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魔法じかけのテーマパーク(私立クリスティ学園 魔法使いの生徒会編4)  作者: 月森琴美


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1/6

 じりじりと照りつける夏の日差しに、せみの声が響いている。

 Y町の中心駅Y駅の横には、暑さを凌ごうと若者達がたむろするファーストフード店<マンモスバーガー>があった。

「いらっしゃいませ」

 自動ドアを潜ると、アルバイト学生の明るい声に迎えられる。

 ピンクのTシャツに白いキュロット、スニーカーをはいた少女は店内に入って、きょろきょろ客席を見回した。

「おっそーい、茉理。こっちこっち」

 4人掛けの窓際の席から、弾んだ声が彼女を呼ぶ。

 少女――後野茉理(あとのまつり)は笑顔を見せて、席に向かった。

 すでに3人の少女が座って、冷たい物を飲んでいる。

朱鷺(とき)ちゃん、さやか、(あずさ)、ひっさしぶりーっ」

「早く茉理も何か頼んでおいでよ」

 ショートカットの少女が、にっこり笑った。

「わたしたち、もう飲んでるよ。お先に」

「ていうか茉理が遅すぎなの。今日は15分も遅刻じゃん」

 髪を茶髪に染めた少女が、ふくれっつらをする。

「ごめん、さやか。ちょっと行きがけに叔母さんに頼まれちゃって、郵便局に寄ってたんだ」

 茉理は軽く両手を合わせて、拝むようなポーズをした。

「ほら、話はあとで。早く茉理もドリンク買ってきなよ」

 眼鏡をかけた少女が、彼女を突っつく。

「うん、待っててね」

 茉理はにっこり笑うと、注文カウンターに歩いて行った。




 Y町は、後野茉理が去年まで住んでいた所だ。

 転校さえしなければ、きっと今でも住んでいて、さっきの少女たちと同じ中学に通っていたはずである。

 今は楽しい夏休み。

 茉理は引越したXX市から、1週間ほどこのY町に遊びに来ている。

 Y町には茉理の母の妹――洋子(ようこ)叔母さんが住むアパートがあり、彼女はそこに泊まらせてもらっていた。

 叔母さんは独身で、昼間は仕事。

 茉理と遊ぶ時間などなかったが、彼女は十分楽しんでいた。

 懐かしい町並みを歩いたり、お気に入りだった店や図書館、去年通っていた小学校に行ってみたり。

 今日も去年まで仲良し4人組だったさやかと朱鷺、梓に会って、久しぶりに遊ぶ約束をしたのだ。

 ドリンクを持って茉理が席に行くと、3人はもうおしゃべりが弾んでいた。

「ねえねえ、茉理。そういえばさあ。あんたの行った学校ってどう?」

「ん? どうって」

「私立じゃん。校則、厳しいんじゃない?」

 さやかの質問に、茉理は首を傾ける。

「うーん、厳しいと言えば厳しいかなあ。制服とか、ちゃんと着ないと注意されるし」

「セーラーだっけ?」

「ううん、ブレザー。ネクタイもあるよ」

「そっか。うちはセーラーだし、男子はガクラン」

 梓が眼鏡をはずして、ちらりと笑う。

「宿題は? けっこう出た?」

「出たことは出たけど……」

 茉理はうーんとうなった。

(普通の宿題もあるけどさ。なんかこう特殊なのもあるのよね)

 初恋の人を追いかけて、勢いで入った私立クリスティ学園。

 実は日本に実在する魔族の学校だったのだ。

 学生全員魔法使いの学校なため、その手の課題も入っている。

 例えば生物の宿題は、魔獣の種類と生息次元を調べること。

 科学の宿題では有名な魔法薬を一つあげて、レポートを書くとか。

(魔術なんてまったくわからないわたしに、一体どうやれっていうのよ)

 嘆く茉理に、1学期に知り合った学友遠野斎(とおのいつき)が救いの手を差し伸べてくれた。

『良かったら一緒にやろうよ、後野さん』

『うーっ、ありがとう、遠野君』

 茉理は斎の申し出が、涙が出るほど嬉しかった。

 叔母さんの家から帰ってきたら彼の家に行くということで、とりあえずこの不思議な宿題問題は解決している。

「どしたの? 茉理」

 ぼーっとしてしまった彼女に、3人は不思議そうな顔をした。

「あっ、あはははっ、ごめん、なんでもないっ。ちょっと暑くて、ぼーっとしちゃってさあ」

 茉理は笑ってごまかした。

「そういえば、彼の方はどうした? 茉理」

 にやにやしながら、さやかはドリンクのカップに突き刺したストローを指で弄ぶ。

「え?」

「何が、え?よ。あたしたちと一緒に中学行くのもやめて、追っかけてった『お兄ちゃん』のことよ」

「あ……」

 茉理はさっと顔色を変える。

(そうだった。お兄ちゃんのこと、みんな知ってたんだよね)

