柊穂乃果ルート 第5話 お団子少女、嫉妬の心が芽生える。
午前七時過ぎ。オレは、柊家での朝食を終え、穂乃果と共に家を出た。
穂乃果の家の周りは、一面、畑と野山が広がっており、ひたすらのどかな田園風景が広がっていた。
空を見上げると、そこには入道雲と夏の太陽の姿が見られる。
そんな自然豊かな風景の中、オレと穂乃果は二人横に並び、静かに歩いていた。
「えへへへ。朝、お姉さまと一緒におうちを出て、学校に登校するなんて……夢のようですぅ~!! とっても嬉しいですぅ~!!」
そう言って穂乃果はオレの手をギュッと握り、こちらに満面の笑みを向けてくる。
オレはそんな彼女の様子に微笑みを向けつつ、先ほどから気になっていた疑問を、彼女に投げてみた。
「あの、穂乃果さん、先ほどからひとつ、気になっていることがあるのですが……」
「? 何ですか? お姉さま?」
「その……何故、私の手を握ってらっしゃるのでしょうか?」
「え? 手?」
首を傾げ、彼女は自身の左手に視線を向ける。
そして、突如顔を真っ赤にさせると、穂乃果は慌てて手を離し、オレと距離を取った。
「は、はわわわわぁ!! わ、私、いつの間にかお姉さまと手を繋いでいましたぁ!! ご、ごごご、ごめんなさいですぅ~!!」
ブンブンと何度も深くお辞儀をして、オレに謝罪してくる穂乃果。
そして彼女は顔を上げると、上目遣いで窺うようにオレのことを見つめてくる。
「あ、あの……そ、その……お姉さま」
「何でしょうか、穂乃果さん?」
「や、やっぱり、手を……」
「え?」
「陽菜ちゃんと花子ちゃんと合流するまでで良いので、やっぱり、手を……繋いでいてもよろしいでしょうか……?」
「………え?」
「わ、私、お姉さまとお手々を繋いで、その、登校……してみたくて。……だ、駄目ですよね、こんな、子供みたいな行為……な、何でもございません、忘れてくださいぃ……!!」
そう口にして、穂乃果はしゅんとした様子を見せる。
オレはそんな彼女に対してクスリと笑みを溢し、穂乃果の手を―――優しく握った。
「ふわぁ!? お、おおお、お姉さまぁ!?」
「構いませんよ、これくらい。では、行きましょうか?」
「は、はいですっ!!」
―――――七月十八日。
ミンミンと蝉がうるさく鳴き叫び、求愛行動に励む中。
オレと穂乃果は、見渡す限りの畑が続く畦道を、二人で歩いて行く。
人影がどこにもないから、まるでこの世界に、二人だけが取り残されたような……そんな、不思議な感覚に陥る。
普段はオレに色んな雑談を振ってくる穂乃果が、珍しく無言だった。
さり気なく隣へと視線を向けてみると、そこには……頬を紅くしながらチラチラとオレの顔を盗み見る、穂乃果の姿があった。
彼女はオレと目が合うと、何故か「あわわわ」と目をグルグルさせて、そっぽを向き始める。
照れる彼女の姿が微笑ましくて、オレは思わずクスリと、笑みを溢してしまっていた。
そんな無言のやり取りが、その後、数回交わされる。
会話のない、二人だけの世界。二人だけの登校。
でも、不思議と居心地は悪くはなく。
オレは、耳まで真っ赤にしている穂乃果を、心の底から可愛いと……そう、思ってしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
みんなとの待ち合わせ場所である、改札前にあるステンドグラス前で、陽菜と花子を発見する。
すると、穂乃果はどこか名残惜しい様子でオレから手を離し、二人の元へと駆け寄って行った。
オレはそんな彼女の後ろ姿を、ジッと見つめながら……遅れて、彼女たちへと合流を果たす。
「お待たせしました、陽菜ちゃん、花子ちゃんー!!」
「あっ、おっそーい、二人ともー!」
「待ちくたびれましたよ、青き瞳の者、巨乳女」
「ご、ごめんなさいです! そんなに遅れて家を出たつもりはないのですが……も、もしかして、私、無意識でゆっくりと歩いていました……?」
「? 何か言った、穂乃果?」
「な、何でもないですぅ~!! あははははっ!!」
「何かテンション変じゃない、穂乃果……?」
「そ、そんなことないですよぉう!! いつも通りですぅ!!」
「……? ……まぁ、いいや。ってか、今日は、穂乃果と楓っちが同時到着か~。二人とも路線違うのに、珍しいこともあるんだね~」
「え、えっと、その……はい、そうですね。珍しいこともあるものですねぇ~。あっ、そそそ、そうだ、陽菜ちゃん、この前言っていた、新作ゲームのことなんですけど――――」
「ん?」
何故か穂乃果は、オレが昨夜家に泊まっていったことを、二人に隠した。
オレはそんな彼女の様子に、思わず、首を傾げてしまう。
