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平日はアルバイト、休みは京子とのデートという一週間を繰り返しているうちに、季節は夏を過ぎ秋へと移ろいゆく。
もう今では啓太と京子の関係を知らない人は、ほとんどと言っていいほどいなかった。
同じ寺田商店で働く梨絵だけが不愉快な気分を味わってふたりを見ていた。
久しぶりに啓太は信二と高台へ足を運ぶ。
一方、片山は剣山とカトウサオリにまつわる謎を調査し続けていたが、ある結論にまで至っていた。
だが片山はそのことを自分自身の胸中にだけ、しまい込んでいた。
片山は卑劣な計画を企んでいた。
その頃、啓太と信二は高台の7体の地蔵の前で白髪の老人と対面していた。
『どうしても聞きたいことがあるのですが』
白髪の老人の男は睨みつけるように啓太に視線を送った。
『わしに何を聞きたいのだ』
啓太は一瞬、硬直した。
その老人の右眼は義眼のようだった。
『何を怖がっておる。わしの右眼は昔、事故で失った。やむなくこのような形相になってしもうた』
『いえ、そんな・・・こちらこそ失礼しました』
『で、何を聞きたいのだ』
老人の問い掛けに黙っている啓太の横に信二が近づく。
『名前は何という?』
『すみません。僕は高木啓太です。こちらが親友の田中信二です』
『わしは竹田兵助、七十五歳じゃ』
『あの〜以前、花を供えているところを見かけました』
啓太は話しを続けた。
『僕はこの場所が大好きで毎日といっていいくらい来ています』
啓太の懸命な眼差しで語る話しを竹田は聞き続けた。
信二はただ、竹田を見つめているだけだった。
『カトウサオリって女性が、たびたび僕の夢に出てきては苦しそうに悲しそうに叫んでいます』
竹田はカトウサオリという言葉を聞いた途端、異常なまでの反応で啓太を睨みつけた。