「ね、会えた? どうだった?」

 この手の話題には、女の子は目の色を変える。

 3人の好奇な視線にさらされ、茉理はもぞもぞした。

(どうしよう……)

 なんと言ったものか、茉理は言いよどむ。

『お兄ちゃん』――水沢明人(みずさわあきと)

 小学校3年生のときまで家が隣通しで、とても仲良しだった。

 茉理の初恋の男の子で、きっと向こうも茉理のことを想ってくれていたと思う。

 突然、親の再婚が決まって、明人は転校してしまった。

 必ずまた会いに来るという約束を残して――。

 でもそれから3年待っても何の音沙汰もなく、茉理はついに意を決し、明人と同じ学校に転入することにしたのだ。

 しぶる両親を説得し、編入試験を必死に勉強してクリアし、そして今はXX市に引越して、電車でクリスティ学園に通っている。

 明人とは再会を果たした。でも彼は……。

 どういう事情かわからないが、過去の記憶を――茉理をきれいに忘れてしまい、今は義理の妹早川響子(はやかわきょうこ)という美少女に心を移していた。

 彼を思えば、とても辛い。

 胸の痛みが引くことはない。

「茉理、どうした?」

 梓が俯いてしまった茉理を、気遣って声をかける。

「会えなかったの? お兄ちゃんに」

「ううん、会えたよ。会えたんだけど」

 茉理は必死に笑顔を作った。

「でもね、あの、その……だから、つまり」

「ふられちゃったわけね」

 まあ、そうだと思った、とさやかがつぶやいた。

「ちょっと、さやか、言い方きついよ」

「何言ってんの、朱鷺ちゃん。まあ、当然の結果でしょ」

「そんな……」

 優しそうな顔をゆがめて、朱鷺ちゃんは茉理の手を握る。

「元気出してよ、茉理。もっといい人が見つかるって」

「そうよそうよ、お兄ちゃんだけが男じゃないわよ。もっと良い人がいるって」

 梓も横で、一生懸命に慰めてくれた。

「もう、あんたみたいに現実見えてない子ってないわよね。3年よ、3年。メールも手紙も電話もなし。もうこれは脈なしだって、あたし、ちゃんと言ったじゃない」

 さやかはあきれた顔で言う。

「ちょっと、さやか」

「でもあんた、言ったわよね。絶対お兄ちゃんは、わたしのこと忘れないって。あたしとケンカまでして――むきになっちゃってさ。ほんと、お笑いよ」

 さやかは、ずーっとストローをすすった。

「あたしさあ、本当は今だから言うけど、茉理、あんたのこと、ちょっとうざかったのよね」

「え?」

「仲良くしてたけど、なんかあんた、よくお兄ちゃん、お兄ちゃんって連発してたじゃん。あたしたちには彼氏なんていなかったけど、あんたはいつもお兄ちゃんがいるって言ってた。なんかさ、自慢されてるようで、ちょっと嫌だったのよね、そういうの」

「さやかったら、久しぶりに会ったのにそれはないでしょ」

 梓が咎めたが、さやかはかまわず続ける。

「友達だから言ってんの。本音で話さないと、これからも友達やってられないじゃん。あんたたちこそどうなのよ。影では『お兄ちゃん』追っかけてった茉理のこと、馬鹿にしてたじゃない。知ってんのよ」

「えっ、わたしたちは別にそんな」

 梓が顔色を変える。

 朱鷺ちゃんも声を小さくして言った。

「別にそういうつもりじゃ……茉理のこと、心配だっただけだよ」

 場が一気にちょっと険悪なムードになり、茉理はあわてた。

「いいって。もう過去のことなんだから、気にしないで」

「茉理」

「もうね、お兄ちゃんのことはふっきれてんの。大丈夫だよ、わたし」

 ほら、こんなに元気だし、と茉理は笑ってみせた。

「そうそう、もうお兄ちゃんなんか忘れなさいって。ほんと言うと、あの水沢明人って、かなり評判悪かったみたいよ」

「え? 何それ、さやか」

 目を丸くする茉理に、さやかは声を潜めてささやく。

「今だから言うけどね。水沢明人って4年生の頃、いじめにあってたんだって、クラス中から」

「ええっ?」

「本当は1年のときからみたいだけどね。なんかこう薄気味悪いところがあるんだってさ。例えばあいつが睨むと、すうっと筆箱が宙に浮いたり」

「ええっ、超能力者?」

「あと誰かの物が無くなったことがあったそうだけど、水沢明人が誰が取ったか、ぴたりと当てたそうよ。それだけじゃなくて野良猫と話したり、変な呪文みたいなのをぶつぶつ言ってたり、とにかく普通じゃなかったって」

