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『おい、啓太。今、金属音がしたぞ』
信二が掘り続けると剣山か新たに一つ見つかった。
啓太は汚れを拭き取り、イニシャルを確認する。
「U」の文字が記されていた。
あと3つになったことをみんなに知らせる。
良子は啓太の元へと走って行った。
良子には片山の声は入らなかった。
『啓太くん、手伝うわ。私にもスコップを貸して』
『良子さん、嬉しいけど構わないよ。服が汚れるよ』
『いいのよ、啓太くん。気にしないで』
片山は良子にまだ話していないことがある。
煙草をまた吸い出した片山は一人思った。
『どんなに探しても、全部が揃うことはない』
時計の針は午後一時を指していた。
片山は取り引きの際に、竹田から剣山を一つ、受け取っている。
その剣山にはイニシャル「S」の文字がしっかりと刻まれていた。
残りの3つが見つからないまま、時間だけが過ぎていく。
啓太は見つからないかもしれないと、少し落胆の表情を隠し切れずにいた。
『啓太、何を落ち込んでいるんだ?』
『もう夕方近くなるだろうし、無理かもしれない』
『今日が無理ならまた来週にでも探せばいいさ』
『でも、みんなに悪いから』
『遠慮なんて必要ないさ』
結局、この日は見つからず、来週に残りの3つを探すことになった。
京子と帰り支度をする啓太の元へ、良子と片山がやって来た。
『啓太くん、大切な話しがあるの』
『良子さん、さっきも言っていたけど大切な話しって何?』
『場所を変えましょう』
京子たちに別れを告げた啓太は、信二だけを引き連れて片山と共に良子の車に乗り込む。
良子はしばらく車を走らせたが、道路沿いの小さな空き地に停止させた。
『啓太くん、京子さんのことだけど』
『京子のこと?噂の話しなら信じてないし、京子はそんな女じゃないさ』
『そのことはもういいの。しっかり受け止めて聞いてほしいことがあるのよ』
『大丈夫だよ。僕なら・・・』
なかなか言い出せない良子に対し、片山が切り出した。
『なんなら俺が話してやろうか。啓太くん、ずばり言おう。竹田から剣山を一つ預かっている。そして加藤沙織梨と片瀬京子は同一人物だ』
一瞬、戸惑い、言葉を見失う啓太。
『本当なら証拠を見せてよ、片山さん』
『まずは剣山だがイニシャルは「S」だ』
啓太は黙っていた。
『同一人物という証拠も見せてやろう』
そう言って片山は、ポケットから三枚の写真を取り出した。
一枚はバザーの時に片山が写した写真の中からで、花屋で仕事をしている京子の姿。
もう一枚は啓太と一緒にいる京子だった。
しかし、いずれも京子の姿はぼやけていて、両手両足の部分はまったく写っていなかった。
『俺も最初は現像ミスか何かと思ったが、決定的な写真を一枚、竹田から渡されている』
片山は竹田から渡された写真を見せた。
『そのモノクロ写真に写る女性は竹田の実の妹。母親は違うが加藤沙織梨ということだ』
片山は続けざまにことばを発した。
『啓太くん、もう俺が伝えたいことは理解しただろう』
啓太は大声で叫びだした。
『嘘だぁ〜、こんなの嘘だぁ〜』
良子は啓太の手を握りしめた。
『啓太くん、ごめんね。京子さんは幽霊なのよ』
『啓太くん、辛いだろう。だが真実だ。加藤沙織梨つまりは片瀬京子を成仏させてやるんだ。あと2つで揃う。あと2つで加藤沙織梨は・・・京子は成仏できる。だが啓太くん、加藤沙織梨が京子となって現れたのは、きみに害を加えるためじゃない。今では紛れもなくきみを愛しているだろう』