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啓太は信二と共に高台で竹田と出会った時の言葉を思い出した。
加藤沙織梨は髪が長く、ピンクの髪結いでいつも髪を束ねていたそうだ。
京子自身も啓太とのデートの際に言っていたことがある。
『私はピンクが好き。だから髪を束ねる時に使う髪結いもピンクなの』と。
良子は車のエンジンをかけた。
そして小さな声で呟いた。
『啓太くん、もう啓太くん次第よ。あと2つ探し出すの?』
啓太は無言だった。
『十個揃ったら間違いなく加藤沙織梨は成仏する。同時に片瀬京子も消え去るだろう』
片山の言葉に啓太は戸惑った。
『いや、正確には十個集めるだけでは成仏できない。集めた十個を高台の祠に安置してこそ成仏できる』
啓太は懸命に声を振り絞る。
『約束したんだ。加藤沙織梨さんを成仏させてあげるんだ。たとえ、それが・・・それが京子との別れになるとしても』
啓太の加藤沙織梨を強く思う気持ちは揺るぎなかった。
良子は車を発進させた。
夜空の星々が光り輝く。
啓太はひたすら眠り続けた。
疲れ果てたのだろう。
ただひたすら眠り続けた。
啓太の前に加藤沙織梨の霊が現れた。
そして眠る啓太に語りかける。
『ありがとう、啓太くん。あと少しで私の大切なものが揃うのね』
ぼんやりしながらも啓太は言った。
『沙織梨さん、きみは京子さんなの?』
問い掛けに答えることなく、加藤沙織梨は消えていった。
啓太は再び深い眠りに就いた。
そして日曜日が訪れた。
先週、集まってくれたすべての人たちが来てくれている。
啓太は残り2つであることを、みんなに事情説明した。
残る剣山のイニシャルは「D」「I」だった。
空には普段より小さな雲が多く流れ、暖かな陽射しが大地を照らす。
ふと京子の姿が見当たらないことに信二が気づく。
『啓太、どうしたんだろう。京子さんが来てないようだけど』
『すまない、信二。先ほど連絡があって京子なら昼辺りに来るそうだよ』
『そうか』
頷いた信二に啓太は笑って言った。
『信二、いつもありがとう。これからも親友でいてくれよ』
『当たり前だろ。何を今更』
『信二、全部揃ったら京子とさよなら・・・探すのやめようか・・・見つけなければ俺はこれからも京子と一緒に居られるんだ』
『啓太・・・』
信二は啓太を思うと辛くてどうすることも出来なかった。
言葉をかけるしか出来ずにいた。
『気持ちはよく分かる。でもな、啓太。それじゃ、沙織梨さんはいつまで経っても成仏出来ないんだぞ。その方のが辛いだろ』
啓太には百も承知だった。
だが、啓太の剣山を探す手は進まなかった。
胸の張り裂ける痛みだけが、啓太の心を包み込む。