「うっそ、マジで」

「やだあ。そんな男子だったの?」

「茉理、知ってた?」

「え? う、ううん」

 茉理は思いっきり身を細めた。

(うっわーっ、きっとそれって魔法だわ)

 信じがたいことだが、この日本には魔族なる者が存在し、魔法を使うという事実を、茉理は最近知ってしまった。

 彼女が通っているクリスティ学園は、あろうことか魔族の学校で、そこで彼女は非現実的な出来事に巻き込まれ、魔法という存在の肯定化を余儀なくされていた。

(もう、これが現実なんだと認識してる自分が怖いわ)

 茉理はジュースを飲みながら、はあっとため息をつく。

「でもさやか、そんなこと、どこで知ったの?」

 朱鷺ちゃんの質問に、得意そうにさやかは鼻をうごめかした。

「あたしの彼氏が教えてくれたわ。3年のとき、彼、水沢明人と同じクラスだったんだって」

「へえ、そうなんだ」

 梓が納得する。

 茉理ははっとして、さやかに聞いた。

「さやか、彼氏って?」

「さやかは今、バレー部なんだけど、バレー部のエース 緑川(みどりかわ)先輩と付き合ってるんだ」

 朱鷺ちゃんが教えてくれる。

「えーっ、そうなんだ」

 驚く茉理に、さやかは笑った。

「そうそう、もう茉理の『お兄ちゃん』にひがんだりしないから安心しなさい」

 緑川先輩の方が、ずっとかっこいいもんね、と言われ、茉理はむっとした。

(前からだけど、さやかって時々むかつくよね)

「そうだ、せっかくだから茉理、あんたにも紹介してあげようか」

「え?」

「緑川先輩よ。ねえ、朱鷺ちゃんと梓も紹介したら? 自分の彼氏」

「えええーっ」

 茉理の声が店内に響いた。

 店員や客の目がこちらに向き、注目を集めてしまう。

「茉理ったら、声大きすぎ」

「驚きすぎよ。そんなに驚くことでもないじゃん」

「でも、でもさ、なんかちょっと早すぎじゃ」

 茉理はもごもご言った。

「わたしたち、まだ中一だよ? 彼氏なんて」

「遅れてるー、茉理。今や小学生でも彼氏いるのに」

 さやかの容赦ない一言で、茉理は更にしゅんとする。

「梓の彼氏はね、同じクラスの安藤哲也(あんどうてつや)っていう男子で、朱鷺ちゃんの彼氏は、同じピアノ教室に通ってる長谷川栄太(はせがわえいた)君」

「へーっ、そうなんだ」

「あたしもだけどさ、3人とも告白されて付き合うことにしたの。ま、茉理も気楽に待てば、そのうちどこかから告ってくれる男子が出てくるかもよ」

「もう、さやかちゃんったら」

 梓と朱鷺ちゃんは、二人共に照れて頬を染めていた。

(はいはい、ご馳走様)

 茉理はなんだかやるせなくなって、またジュースを一口飲む。

(ちょっとうらやましいかも)

 告白されて付き合うことになったわけだから、相手の男子はとても彼女たちを好きなんだろう。

(わたしとはえらい違いだわ)

 小さなため息が、また漏れた。

「茉理はどうなの? 気になる男子、いないの?」

「もう、さやかったら、お兄ちゃんに振られたばかりで、そんなすぐに出来るわけないじゃない」

 やんわりと朱鷺ちゃんが言う言葉に、茉理は複雑な顔をする。

「い……いるといえばいるかも」

「えええーっ」

 今度は3人が大声を出したので、もっと客や定員の注目を集めてしまう。

「ちょっと、どこの誰よ、どんな男子よ」

「茉理こそ早すぎっ。もしかしてお兄ちゃんに振られたんじゃなくて、振ったわけ?」

「やだ、信じらんない、あんたと付き合ってる男がいるなんて」

 最後のさやかのセリフに、茉理は思いっきり膨れた。

(悪かったわね。付き合ってる男がいて)

 でもかなり複雑だ。

 彼氏として紹介するのは、とても気まずいものがある。

(あー、言わなきゃよかったかも)