「………おい、お前」
その時。くいくいと袖を引っ張られ、花子がオレに小さく声を掛けてきた。
そして彼女はチラリと、陽菜と話す穂乃果を一瞥すると、誰にも聞こえない声量で、開口する。
「青き瞳の者、お前……穂乃果と何かあったのですか?」
「へ? な、何か、とは?」
「今日は穂乃果のテンションがやけに高い気がします。そして、何故かあの巨乳女は始終顔が真っ赤です。穂乃果があんなに奇天烈な様子なのは……絶対にお前のせいでしょう、変態女装男」
「その呼び方は止めてください。……何も、していませんよ。ただ、手を握ってここまで登校してきただけです」
「手を……握った……?」
その発言に、花子は目をまん丸にして、驚いた様子を見せる。
この座敷童がここまで驚いた顔をするのは珍しいなと、その表情を凝視していると、花子は怪訝な様子で、こちらに声を掛けてきた。
「どうやら、今日はお前も………何かがおかしいようですね」
「へ? おかしい?」
「だって、そうでしょう。普段のお前ならば、不用意に女子の……穂乃果の身体に触れるようなことは避けるはず。それなのに、何故、今日はあの子の手を握ったのですか? どうせ、穂乃果の方から手を握ってくれと懇願してきたのでしょう?」
「は、はい、それは、そうですが……」
「それを受け入れること自体が、私の中にあるいつものお前の行動と合致しません。お前………まさかとは思いますが、穂乃果のこと―――――」
「な、何をそんなに二人で密着して……コソコソと話をしているですか!! 花子ちゃん!!」
突如、花子とオレの間に、穂乃果が割って入って来る。
そして穂乃果は頬をタコのように膨らませ、花子のことを鋭く睨みつけた。
「花子ちゃん! お姉さまに、あまり近付かないでください!!」
「え? ほの、か……? ど、どうしたのですか、突然、そんなに怒りだして……?」
「怒るのは当然ですっ!! 花子ちゃん、お姉さまに密着しないでください!! お身体に触れることもやめてくださいっ!! それは、私が許しません!!」
「…………穂乃果。どうして貴方に、そんなことを止められなければならないのですか?」
「それは………それはっ……」
そう言って、穂乃果は、自分の言っていることのおかしさに気が付いたのか。
突如、意気消沈したように顔を俯かせる。
「………ごめんなさいです、私、何か変なこと言っちゃってました……」
そう口にして、穂乃果は泣きそうな顔で、オレのことを一瞬見つめる。
そしてそのまま彼女は走って、バスターミナルがある駅の外へと消えて行った。
「………あっちゃぁ、穂乃果ってば、楓っちに完全にめんどくさい彼女ムーブしちゃってるよ……。てか、あの子がここまで本気だったとは、あたしも気が付かなかったなー」
そう言って、陽菜が後頭部を掻きながら、こちらに近寄って来る。
そんな彼女の様子に花子はコクリと頷くと、オレにジト目を向けてきた。
「青き瞳の者。お前がどういう行動を取るのかは、お前の勝手です。ですが、その気もないのに、あまり思わせぶりな態度をあの子に見せるのは感心しませんね。お前はもう少し自分がモテるのだということを、自覚した方が良い」
「………仰る通りですね。反省します」
「…………まぁ、少し、お前の人間らしいところが見えて、フランチェスカさん的には悪くはなかったですがね」
「え?」
「可愛い女の子に言い寄られて、手を握るのを受け入れるほど、お前がまだ他人に興味があったことが驚きだったのですよ。普段のお前は、皆と仲の良い雰囲気を醸し出しつつ、その内底では、どこか他人と線引きしている気配がありましたから。逆に健全で安心しましたよ」
「………花子さん……」
「フランチェスカさんです」
「あのぉ~、二人して何ムズイ話してんの~? 早く穂乃果追いかけようよ~」
「そうですね、陽菜さん、急いで行きましょう」
「フランチェスカさんは、走るのが苦手なので、お二人であの巨乳メンヘラ女を追いかけてきてください。私は後からゆっくり行きますので」
「うっさい、あんたも来るんだよ、中二病女!」
陽菜に腕を引っ張られ引きずられつつ、花子は嫌々、オレたちと共に走って行く。
……穂乃果の変化。オレの変化。
それが何なのかは……正直、薄々気が付いてはいる。
だけど、それは認めてはならない。だって、認めてしまったら……オレは、彼女を完璧に、裏切ることになってしまうのだから。
穂乃果ルート第五話を読んでくださって、ありがとうございました!
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