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記憶喪失で隠キャな俺、大人気ネットアイドルだったらしく幼馴染と復活目指して特訓中  作者: 甘酢ニノ


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5/8

少しはやる気になった、かも

午後の授業。

俺の席周辺の空気はなんだか重い。

原因は、隣の席の真白だ。普通に席に座っているけど、朝とは明らかに違う。

笑顔がない。俺に話しかけてこない。ただ、授業に集中しているふりをしている。


「なぁ、真白……」

「ナンデスカ?」


声をかけると、あからさまに素っ気ない返事が返ってきた。

そういう態度を取られると、こっちも意地になる。


「……ナンデモナイデス」


俺も同じように返事をして、授業に集中することにした。

次の授業は美術。

班ごとにデッサンをする時間だけど、自由に席を動かして仲良し同士で固まっていた。

俺の周囲に女子生徒が集まってきたけど、渚がそれとなく壁になってくれて二人で隅の方のスペースに収まった。


「俺の絵が下手なのは、記憶がないからなのか……」

「あんまり関係ないと思う」


これ以上描き込んでも、俺の絵が実物に近づく事はないような気がする。

デッサンを諦めて真白の姿を探すと、真白は一人で黙々と鉛筆を動かしていた。

目を凝らして真白の絵を見ると、結構うまい。

美術部とまではいかないけど、教科書とかルール通りに真面目に描いているのがわかった。


「ねえー明里、あいつまた一人だよ」


少し離れた所から女子の声が聞こえてきた。


「いつものことじゃん。地味女のくせに、ヒナくんに媚び売ってるから、いい加減飽きられたんじゃない?」

「うざいよね。普段は大人しいくせに、ヒナの前だとベタベタして」

「マジうざーい!ヒナくん可哀想ー!」


俺は振り向きそうになったけど我慢した。

真白は何も言わない。ただ、デッサンを続けている。でも、その手が震えていた。


「明里、ちゃんと描けてる?あ、ごめん、話しかけちゃった」

「ちょっと邪魔だから、退いて欲しいんだけどー」


女子たちがクスクス笑っても真白は無視していた。

でも、鉛筆を握る手に、力が入っているのがわかった。

授業が終わるチャイムが鳴ると、真白はすぐに席を立った。


「真白」


俺が声をかけると、真白は一瞬だけ振り向いた。

でも、すぐにつーんと目を逸らして、教室を出て行く。

渚と目配せをして、俺は一人で真白を追いかけた。廊下を歩く真白の背中が、小さく見える。


「真白!」

「日向くんには、関係ないでしょ」


真白は立ち止まらない。階段を降りて、中庭に向かう。俺も続いて走った。


「さっきの、俺が言ったことで怒ってるんだろ」

「いいよ。真白、慣れてるから」

「慣れてるって……」


真白は中庭のベンチの前でやっと立ち止まった。振り返った真白は、真っ赤な顔をしていた。


「日向くん、ヒナのこと、恥ずかしいって思ってるでしょ」

「それは……」

「それで、ヒナが好きな真白のこと、変だって思ってるんだ」

「そんなことない」

「嘘つかなくたっていいもん。真白、慣れてるから」


真白は今にも泣きそうな顔をしていたけど、怒っているのがわかった。


「真白、いっつもそうだもん。皆から浮いてて、上手くできなくて、変だって言われるの、いつものことだもん」

「……」

「日向くんだって、前からそう思ってたんだ。記憶があった時も、本当は真白のこと、変だって思ってたんでしょ」

「真白!」


真白の言葉を止めたくて、俺は呼びかけた。

思ったよりも大きな声が出てしまって、真白はびくりと体を震わせる。

そして、そのまま涙が一筋、頬を伝った。

泣かせるつもりはなかったから、慌てて真白の頬の涙を拭う。


「あのさ、記憶があった時の俺のことを勝手に悪く言うなよ。そんなに悪い奴じゃないかもしれないだろ……って、俺が言うのも変だけど」


過去の記憶があった時の俺を、今の俺が庇っている。よく分からない状況だ。

真白は俺を睨んだままボロボロと声も出さずに涙を流していた。


「悪かったよ。ごめん。真白がどれだけヒナを大切にしてたか、全然わかってなかった」

「……」

「記憶がないから実感が湧かなくて、恥ずかしいって思ってた。でも、真白にとっては大事なものなんだよな」

「……」

「多分、俺は『ヒナ』になるためにすごく頑張ってたんだと思う。そうじゃないとあんなに人気者にならないよ。誰でもできるとか言って、ごめん」

「……うん」


真白はやっと頷いた。


「今の俺ができるかわからないけど、ヒナをやってみるよ」


俺が言うと、真白はぱっと顔を上げた。


「本当に……?」

「ああ。約束する」

「明日から、また特訓、いい?」

「朝6時から?う……うん、ちゃんとやるよ」

「本当に!?」


真白が笑顔に戻る。完全復活。

明日も5時半起きか、と少し後悔しなくもないけど。

でも、真白を見ていると、真白にとって『ヒナ』が心の支えになっていたんだろうなと思う。

120万人の登録者はまだ現実味がないけれど、真白一人のために頑張るのはできそうな気がしてきた。

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