 今更、茉理は後悔した。

 目の前の3人は、餌に食いつく魚そのもの。

 好奇心旺盛な目をらんらんと輝かせ、茉理の言葉を待ち受けていた。

「あの、でもさ」

 茉理はあわててつぶやく。

「彼氏……とは、ちょっと違う……かもだよ」

「何よそれ」

 さやかが、あきれたような声を出した。

「彼氏じゃないなら何? 友達? 片思い?」

「ていうか、茉理が告ったの? 告られたの?」

「どんな男子よ。かっこいい? クラブは何やってるの?」

「えーと、その……」

 茉理は3人に追い詰められ、何か言わざるを得ない状況になってしまう。

「彼は、その……中二で、生徒会長で」

「生徒会長っ。それから?」

「それから、クラブは生徒会活動してるからやってなくて」

「頭いいの?」

「頭は学年トップ」

「ええっ、すごいじゃん」

「ふうん、いわゆる真面目で堅い男子って奴ね」

 さやかのはやし声に、茉理はむっとした。

「別にそこまで真面目っぽくないよ。顔は、かなりいいかもしれない」

「げーっ、そこまで言う? すごそうね、その人」

 梓と朱鷺ちゃんは、きゃっきゃっとはしゃいでいた。

「会ってみたい、茉理の彼氏」

「そうそう、ねえ、今度、茉理ん宅に遊びにいっちゃおうか」

「でもちょっと距離あるよね。どうしよう」

「何盛り上がってるのよ、二人とも」

 不機嫌そうにさやかが言った。

「で、彼氏じゃないんでしょ。なんなのよ、その男子」

「ていうか、付き合ってることは付き合ってるみたいなんだけど……その……あ、そう、ゲームで」

「はああ? ゲーム?」

 3人は目を丸くした。

 茉理はぼそぼそと続ける。

「だからね、えーと、その生徒会長って変わってて、新学期が始まったときに、女子の中から何人かを選抜してゲームに参加させるの。そして一番になった子と1年間だけ付き合う……というか、そういうわけで」

「なあんだ、ゲームか」

 さやかはにたりと笑った。

「おかしいと思った。そうよね、茉理みたいな普通の子がさ、そんな良い男、捕まえられるわけないじゃん。あんた、運良くそのゲームに勝っちゃったのね」

「うん、まあ、そういうわけで」

 梓と朱鷺ちゃんも、少し落ち着いた。

「ふうん、ゲームね」

「変わってるね、その生徒会長」

「変わり者だから茉理と付き合えるんでしょ。でも別にゲームだったら、彼氏とは言えないわよね」

 さやかの言葉が、茉理の胸に突き刺さる。

 彼女はぐっと堪え、ストローに口をつけた。

(わかってるよ、そんなこと)

 自分だって別に彼女になりたいほど、帝のことが好きなわけじゃない。

 そう、そんなわけない。

 でもどうしてこうも胸が痛むのか、茉理は自分の心をもてあまして困っていた。

「そうだ。あさって茉理、暇? 彼氏同伴で、梓と朱鷺ちゃんとプール行くことにしてんの。茉理も来ない? 彼氏、紹介したけるよ」

「え? でも」

 茉理はげっと思った。

(わたし、一人だけロンリーじゃない)

 さやかの提案は、かなりいじわるだ。

 うーっと返事も出来ない茉理に、さやかは甘く言い添える。

「大丈夫。わたしの彼氏に言って、友達連れてきてもらうから」

「友達?」

「そ、バレー部の男子とか、誰か一人、紹介してもらうわ。茉理、そんなゲームの彼氏よりも現実の彼氏を作った方が絶対いいって」

「そうよね。茉理、そのほうがいいわよ」

 朱鷺ちゃんも梓もうなずいた。

「バレー部男子って、けっこうレベル高いって、みんな言ってるし。茉理、行こうよ」

「うーん……どうしよう」

「迷ってないで、ほら、決まり。じゃあ、あさってはそれで行くわよ」

 さやかはにやっと笑うと、携帯を取り出し、メールを打ち出す。

「何打ってるの?」

「もちろん彼氏に誰か誘ってって頼んでるんじゃん」

「ねえ、やっぱりいいよ」

 茉理は弱弱しい声で断る。

「ここで紹介されても、わたし、3日後には帰らないといけないし」

「あ、そうか。でも茉理、1日遊ぶだけなんだし、別に彼氏にしなくてもいいわけだし」

 梓が彼女の背を叩く。

「そうそう、気楽に考えたらいいよ。気楽にね」

(気楽にってもね)

 茉理はとても複雑な気持ちのまま、ジュースの残りを飲み干した。


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