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無事に仕事を終えて啓太は帰宅の途に着いた。
その頃、隆太は残業を済ませ、寺田と事務所で話しをしていた。
『隆太、女房から話しは聞いたが頼みと言うのは何だ?』
『社長、申し訳ないのですが、トラックを走らせている間、拡声器を使って町のみんなに協力を呼びかけたいのです。剣山を揃える必要があって啓太の願いなのです』
『むぅ〜、仕事中にね〜』
『啓太のために力を貸してやりたいんです』
そう人に頭を下げることのない隆太。
啓太を心底想い、土下座をしてまで頼み込む姿を見て、寺田はとても駄目だとは言えなかった。
『お願いします。寺田社長、お願いします。お願いします』
『隆太、お前ほどの奴がそこまで・・・よほど啓太を想ってやっている証だ。よし、好きにしろ。その代わり仕事はきっちりしろよ。啓太にも言っておけ』
『はい、社長。本当に感謝します。有り難う御座います』
ただ笑顔で頷く寺田夫妻の温かさに見守られながら、隆太は店を後にした。
隆太はこのことを啓太に伝えた。
啓太は幼い頃、家族で訪れて楽しく過ごした遊園地での出来事のように喜び、隆太に深々と頭を下げた。
そして二週間後の日曜日に剣山を探すことが決まる。
こうしてバイトの日には啓太は拡声器を使って町中に響き渡るほどの大声で協力を呼びかけた。
啓太は信二と良子にもこのことを伝えた。
だが片山にだけはまだ話そうとはしなかった。
日が経過するにつれて次第に町中の人々が、この出来事を知ることになっていく。
それぞれが過ごしていく中で、決行の日曜日は瞬時に訪れた。
啓太は京子を連れて一番早く加藤沙織梨の実家が建っていた場所へとやって来た。
啓太は高台で竹田と会った次の日に所在地へ信二と一度、訪れている。
啓太は京子とこの場所でふたり、みんなが集まるのを待っていた。
どれだけの人が集まってくれるのか不安だったが、ここまで来たらもうやるだけやるしかないと心に強く決めていた。