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第五章 揺れる感情と、繋がる距離

 放課後の校庭は、夕陽に染まりながらも、どこか寂しげな空気を漂わせていた。秋風がかすかに髪を揺らし、赤く染まった葉っぱがひらひらと舞い落ちていく。

 「光くん……」

 声の主は、いつもの制服姿の真白千紗だった。彼女は少しだけ頬を赤らめ、ぎこちなくも真剣な瞳で光を見つめている。

 「今日は、一緒に帰ってくれない?」

 光は一瞬戸惑った。普段なら即答で断ってしまうだろう。しかし、この日は何かが違った。彼女のその声に、不思議な温かさを感じていたからだ。

 「……わかったよ」

 そう言って二人は校門を出た。静かな住宅街の一本道。周囲にはほとんど人影がなく、夕暮れの柔らかな光が二人の影を長く伸ばしていた。

 千紗は少し距離を詰め、そしてぽつりと呟いた。

 「光くん、君のこと、もっと知りたい」

 彼女の声は震えていた。まるで、ずっと胸に秘めていた感情をようやく吐き出すかのようだった。

 光は一瞬戸惑いながらも、彼女の瞳をまっすぐに見つめ返した。

 「俺も、千紗のことを知りたい」

 言葉にしたのは初めてだった。これまで誰にも言えなかった本心だった。

 歩み寄る二人の距離。千紗の手が光の手に触れた。

 その手は温かくて、柔らかかった。

 「君が怖れる気持ちも、孤独も……全部、少しずつでも分かりたい」

 千紗は光の手を握り締め、視線を伏せた。

 「わたしも、怖い。だけど、あなたのそばにいると少し勇気が湧くの」

 光は、胸の奥に込み上げる熱い感情を抑えきれず、そっと千紗の手を包んだ。

 歩きながら、話は尽きなかった。能力のこと、監視のこと、二人の未来のこと。

 だが、幸せな時間は長く続かなかった。

 翌日、校内で異変が起きた。

 突如、光のクラスメイトの一人が暴走し、異能力が制御できなくなったのだ。

 その騒ぎの中で、光は自分の能力の限界を思い知らされる。

 “自分の力で人を操ることの恐ろしさ”を。

 千紗は光の腕を掴み、強く言った。

 「光くん、私たちにはまだ戦う理由がある。君の力は誰かを傷つけるためじゃない」

 「……うん」

 その言葉に、光は震える声で答えた。

 「俺、もっと強くなる。君のためにも、俺のためにも」

 夕暮れの空の下、二人は固く約束した。


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