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ノア・アーバスノットと静寂の村  作者: 迫 智輝
貴人からの依頼
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君に頼みたいことがある

「君に頼みたいことがある」


この国で一番発展している中心都市、王都セントレア。そこにある、ひときわ目立つ建築物。

高い塔のような形をした荘厳な建物の高層階にある一室で、机につき羽ペン片手に書類に目線を落としている初老の男性と、その前に直立している青年がいた。


ここは魔法に関連するあらゆる事項を管理・運営する国営機関、魔法管理局(通称:魔法局)の総本部である。


魔法局の中でも、上から数えたほうが早い地位を持つ男性に突然呼び出された青年は、現在自身が置かれている状況がつかめないでいた。


「現在、王国領であるホーアベル領において、村人が失踪するという事件が発生している。その調査に行ってもらいたい」


青年は呼び出された理由が、自身に対する依頼であるとわかったが、内容を聞いてもどこか腑に落ちない様子である。


「えっと、僕はただの研究者です。専門も地域に伝わる伝承に関するものであり、失踪事件の調査には向きません」

「それはわかっている」

「もしかして、何か伝承に関連する事件なのでしょうか」

「いや、今のところ伝承との関連性は特に見つかっていない」

「では、なぜ…」


「ノア・アーガスノット。魔法管理局研究所の教授であり、専門は魔法に関連する民間伝承。若干18歳で異例の出世をした魔法管理局のエース」


青年ノアは突然、自身のプロフィールを読み上げられ、動揺する。

おだてて依頼を受けさせるつもりなのだろうか。


しかし、その手には乗らない。

研究室でゆっくりと研究に没頭することは他の何にも代えがたい至福の時間であり、よく分からない不気味な事件の調査などに行ってたまるか。


プロフィールが読み上げられた後の極短い間に、ノアは断る意思を決めていた。


「なんですか、急に。そんなこと言われても…」

「いや、魔法管理局のエースだった」


ノアの推測とは裏腹にこれは相手を褒めて依頼を受けてもらおうとする交渉の類ではなかった。威厳のある目の前の男性は整えられた顎鬚をさわりながら、話を続ける。


「教授に就任して以降、これまで大した実績を上げていないな」

「それは…」

「教授になった時にも説明したと思うが、研究所に割り当てている研究費は国民の税から出ているものであり、適切な金額か定期的に審査を行う必要がある。」


ノアはここまで聞いて、この後何を言われるか見当がついてしまい、顔色が悪くなった。


「例えば実績のない君の研究所のようなところの次期予算は…」

突然、言葉を止められる。まるでこちらの確認を待つように。


「予算は…?」

「ゼロだ」


ノアは恐れていた通告を聞き、唾を飲み込んだ。まずい、このままだと悠々自適な研究生活が終わってしまう。


「しかし君のような期待の若者に、そのような処分を行うのは、私も些か辛い。そこでちょうど魔法局に国のお偉いさんからとある依頼が来た」


先ほどから話している男性、魔法局副局長ジェームズ・ウォルドグレイヴが偉い人と呼ぶということは、かなり身分の高い人からの依頼なのだろう。

ということは失敗が許されない重要依頼ということになる。

焦りからか冷や汗が頬を伝う。


「それが先ほど伝えた事件の調査になるのだが、村の事件一つのために優秀な人材を借りだすほど、魔法局はリソースに余裕がない。しかし末端の研究員を割り当てることは、依頼人の不満につながりかねない。」


ジェームズは持っていた羽ペンの先をノアに向けた。

「そこで君だ、一応最年少教授という箔があるし、魔法局としても君が一時期いなくなったくらいでは全く影響がない」


なるほど、だから自分なのかと、ノアは悔しいが納得してしまった。


「本依頼を成し遂げてくれれば、君の研究室の予算について、審査部に掛け合ってあげよう。しかし、依頼人は事件が起きた村の出身であり、事件の解決を心から望んでいるため、中途半端な報告は許されない。」


やはり交渉ではなく、脅迫だった。

依頼を受けるか、研究室を追われるか、どちらか選べということらしい。

もちろん研究生活は大事だが、依頼を受けた以上、何もわかりませんでしたなんて言えない状況に立たされることになる。


「ちなみに、もうすでに調査要員として君の名前を依頼人に伝えてある。もしここで断りなどした場合は、アーガスノット家に直接苦情が入ることだろう」


ジェームズが発した内容を理解し、ノアは明らかに動揺した。

実家にそんな苦情を入れられた暁には、すぐに実家に連れ戻され、政略結婚させられるか、父母に殺されるかどちらかになる。これでは逃げ場などないではないか。


今回の話は脅迫ですらない、ただの命令だった。


「本依頼受けていただけるかな、ノア・アーガスノット君」

「はい…謹んでお受けいたします」


どこかあきらめがついた表情でノアは深くお辞儀をした。

ジェームズはその姿を見て、満足したように笑みを浮かべた後、手元の書類に再度目を落とす。


「そういってくれると、信じていたよ。では早速準備をして、村に向かってくれ。詳しい資料は後ほど君の研究室に届けさせる」


信じていたなどと白々しい言葉を聞いて、今後この人とはなるべく関わりたくないとノアは考えていた。

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