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『京子さん、暗くなる前に送るよ』
『また来ようね、啓太くん』
ふたりはまるで恋人同士のように、手を繋いで歩いていった。
『啓太くんの手って柔らかいね』
『男なんだけどなぁ』
『私、ひたむきな啓太くんのことが好きだわ』
ふたりは自転車に乗り、京子をグラウンドまで送った。
京子の姿が消えるまで見送ってから啓太も帰宅の途に向かう。
夏は終わりを告げようとしていた。
啓太はデートにかかる費用を女性には負担させたくないこともあり、アルバイトすることを決意した。
翌朝、啓太は寺田商店で働きたいことを隆太に伝えた。
『隆太さん、おはよう』
『おう、啓太。血気盛んにどうした?』
『働こうと思ってね。バイトしたいんだ』
『ようやく決心したか。何か欲しいものでもあるのか?それとも女でもできたか?』
『彼女っていうか女友達だよ』
『よし、分かった。俺から寺田さんには言っておいてやるよ』
『ありがとう、頼んだよ。隆太さん』
啓太はアルバイトすることを、食事の際に家族にも伝えた。
あまり会話をしない父も笑顔で励ましてくれた。
『啓太、父さんは嬉しいぞ。頑張るんだぞ』
『ありがとう、父さん』
『啓太、母さんも応援しているからね』
『母さんもありがとう』
啓太は姉の顔を見て呟いた。
『姉さんは何か言ってくれないの?』
『どうせ、すぐに辞めそうじゃん』
『それはひどいよ、姉さん。父さんも母さんもそう思わない』
『そう思われたくなかったら続けることだ』
啓太はそれもそうだなと黙って頷いた。
啓太は日曜日のたびに京子とデートすることになった。
ふたりは日々仲良くなっていく。