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幼馴染みの『ごめんね』の使い方が間違っていると教えてあげたら、何でも許してしまう日常になりました

作者: 来留美

楽しくお読みいただけましたら幸いです。

 私と彼は幼馴染み。

 お隣さんだから毎日のように彼の部屋へ遊びに行く。


 彼の部屋はキレイに片付いていて、いつも私用のクッションが二つある。

 一つはピンク色のハートの形でもう一つは大きな猫ちゃんの顔型のクッション。


 彼のシンプルな部屋には似合わない、この二つのクッションは、彼からの誕生日プレゼントなの。


 どんな顔をしながら買ったんだろうと思うくらい、男子高校生が買うには恥ずかしいクッションだと思う。


 彼は本当に優しい。

 私の嫌がることはしないし、何でもすぐに謝る彼。


「ねぇ、この部屋に女の子なんて連れて来れないよね?」

「なっ、何言ってんの?」


 彼は飲もうとしていた麦茶を溢しそうにしながら焦っている。


「だって、こんな大きな可愛いクッションがあったら、女の子ドン引きかもよ」

「ドン引きって、言いすぎだよ」

「そんなことはないわよ。だって貴方って、イケメンでどこか影のある人だから、このハートのクッションは似合わないわ」


 私は彼の顔の横にハートのクッションを並べる。


「君って、昔から僕のことをイケメンって言うけど、馬鹿にしてるよね?」

「馬鹿になんてしていないわ。ただ私は見慣れているからイケメンだとは思わないけど、私の友達は皆、貴方がイケメンだって言うんだもん」

「その言葉が馬鹿にしているんだよ」

「もしかして、、、」


 私は彼の顔を覗き込む。


「何だよ?」

「もしかして、自分のことをイケメンだって思っているの?」

「思ってないよ」


 彼はそう言って私にハートのクッションを投げつけた。


「痛っ」


 いきなり顔にクッションが飛んできて、驚いてしまい痛くないのに痛いと言ってしまった。


「あっ、ごめんね」


 彼はそう言うと私の頭を撫でる。

 彼はいつもそう。

 謝ってから私の頭を撫でる。


 彼のこの行動は、いつも私をドキドキさせる。

 彼の手から優しさがダイレクトに注がれるから。

 

「ねぇ、明日は部活あるの?」

「部活は明後日まで休みだよ」

「それなら明後日まで遊びに来るよ」

「うん、いいよ」


 彼は私の頭を撫でながら言う。



 私と彼の学校は違う。

 彼は頭が良いから進学校へ通っている。

 私は普通の高校。


 中学生の時は、彼は女子から人気があった。

 高校生になっても人気だと思う。

 でも、彼から女の子の話を聞いたことはない。


 彼に彼女ができたら、私どうなっちゃうんだろう?

 彼とこんな風に遊べなくなっちゃうのかな?



 次の日、私が学校から帰って来ても、彼はまだ帰ってきてなかった。

 彼が帰ってくるのを部屋の窓から見ていた。



 いつまで経っても帰って来ない。

 どんどん外は暗くなる。

 すると、彼の姿が見えた。

 私はすぐに自分の部屋を飛び出して、家を出る。


 ちょうど出た所で彼がいた、、、。

 女の子と一緒に、、、。


「あっ、これは、その」


 彼は焦って言葉になっていない。

 隠す必要ないのに。

 彼女がいるなら言ってよ。


「やっぱり彼女いるじゃん。言ってよ」


 私はそう言うとすぐに自分の部屋へ戻った。

 外が暗くて良かった。

 私、ちゃんと笑えなかったから。


 私、彼を好きだったんだ。

 こんなに苦しくて、胸が痛いんだもん。

 悔しい。

 もっと早く気付いていたら、、、。


『コンコン』


 私の部屋のドアをノックする音がした。


「は、、、い」


 私は泣くのを我慢して答えた。

 声は震えている。


「僕たけど、入っていい?」

「ダメ!」

「えっ、でも、ちゃんと説明したいんだよ」

「それならそこで説明してよ」

「分かったよ」


 彼は呆れながら仕方ないなという顔をしているんだろうな。

 またワガママが始まったなんて思っているんだろうな。


「さっきの女の子は僕のいとこだよ」

「いとこ?」

「母さんが隣の県に住むいとこを呼んでいたみたいで、僕が急遽、駅まで迎えに行ってたんだよ」

「嘘だよね?」

「何で嘘なんかつくんだよ? それに連絡してるよね?」


 彼に言われて、私はスマホを見る。

 マナーモードにしていたから気付かなかったみたい。


 私は静かに部屋のドアを開ける。

 彼は部屋へ入ってきた。


「なんか、ごめんね」


 彼は謝って、私の頭を撫でる。


「それは間違ってる!」


 私よりも身長の高い彼を私は見上げる。

 彼は驚いている。

 いつもは大人しく下を向いて撫でられている私なのに、今日は彼を見上げたから。


「間違い?」

「そうだよ。謝るのは私だよ。勘違いなんかして、貴方にもいとこの女の子にも迷惑かけちゃったでしょう?」

「でも、それは、僕が君を勘違いさせて泣かせてしまったみたいだから、僕が悪いんだよ」


 彼は私の目尻に残る涙を拭う。


「でも謝るのは間違ってる」

「それなら何て言えばいいの?」

「それは、、、」




「ねぇ、冷蔵庫に入れてた私のプリンがないよ」


 私は今、とっても楽しみにしていたプリンが冷蔵庫の中になくて怒っています。


「そのプリンなら美味しかったよ。ありがとう」


 彼が私を後ろから抱きしめて言います。


「また、それを言えばいいと思っているわね?」

「だって、君が言ったんだよ? ごめんの代わりにありがとうにしようって」

「そうだけど、貴方は私が許すことを分かってて、ありがとうって言うんだもん」

「僕は、そんなことを思ってないよ。君に本当に感謝しているんだよ?」

「それなら許す」


 私はまた、彼を許してしまいました。



 私達は結婚して一ヶ月です。

 お互いの薬指には指輪が光っています。

 あの日から私達は『ごめんね』の代わりに『ありがとう』を言うことに決めました。


 そして、あの日、彼が私に言ってくれました。



「僕は君に出逢えて、君を好きになって良かったよ。ありがとう」




 そして今は。


「これからずっと、君の傍で君を守れるなんて本当にありがとう。僕を好きになってくれて」


 彼は本当に嬉しそうに笑います。

 私も彼に負けないくらい嬉しいという気持ちを込めて笑います。


『ありがとう』

お読みいただき、誠にありがとうございます。

楽しくお読みいただけましたら執筆の励みになります。

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