫の案内兼荷物もちなんです」

「そうだったんだ」

 茉理は安心する。

 貴重品と雅人がえるが入っていたからポシェットは肌身離さず持っていたが、流石にドリームライト城を出る時には元の服が必要だ。

「もしかしたら第二のアトラクションの時に衣裳部屋と一緒に吹っ飛ばされちゃったかと思ったよ、あはは」

「でも姫。そうはいっても似たような物だと思いますよ」

「え?」

「最初のアトラクションの時に、姫の服は得たいの知れない忍者たちによって切り裂かれてしまったじゃないですか。Tシャツなんてもう着れませんよ」

「そういえばそうだった」

 茉理は第一の部屋を出たときの、自分の凄まじい格好を思い出す。

「どうしよう。まあ、いいか。外に出たらスペアがあるし」

「スペアですか」

「うん。ほら、今日泳ぎに来たから、もしかして濡れちゃうかもと思って、予備のTシャツとか持ってきたの。今、外のゲート前のコインロッカーに入ってるよ」

 良かった、と茉理はつぶやいた。

(ふう、一応大丈夫そうですね、姫は)

 ナビはそう考えて、こっそり思念を送信する。

『もしもし、直樹様。姫は元気みたいです。続けてラストステージに行くようですよ』

『ご苦労。引き続きお前が気をつけておけ。何かあったらすぐに連絡しろ』

 直樹の声に、ナビは心の中で了解した。

「では姫。とりあえずこちらで、予備の服に着替えてください」

 ナビに渡された服を見て、茉理は驚く。

「やだ、これ、うちの学校の制服じゃない」

「お気に召さなかったら別なのにしますけど、他のは全部ドレスでして」

「これでいいよ。動きやすいし」

 茉理は着慣れた服にほっとして、着替えるべくシンデレラの家に入っていった。




 お城はまだ夜が明けていなかった。

「気が済んだか」

 茂みが揺れて、長身の少年が近づいてくる。

 帝はふっとそっぽを向いた。

「後野さんなら無事、町に着いたよ。着替えたら、次のステージに行くそうだ」

「そうか」

「お前はどうする」

 低い声で聞かれ、帝は直樹に背を向ける。

「戻る。英司と交代だ」

「そうか」

 意外とあっさり彼が引いたことに少々驚きながら、直樹は聞いた。

「いいのか、このままで」

「……」

「後野さんを守りたくて来たのだろう?」

「ああまで言われて、今更どんな顔して、あいつの前に立てというんだ!」

 彼は感情をあらわにして、更に拳を握り締める。

「今、俺が行くことに何の意味もない。あいつが余計に嫌がるだけだ」

「そうだな」

 ふっと直樹は笑みを浮かべた。

(少しは成長したみたいだな)

 相手の気持ちを推し量るようになった。

「直樹、雅人と二人で、なんとしてもこの件を片付けろ。あいつを傷つける者は決して許すな。全力で事に当たれ」

「了解」

「仮にもあいつは今年の俺の女だ。それをあっさり人質に取られ、害されるなど我慢できん。あんな低レベルの奴にな。いいか、さっさと片付けて来い。期限は夕食会までだ」

「わかった。お前もそっちでがんばれよ」

 帝は振り返ることなく、指を鳴らしてしゅっと消えた。

『行ったみたいだね』

「ああ」

 直樹の肩に、雅人がえるがちょこんと乗る。

『なんかやっぱり茉理姫はいいね。見ていて新鮮だよ』

「お前な」

『今まで何人、このアトラクションをレディたちが通過したんだろう。でもこんなのは、おそらく史上初めてだろうね。王子様にきっぱりと別れを告げて、ガラスの靴を粉々に砕いたシンデレラなんて』

「ガラスの靴の破損はアトラクション中の事故ということにして、保険で落とそう。あとのは全部、天の川建設に請求してやるつもりだけどね」

 黒眼鏡をきらめかせ、直樹はふっと笑った。

『それにしても、ちょっと気になるな』

「何がだ」

『敵さんさ。このアトラクションには、何も仕掛けてこなかったじゃないか。僕はまた忍者のお兄さんたちが、パーティー会場に乱入してくるかと思ったんだけど』

「帝もそう思っていただろうな。王子に成りすましてやってきた敵と戦い、後野さんを守ろうと考えていたはずだ。でも敵の姿はなく、意外な結果になってしまった」

『結果はともかく何かがおかしい。どうして仕掛けてこないんだろう』

 首をかしげるかえるの頭を、ポンと直樹は指で弾く。

「いろんなケースが考えられるが、1、人材がいなくなった、2、何か策略をめぐらせている、3、面倒くさくなった」

『なんだよ、その予想』

 ふくれる雅人がえるに、直樹は済まして俺は3だと思う、とつぶやく。

『ええーっ、絶対ありえないって。もうあきた、なんて、あの翔太坊ちゃんが言うと思う? そんなことならとっくに幼稚園時代からの逆恨みをやめてるよ』

「お前、あいつがよもや逆恨みだけで、こんなことしてると思ってるわけじゃないだろうな」

『そりゃあ、……そうだけどさ』

 もごもご決まり悪そうに、雅人がえるの思念はつぶやいた。

「おそらく屋上まで、奴は何も仕掛けてこないだろう。残るアトラクションは一つだけだし」

『屋上まで茉理姫がたどり着いたらどうするの? 彼は負けて人質を解放しないといけないんだよ』

「あの人質が、奴にとって意味があると思うのか。この後野さんとの勝負の勝敗など、奴にとっては関係ない。そうだろう」

『あ!』

 雅人がえるは、ぴょこっと跳ねた。

『それって、もっとやばいんじゃないの?』

「そういうことだ。おそらく後野さんが屋上に着いたときには、凧は全部下に降りている。人質はみな、解放されているだろう」

『確かにそうすれば、姫との約束は守れるね』

「奴は人質を解放すると約束した。だが屋上までたどり着いた後野さんに、手を出さないとは言ってない」

『げーっ』

 雅人がえるはさあっと青ざめる。

『どうする、直樹君。姫を止めた方がいいんじゃない?』

「止められるなら、とっくに止めてるが」

 お前には止められるのか、あの子が、とつぶやかれ、雅人がえるもため息をついた。

『無理そうだね。僕の言うことなんか聞いちゃくれないよ』

「彼女はこれまでの行動パターンを見る限り、真っ直ぐで思い込んだら一途に行動、そして変に律儀すぎる傾向がある。ちょっとずるしようとか小細工してやれ、なんて考えは、はなから持ち合わせていないと見た。今、彼女を止めたとしても、きっと、それでも約束したからとか、挑戦したのはわたしだから最後までやり抜く、とかそういうセリフを吐かれてお終いだな」

『真面目すぎるんだよねえ。もう少し肩の力を抜けばいいのに』

 雅人の言葉に、お前は抜きすぎだと直樹は一言つぶやいて、コツンと軽くかえるのぬめぬめした頭を殴った。

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