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記憶喪失で隠キャな俺、大人気ネットアイドルだったらしく幼馴染と復活目指して特訓中  作者: 甘酢ニノ


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7/8

動画の中の俺らしい

放課後、空き教室の座席には俺と渚の2人だけ。

真白は教室の前方でプロジェクターを操作している。

勝手に使っていいのかなと思うけど、真白は自分のスマホを接続して教室のスクリーンに動画を流し始めた。


『ヒナ@秘密基地』

『ヒナの料理配信 part30 オムライス作るよ!』


動画が再生されると、画面の中で俺がエプロン姿で立っていた。


『みんなの太陽!ヒナだよー!今日はオムライス作るよ!』


画面の中の俺は、爽やかに笑いながら手を振る。

俺は逃げ出したくなったけど、ギリギリでなんとか堪えた。


『みんなと作るのも、30回目だよね?少し上手くなってきたかも?』


そう言う動画の中の俺の手付きは、拙いけど下手くそというほどじゃなかった。


「……俺、料理できるのか」


全然実感がない。俺は料理なんかしたことがあったか?

今だって、コンビニとかスーパーの弁当とかカップラーメンしか食べてないのに。

スクリーンの横に立つ真白は、首を横に振った。


「ううん、全然できなかったよ」

「でも、料理配信って……」

「part3では野菜を洗剤で洗ってたし、part7では火事を起こしかけて、危うく動画も炎上するところだったよ!」

「才能ないから、料理配信は止めた方がいいんじゃないか……?」

「でもヒナはみんなの厳しいアドバイスもちゃんと受け止めて、ここまでできるようになったんだから!」

「そうなのか……」


俺は過去の俺にちょっと感動した。

努力し続けてくれたから、きっと今の俺でも料理ができるはずだ。


「そしたら、今日から自炊してみようかな」

「記憶がないなら、止めておいたら」


隣の渚が慌てた様子で言った。


「次はこれ!」


真白が別の動画を再生する。


『ヒナの歌ってみた!【9月版】』


画面の中で、俺が歌っている。

上手いのか?下手じゃない気がするけど、動画にして世間様に公開するほどでもない気がする。

とか客観的に見ることでなんとか耐えていたけど、徐々に顔が熱くなって我慢の限界がきた。


「もう止めろー!!」


真白を止めようと飛び出したけど、ひょいと避けられる。


「日向くん!恥ずかしがるの止めたんでしょ!?」

「止めたけど!大画面で見ることないだろ!」

「必要なことだよ!しっかり研究して、早く復活しないと!」

「練習して、できるようになったら撮影するから!」

「ダーメ!できるようになったらって言って、人はいつまでも行動しないんだから!今から撮影してもいいくらい……」

「おい、今、撮ってるだろ!止めろ!」


真白がスマホのカメラを向けているのに気づく。スマホを取り上げようとしたけど、ちょこまかと逃げられた。


「尾張、落ち着けって」


渚が止めようとした時、教室のドアが開いた。

見慣れない女子が立っている。ロングヘアで、落ち着いた雰囲気。真白とは正反対のタイプだ。


「明日の準備があって、この教室、使っていいですか?」

「ああ、大丈夫です。すぐに出ますから」


渚が答えて、俺と真白をまとめて教室から引っ張り出した。

俺たちは教室を不法占拠していただけだから、他に用があるなら出て行かなくてはならない。

だから早々に出たのに、女子生徒は俺たちをじっと見つめていた。

特に俺と目が合う。

でも、すぐに視線を外して、静かに教室に入っていった。


「あの子、誰だ?」

「同じクラスの、常峰さん」

「同じクラス、だっけ?」

「うん。いっつも本読んでる静かな人」


聞いたことない名前だ。

でも、記憶がないから当然か。それに、渚がそれとなくフォローしてくれるから、記憶がない俺は他の生徒とあまり関わらずに済んでいる。


「ねえ、日向くん、動画の続き見よ!」


次の動画は『ヒナのASMR配信!癒しの声でおやすみなさい』。

画面の中の俺が、静かに囁いている。


『今日も一日、お疲れ様。辛いことあった?僕に話して?』


「アホかー!!」

「アホって何!?日向くん、やっぱり、ヒナのこと、馬鹿にしてるんだ……」

「違う違う!闇落ちするな!まだそれを見るのに、俺の覚悟が足りないんだよ!」


真白はむぅっと頬を膨らませていた。渚が俺と真白の間に入る。


「俺も自分がやっていると思うと尾張の気持ちはわかるけどさ。でも、こういう『ヒナ』で人気が出て大勢に受け入れられてるんだから、あんまり卑下するなよ」

「わかってる、けど……」


ヒナの声。

多分メイン視聴者が女の子だから、優しい声を出しているんだろうけど、どこか作り物っぽい気もする。


「この声、本当に俺の声か?なんか違う気がする……」

「そう?真白は、イケボだと思うけど!」


真白は首を傾げているけど、そういう意味じゃなくて、何か違和感があった。

俺がモテに全振りするとあんな声が出せるようになるのだろうか。

渋々動画を見ていると、下校時間のチャイムが鳴って渚が鞄を持った。


「明日も6時だろ。今日はもう帰ろう」

「あーあ、日向くん、続きはまた今度ね!」


真白は残念そうにスマホの動画を止める。

早く忘れてほしいと俺は願っていた。



家に帰って、キッチンの冷蔵庫を開ける。

菓子パンとコンビニ弁当を入れる時くらいしか使ってなかったけど、調味料とか材料が詰まっていた。

野菜とか肉とか、駄目になりそうな物は元々入ってなかったから、俺は料理はしない人間なんだと思っていた。

でも、フライパンとか鍋とか、調理器具は一通り揃っている。

体が覚えていれば、今の俺でも料理ができるかもしれない。


「でも、記憶がないと危ないよな……」


真白が火事を起こしかけたとか言ってたし、渚にも止められたし。

料理はまた今度にしよう。


リビングを出た時、廊下の奥の閉まったままの部屋が目に入った。

あの部屋、まだ一度も開けてない。

中には何が入ってるんだろう。

手をドアノブにかける。でも、開けられない。なんとなく、開けない方がいい気がする。


「……これも、今度にしよう」


俺は自分の部屋に戻って、ベッドに転がった。

スマホで『ヒナ@秘密基地』の動画を流して薄目で見る。

また大画面で真白が流すかもしれないから、慣れておくためだ。

画面の中で歌って踊って、笑顔で手を振る俺。

まだ『ヒナ』が自分だとは思えない。

でも、いつか、しっくりくる日が来るんだろう。

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