第4章42
『沙織梨は花を活けるのが好きだった。毎日、花を活けるために剣山を買っては時間をかけて念入りに洗ったり磨いたり手入れをしておった。剣山は沙織梨にとって宝物なのじゃ。啓太くんの夢に霊となって訴えかけたように、わしにも沙織梨が亡くなって数年が経過してから現れるようになったのじゃ』
『それなら何故もっと早く望みを叶えてあげなかったのですか?』
『不自由な体になり思うように動かなくなってしまった。だからせめてもの償いに、ここへ参りに来ているのじゃ』
『剣山を揃えないと・・・』
『うむ、しかし十個を揃えるとなると、人手が足りぬのぅ』
『心当たりはあるのですか?』
『人手さえどうにかなれば、察しはついておる』
『爺さん、人手なら大丈夫だよ。俺たちに任せろって。なぁ、啓太』
『あぁ、そうだな』
啓太と信二は、にっこりと微笑んだ。
『竹田さん、もっと詳しい手掛かりを教えて下さい。そして片山さんに話したことも・・・』
『嬉しいかぎりじゃ。沙織梨もきっと成仏してくれれだろう』
鋭い眼光で睨みつけていたばかりの竹田の表情には笑みがこぼれ、優しい穏やかな顔立ちに変わっていた。
『手掛かりを話す前に、片山という男のことを話さねばならないのぅ』
竹田は淡々と語りだした。
時折、強く吹く風が高台の木々に、ざわめきを与えていた。
『あれは確か、わしがこの場所を立ち去ろうとしていた時じゃ。片山という男が現れた。紳士のような雰囲気が溢れ出しておった』
竹田は話しを続けた。
『剣山と沙織梨のことで、必死にわしに問いかけてきたものじゃ。理由を聞けば協力してやりたい青年がいると話していた。啓太くん、きみのことなんだろう』
啓太は少し安心した。
『信二、片山さんはやっぱり悪い人じゃないよ』
『だったら何故、俺たちに話さないんだ』
『きっと片山さんなりの話しがあるんだよ』
啓太の言葉に頷きながらも、どこか納得のいかない信二だった。